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勇者は二人、死に戻る  作者: 川村五円


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勇者と今後の方針

 レイとルーチェは増えた道連れを交えてこれからの話を始めた。


 その中でレイがおもむろにクライグを採点する。


「クライグ君はちょっと実力不足かなぁ。師匠にかなり鍛え直してもらわないとね」


 千年の魔王として何度も戦った観点からの査定だ。


 魔法使いとして上の方にいるのは間違いないが、これからレイとルーチェがやろうとしている仕事を手伝うには力が足りなさすぎる。


「いったい学院で何を学んでおったのじゃ」


「が、学院では余裕で一番だったんです」


「阿呆め。それで天狗になりよったな」


 フィツが淡々と嘆き、クライグが言い訳する。


「聖女、剣聖、賢者の中では一番下だったかな。一人だけ格落ち」


「なっ……!」


 レイのその評価にクライグは不満を覚えたようだったが、師匠の手前なにも言い返すことができない。


 ルーチェはふと興味を持って聞いた。


「フレイアとボルダートはレイの中ではどういう評価なの?」


「ボルダートは一応まあまあ。及第点かな。フレイアは……神聖魔法は一流だけど、なんだか動きに迷いあったね」


「迷い?」


「うーん……勝ってルーチェとの旅を終わらせるのを躊躇《ためら》ってた……のかもね」


 レイのその答えにルーチェはやや神妙な顔となった。本当にそうだったならいいのだが。


 それからルーチェはクライグに向き直って言った。


「そういえばフレイアとボルダートはどこにいるの? いっしょに僕を探していたんじゃ?」


「知らん。興味ない」


 クライグはいい笑顔で言った。その頭をフィツがぽかりと殴る。


 話を聞くに、どうやらほかの二人とはそれぞれ別行動を取っており、王都で別れて以来、クライグは一切その消息を知らない。


「ボルダートはいつもの何を考えてるかわからん顔だったが、フレイアは絶対に逃がさないと息巻いてたな。目が完全に据わってたぜ。まあ玉の輿に逃げられたみたいなもんだからな、あれにとっちゃ」


 性悪の笑みがにじみ出たクライグをフィツがまたぽかりと殴った。


 その横でルーチェは思い出していた。フェルドで錫杖を握りしめて待ち伏せしていたフレイアの姿。瞳の表情までは良く見えなかったが、周囲の武僧らはずいぶんと物々しく数も多かった。


「そんなに殴らないでくださいよ!……いや、殴ってくれてもいいですけど。とにかくあいつらが何を考えてるかなんて知ったこっちゃない。そんなことより俺はこのまま師匠と隣国に逃げるつもりだったんです。いざとなれば今からでも」


「たわけ。なぜわしがお前と逃げなければならん」


 それからまたもや始まった師弟の掛け合いにルーチェはおかしくなって少し笑った。


 二年の間、まったく見なかったクライグの顔。もしかするとフレイアやボルダートにも同じように自分に見せない顔があったのだろうか。


「フィツ、ついでにルーチェにも精霊魔法を教えてあげてよ。そこの賢者がサボってたせいで勇者のくせにほとんど魔法が使えないんだ」


「ふむ……」


「必要以上に勇者に教えるなって言われてたんですよ!」


 フィツが軽く睨むとクライグは自分の責任ではない、という態度で弁明した。


 聖女、剣聖、賢者はそれぞれ勇者の師となる存在でもある。


 聖女は神聖魔法を、剣聖は剣術を、賢者は精霊魔法を教え、勇者を鍛えていくのが役割のひとつだ。


 もっともルーチェの代からは、やはり勇者が手に負えなくなることを恐れ、最低限のことしか教えない方針となっていた。ゆえにルーチェはほとんど異世界人としての体力と死に戻りのゴリ押しだけで戦ってきたようなものなのだ。


