構え
構え
竜胆の眼前に大きく変形した拳が迫ってくる。その拳と呼ぶには少々いびつ過ぎる形の物が竜胆に当たると、後方へと吹き飛ばされていく。
吹き飛ばされながらも、床に何度も手を付き足をかけ、勢いを殺すと壁の寸前で着地した。
拳が当たる衝撃音が行内に響いたにもかかわらず、竜胆の身体に傷はなく髪型すら乱れていない。何事もなかったかのように再び上着を畳み始め、床へと静かに置くと腕時計を見た。
「さて、それでは御相手をいたしましょう。時間は10分で、次の予定がありますので。」
ネクタイの先ををシャツの胸ポケットに入れ村重の目の前に立つと、甲高い何かを打つような音が行内に響き渡った。勇司の目には何も映らず、何もなかったかのように相変わらず向かい合っている二人が見えるが、さらに音が二回聞こえて村重の膝が折れる。
「勇司さんのとはレベルが違いますね。茄子と天照大神程度の違いがあるようです。」
「つうことは今のローなのか。あんなのくらったら多分、踝と腓骨が取れるな。それにしても俺には見る事すらできないぞ。」
その間にも体制を立て直した村重が両足を肥大化させ、筋肉で竜胆の蹴りを受けきっていく。
「蹴りが早いのもありますが、異常なほど引き戻しが早いですね。何より異常なのがこの動きほとんど特技を使っていませんよ。」
「マジか?じゃあこれほぼ天然の強さって事か。何をどうしたらこうなれるんだよ。」
勇司の疑問をよそに、二人の戦いは狭い行内で慎重に続けられていた。
違和感を感じる程の太い足が竜胆目掛けて真っ直ぐに伸びてくる。足の射程外ギリギリに下がり、伸びてきた足を掴み瞬間的に足首を捻ろうとするが、足先の力だけで対抗しすぐに振りほどいた。
すると村重は両手を広げながら、ゆっくりと追い込むようにすり足で竜胆に近づいていく。迫る筋肉で膨れ上がった肉体に、竜胆は両手を下げた状態から拳を顔面に打ち込みつつ下がっていく。
連続で放たれる拳の衝撃を全て、肥大化させた首の筋肉で吸収し、攻撃することなく足だけを進めていき、徐々に行内の隅へと追い込んでいった。
下がっていく竜胆の足が壁に当たり、二人の動きが突然止まる。村重は小学生のような笑みを浮かべると右腕に力を込め、その腕は自らの胴体程度にまで太くなっていた。
「さて、ここまでお膳立てしたんだ。避けてくれるなよ。後ろは柔らかそうな壁だしな。」
村重からの言葉を聞きつつも、竜胆は腕時計にチラリと視線をやりポツリと呟く。
「もうじき時間ですね。これ以上時間を使うとと予定が狂いますので最後にしましょう。」
右腕を振りかぶる村重に対し、竜胆はここで始めて構えらしい構えを取るのであった。
何やら予定より0班員が増えてきました。これ以上増えないように気をつけねば。




