準備運動
準備運動
勇司と久信は特に囚われた様子もなく、銀行内でのんびりとした時間を過ごしていた。その中、勇司はある事に気付く。
「なあ久信、一つ気になるんだが村重さんは何の罪になるんだ?脅迫とかか?」
「なかなかに難しいですね。誰も傷付けはいないわけですし、業務妨害などに当たるのでしょうか?ここまで全て見てきたわけですが、案外と手慣れた様子ですね。」
村重は笑みを浮かべながら椅子に座り、何かを待ちきれないように軽く貧乏揺すりを繰り返していた。
外からは拡声器による、警察の声が聞こえているがその声には耳も傾けず、村重は戦闘に向けての準備が進めていく。調子を確かめるように、大腿筋の筋肉の太さを自在に変え拳法着の下の太ももが生き物のようにうねっていた。
「それ何してるんですか?ちょっとばかり不気味な動きですね。人間の体ってそんな風に動きましたっけ?」
「これか?俺の特技だよ。多分もう少しなんだ、もう少しで来る予感がしてるんだよ。だから準備運動をしないとな、よかったら付き合うか?お前らも特局だし何もしないわけにもいかないだろ。」
二人は村重の言葉を聞くと、少しだけ表情に緊張が走り体にも力が入る。
「おいおい、そう緊張しないでいいだろ。準備運動だから手加減はしてやるよ、こっちからは手は出さないでやろうか?」
その言葉に勇司と久信は椅子から立ち上がり、軽く体を動かしていく。久信はロングコートのシワを伸ばし、屈伸しながら村重の立ち姿を眺めていた。
(先程の見込みはまだ甘いようです。これはいくらハンデ頂いても勝ち目は薄いですか。まあ、準備運動という言葉を信じて0班の到着を待ちましょう。)
「村重さん、随分手馴れているようですが、以前もこのように同じ事を?」
「そうだな。確かこれで15回はやったか?なかなか他に被害を出さないように0班呼ぶのが難しいんだよ。問題は誰が来るかだな、吸血鬼の娘とあのでっかいの来たらどうするか?相手としてはいいんたが、銀行自体がなくなりそうだしな。」
勇司と久信は話に出てきた二人の姿を思わず頭に浮かべていた。以前見た小柄な吸血鬼と、巨漢な不沈艦の姿が頭の中で登場し自らが戦う様子を想像したが、考える間もなく惨敗し勝負にもなっていない。
たしかに久信の目には村重の実力は、0班に近い物があると映っており、最初から勇司と二人で戦うという選択肢は考えてすらいなかった。
しかし準備運動とはいえ、村重と手をあわせるという事に久信は自分の心が高揚している事に気付く。
(これは・・・。我ながら、らしくないといった所でしょうか。ですが練習としては申し分ないですね、多少性格的に変わった方ではありますが。)
久信は自らの気持ちを押し殺しながら、勇司に近付き耳元で呟く。
「勇司さん、お先にお願いします。今回は0班が来るまでの繋ぎですのでじっくりとどうぞ。」
見るからに不満そうな表情を浮かべ、勇司は村重を見ながらすでに弱気の虫が騒ぎきっていた。
「お前そうは言ってもな、相手が強敵にも程があるだろ。あの顔と雰囲気と考え方が全体的に怖えよ、せめてお前から行けよな。」
「まあまあ、そう言わずに勇司さん頑張って下さい。勇司さんが突っ込み陽動、そして私が後詰めというのが定番じゃないですか。華々しく散ってきて下さい。」
勇司は渋々ながらも、ブツブツ言いながら前に出ていく。
「散るのが前提なのかよ・・・。まあ、せっかくだし男らしく散ってくるわ。」
そして村重は笑顔を浮かべながら待ち構えている。準備運動というにはハード過ぎる相手に、勇司は煙草入れを取り出し銀行内で向かい合うのであった。
我ながら気付きましたが、ネーミングセンスが
皆無ですね。名付け親になるのは難しいようです。




