銀行
銀行
勇司と久信は二人で小さい銀行の店内で一台しかないATMに並んでいた。中には客が二人を含め五人、行員四人というかなり小さい規模の銀行である。
前でATMを操作している御老人の女性はすでに操作を始めて、五分近くが過ぎようとしていた。
「久信、なかなかに貯金とは増えないものだな。」
「そうですね。将棋の駒に8万円、盤に12万なんて使うからではないですか。ちなみにそれ、この前セットセールで7万円切ってましたよ。いい買い物が出来ました。」
悲しい報告聞き、さらに寂しい財布の中を見て勇司はため息をつく。
「なかなか人生うまく行かないもんだな。新しく始まった将棋くじでも買って、一発当ててみるか?」
「あれは難しいですね。始まって以来買っていますが、当てるのはなかなかに困難ですよ。勝敗だけでなく、投了までの大まかな手数まで予想せねばなりませんから。」
会話を続けていたが、未だ前の御老人のATMとの戦いは続いており暇を持て余していると、銀行の自動ドアが開き、二人は思わず目を奪われた。
そこには裸足で筋骨隆々の男が立っている。ボロボロになった上下黒から灰色にまで色落ちした拳法着に身を包み、捲られた袖からは異常に発達した二の腕に、常人の二倍の太さはあるであろう手首、そしてさらに目を引くのはズボンの上からでも筋肉の形が分かりそうなほど鍛え込まれた太ももが主張していた。
自動ドアから銀行内に足を踏み入れると、その風体の異様さがさらに際立つ。坊主頭で見るからに長い期間、自らを厳しい環境に晒していたのかが分かるほどの、消えない傷が無数にはしっていた。
見た目からイメージ通りの低く、野太い声が行内に響く。
「さて怖い怖い強盗さんだ。警察呼んでも無駄だから、特局呼ぼうかっ!電話番号は分かるか?分からないならこれがメモだ。」
行員達は一瞬何が起こったのか分からないといった顔をしていたが、すぐに非常ベルを鳴らし電話を掛け始める。
勇司と久信も事態を掴みかねていたが、非常ベルの音を聞くと気持ちを切り替えていき、勇司が直ぐ様動こうとするが、久信が肩を掴み行動を止めた。
「勇司さん、辞めたほうがいいです。あの方相当に強いですよ。そして少し妙な雰囲気ですし。」
「そこまでやばい相手なのか?たしかに前から歩いてきたら道を空けるが。」
久信は行員と話している男をじっくりと眺めて、深く頷く。
「ええ。あの方が玉乗りしながら、あやとりしつつ、しりとりを同時進行しながら戦えばいい勝負になるかもしれませんね。」
「よく分からないけど凄まじい差があることだけは伝わったよ。そりゃあ勝てねえな。」
そして行員達は明らかに一番年上であろう男を残して、銀行から出ていくと窓口にいたお客も外へと出していく。筋骨隆々の男はATMの前で未だに悪戦苦闘している御老人を手伝い、現金をおろすと手を貸し外へと連れて行った。
行内に男は戻ってくると、警戒した様子もなく二人の前に立つ。
「ここから出ていっていいぞ。支店長が一人いれば問題ないからな。いたら怪我する可能性もあるし、早く行きな。」
勇司と久信は顔を見合わせると、軽く頷きあう。すぐに男に対しIDカードを見せると、少しだけ驚いたような反応を見せる。
「特局の者です。先程の話を聞きましたが、何か特局にご用事でしょうか?あまり、強盗の類いには見えませんので。」
「そうかそうか、それはちょうどよかった。0班の斉藤という奴を知ってるか?」
男は楽しそうに喋りかけてくるが、勇司は名前に覚えがなく、久信は一人の男の姿を思い出していたが、少し考えて言葉を返す。
「名前ぐらいは聞いた事がありますが、あまり詳しくは。お知り合いですか?」
「顔見知りよりはもう少し上だな。まあ、斉藤と逢うのが今回の動機ってやつだよ。あっ、支店長さん悪かったな。ここから出といてくれ、なるべく銀行は無傷で返すからよ。」
そして行内には三人が残り、外はすでに警察が到着し囲まれているが、男は気にせず椅子に座り時折外を見ながら待ち人を待っていた。
「まあ、銀行の人達が人質になるよりはよかったのか。すみません、ところでお名前は?」
勇司からの質問に、手持ち無沙汰に机の上にあった紐であやとりをしていた男が答える。
「自己紹介がまだだったか、それは悪かったな。村重 稔、特技は【筋量増強】だ。短い間だろうけどよろしく頼む。」
そして容疑を犯す所の一部始終を見ていた二人は、容疑者である村重と三人で不思議な時間と空間を過ごしていくのであった。
三章も終盤戦です。あと、二つから三つ事件が起こると四章に入ると思います。ここまで読んで下さった方、感謝感謝です。