 ルーチェはそんな話自体を初めて聞いた。


「じゃあレイは色々と教わってるんだ」


「剣術は才能がなかったんでちょっとイマイチだけど、神聖魔法や精霊魔法はお手の物さ。精霊魔法はぶっちゃけクライグ君より使える。順序から言うと私の方が妹弟子なんだけど、あれれぇ~? すっかり兄弟子を追い越しちゃってるなぁ」


 最後はわざとらしくからかう響きになったレイの言葉に、クライグはまたぐぬぬと何か言いたげな顔となったが、やはり何も言うことができずに黙った。


 そこでフィツが言った。


「いや、勇者の指導は賢者の役割じゃ。大賢者たるわしはそこの賢者を叩きなおす。クライグは修行の一環としてルーチェを教えよ。人に教えるのは勉強になるぞ」


「はい!」


 クライグの表情がくるりと変わり、脊髄反射のいい返事が出た。ルーチェは正直フィツに教わりたい気分だったが、大賢者様がそう言うのならば仕方がない。


 ついでにレイが思わぬ名を出した。


「剣の師匠もいた方がいいねぇ。ボルダートを探そうか」


「探す当てはあるの? というか見つかっても平気?」


「まあね。彼の行動パターンもいくらかはわかる。たぶん味方に引き込めるよ」


 レイはルーチェに得意げな顔を見せた後、笑顔で言った。


「神聖魔法は今まで通り、私が教えてあげるよ」


 実は旅の間も少しずつ神聖魔法の手ほどきを受けていた。おかげで今のルーチェは小回復と解毒の魔法を使える。


 妙な形で再会した賢者。そして次は剣聖を探すという。


 ルーチェは思わず自分の聖女の顔を思い浮かべていた。できればフレイアとも話してみたい。しかし一方で会いたくない気持ちもあった。再会した彼女からどのような言葉を投げかけられるのか。それが少し怖い。


 やがて話し合いの末、次の目的地が決まった。


 ここから来た道を戻り、鉱山都市から南へ向かう。目指すは隣国との国境いに近い小さな町、オクトラクルム。そこにはボルダートの家族が住んでいる。


「途中でクエストも二つほどこなしていく。仮に剣聖が空振りでも退屈な旅にはならないはずだよ」


「クエスト?」


 初耳の話にフィツが聞き返す。


 レイは改めてこれから自分たちのこなしていくクエストについて説明した。


「ああ、最後の戦いに備えて戦闘経験を積んだり、戦いの役に立つアイテムを探したりとか、そういうやつか」


「そうそう。そのタスクをわかりやすくクエストと呼ぶことにしたんだ」


 そこでクライグが控え目に手を挙げた。


「あのー、最後の戦いって何でしょうか。よく考えたら何を手伝うのかまったく聞いてないんですが」


「女神と戦って倒すんじゃ」


 そちらはすでに聞いていたフィツが端的に説明したが、クライグは得ず要領な顔をしている。


 女神というのはあの女神? 勇者召喚できないようにする? なぜ? などと何往復か質疑応答していたが、最終的には「なるほど。とにかく師匠が行くなら俺はついて行くだけです」と、尻込みもせずに納得した。


 意外と肚が据わっているのか、事の重大さがわかっていないのかは不明である。


 レイはフィツが言った戦力強化以外にもクエスト対象の条件を付け加えた。


「ついでに放置しとくと今後まずいことになるやつも片付けていくよ」


 つまりランクEクエスト『アーレイン湖畔のゴブリンの殲滅』のようなアレだ。


 もちろんこの世界の住人でなく、間もなく去るレイとルーチェにそんなことをする義理はない。だがレイにはこの世界で知り合い、放っておけない間柄の者もいくらかはいる。フィツももちろんその一人だ。となればルーチェもその仕事を手伝うにやぶさかではない。


「すまんのう。うちの国がへっぽこなおかげでお主らには苦労をかける」


 フィツが軽くため息をついた。


「そういう本当の勇者らしい仕事だったら望むところです」


「そうそう。つまらないケチがつかなければいくらでも、ね」


 ルーチェとレイはそう言って微笑み返した。

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