因縁
因縁
その男は柔らかな物腰で話し掛けてくる。その男の第一印象は一言で言えば柔和なサラリーマンであろうか。
「あの、お呼びでしょうか?何か問題でも起こりましたか村重さん。今は外回りの最中なのですが。」
男は座っている勇司に目を向けると、近付き膝をつく。
「少しだけ痛むよ、力を抜いて。」
脱臼した足に手を伸ばし軽く掴むと、一瞬痛みが走るが綺麗に股関節は入れられ勇司は足を動かす。
「これでしばらくは大丈夫かな。後で医療班に見てもらうといいよ。」
「ありがとうございます。あなたはもしかして0班の方ですか?」
男はポケットから名刺を取り出し、丁寧に勇司に渡してくる。
「0班の斉藤 竜胆です。同じ局員としてこれからよろしくお願いします。」
軽く頭をさげて挨拶し握手を交わすと、勇司は感動を覚えていた。
(初めてだ・・・。これが正しい理想の0班の姿だよな。なんて素敵にそして自然に憧れる事ができるんだろう、0班なんて変人の集まりだと思ってたよ。)
竜胆は勇司の軽い治療を終えると、踵を返し銀行から出ていこうとするが村重が慌てたように声をかけた。
「ちょっと待てっ!何自然に帰ろうとしてるんだ、少しくらい相手していけよ。」
「ああ、ここに呼ばれたのはそれでしたか。脱臼の治療ではないと。それは失礼しました、では御相手させてきただきます。」
竜胆は軽くネクタイを緩め、村重の前に立っている。その姿は身長も高いわけでもなく、中肉中背という言葉がよく似合う。
そして迫力と圧迫感を感じる村重を目の前にしても、緊張の色が欠片すら見えていない。
「久信、一体あの人誰なんだ?お陰様で股関節も元通りだ。お歳暮とか送ったほうがいいかな?」
「あの方は0班の斉藤 竜胆、特技は【ジャパニーズビジネスマン】だったはずです。あの方は特局の中でも相当の実力者だと聞きますよ。」
勇司は竜胆の姿を上から下まで眺めるが、どこをどう見てもただのサラリーマンにしか見えず不安を覚える。
そして自らが竜胆と戦うシミュレーションしてみると華麗なローキックが炸裂して、見事に勝利を収めていた。
「なあ、大丈夫だよな?あの人きっとここから八段階くらいの変身を残しているんだよな?」
「何言ってるんですか勇司さん?強さは幼女への愛情で決まるわけではないのですよ。竜胆さんはあのままで十分にお強いはずです。」
村重は腕を肩まで上げ、肘を曲げると構えを取り竜胆を見ながら今までにない程の笑顔を見せている。
「あんたに逢いたかったんだよ。これはもう久々に興奮してるな。」
村重の言葉を聞き竜胆はビジネスバッグから手帳を取り出し、過去のスケジュールを調べていく。
「10ヶ月ぶりのようですね。まだ今日は先の予定も詰まってますので御相手する時間はあまりないのですが。」
「そんなつれないこと言ってくれるなよ。こっちは収監されている間も、戦うのを指折り数えて待ってたんだ。早く出るために罪を軽くするのは大変なんだよ。」
堪えきれなくなった村重は右腕の筋肉を肥大させ一気に突っ込んでいく。竜胆は手帳をバッグに仕舞い、上着を脱ぐと丁寧に畳みながら横目に村重の突進を眺めるのであった。




