第75話 相反する能力
「リオ!我もう暴走しないかもなのだ!」
そういって彼女のきれいな碧緑の髪と目を暴走した時と同じような赤色に染め、ニコニコしながらこちらに向かってくる光景に、僕は思わず――
「は?」
と最愛の彼女に対して呆れるような、安堵で肩の荷が下りるような感情になりながら発したのだった。こうなるまでの経緯を少しだけ説明する。僕たちはセントルビー最終日に極秘クエストとして溶岩流による暴走を抑える薬の実験をヴァルキーで行うこととなった。最初は僕も彼女も反対だったが、様々な情報や条件により、ヴァルキーは渋々実験を受けることとなった。その際、今いる実験場所まで来るためにヴァルキーには目隠しを付け、僕が手を握る形で誘導していった。街で復興を始めている住民や冒険者からはなにやら温かい目や冷ややかな目など様々な目線を受けたが気にせず歩いて行った。そして途中僕たちがこの町に入るときの通った今も溶岩流が流れる橋を通過し、そしてミヒ川のほとりにある実験場所までやってきた。
そこでやっとヴァルキーに目隠しを外してもらい、溶岩流を眺めてもらったというのが現在である。
「もう暴走しないって本当かな?というかその姿は?」
「これは、僕が最初に対峙した暴走した時のヴァルキーの姿です。頭の痛みが引いたらすぐにこの姿になりました。」
「我はそのタイミングで気を失ったと思っていたのだがな~」
「以前のこの姿の時はどんな感じだった?こんなにしゃべってた?」
「いえ、ゴアア、とかグウウとかしか言ってませんでした。この後は前にも言った通りあと2段階変化してドラゴンになっていました。」
「へえ~ヴァルキーちゃん、なにか体に変化はある?」
「そうだな~なんか体にエネルギーがみなぎっている感じはあるのだ、あと…」
といって手から火を出し始めた。
「火の魔法が使えるようになったのだ!」
「ええ!?水だけじゃなくて火も!?」
「え?そもそも魔法って?」
そうだった、この世界の人に魔法は通じないのだった。そうして、僕は逐一魔法のこととヴァルキーは以前から水の魔法は使えたが、今初めて火の魔法も使えるようになったことなどをニオさんに説明した。
「なんか、謎が謎を読んでいて堂々巡りになっている感じがする…まあそれは良しとして、ドラゴンの姿にもなれるって言ってたけど今なれる?」
そう聞くと、ヴァルキーは元気よく『出来るのだ!』と答えて体が光に包まれたと思ったら赤色の西洋ドラゴンに変化していた。前の細胞増殖変身ではないようだ。
「リオ!我のこの姿どうなのだ~?」
ヴァルキーは龍の姿になっても声が野太くなったり聞き取りずらくなったりせず、人型の声をそのまま発する。そのため、とても勇ましいドラゴンの姿とは裏腹に可愛らしい声が聞こえてくる。僕は彼女の声掛けに対してこう答えた。
「ヴァルキー!似合ってるよ~!かっこいいよ~!」
「む…あっちの姿とこっちの姿どっちがいいのだ…?」
どうやらヴァルキーを不安にさせる言葉のようだった。そいうことでここで僕は一般的に正解だと思う回答をすることにした。
「もちろん、どっちもだよ~!」
そういうとヴァルキーは喜び、自身が龍であるのを忘れてドシドシ飛び跳ね始めた。これにはニオさんも
「ちょっと!リオ君!ヴァルキーちゃん止めて!土煙が!目に…痛っ!」
僕はヴァルキーに行って落ち着かせ、次の実験に移ることにした。実は今回の実験はこの薬の臨床試験だけではなかった。薬で暴走が落ち着いた際、以前話していたこの姿になれたらさらに実験を追加するというものなのだ。ということで、僕はヴァルキーにとある指示をした。
「ヴァルキー!今の状態で何か魔法使える?」
「う~んなんか出せそうな感じはあるのだ!やってみるのだ!」
そういうとヴァルキーは本能的かはさておき、吸い込む動作を始めた。恐らくブレスであろう。そうしていると見る見るうちにヴァルキーの喉の奥の方が光出し――
「上向けてね!」
という僕の掛け声の後快晴が広がるセントルビーの青空に一本の炎ブレスを吐き出した。やはり炎属性の魔法が使えるようになっているようだ。すると、魔法を使い終えたヴァルキーから魔法の感想が聞こえてきた。
「リオ!この魔法熱いのだ!一応この体は熱さに耐性があるとはいえ、慣れないのだ…」
元々ヴァルキーは水龍、水を吐き出すのが主流だ。当然である。とりあえずこれから何度も使って慣れていくようにすればいいだろう。次にあの時の戦いを思い出し、僕はこんな指示をした。
「次は爪でひっかいてみて!空中でいいから!」
そういうと両腕に生えている爪を振り上げ、思いっきりおろした。すると、僕のフ流の上級技である斬撃飛ばしのような技が3つ同時に出てきた。これでは僕の上位互換だ…僕たちはその後も実験を重ね、一応現段階での暴走の危険は低いことが分かった。しかし、これからまた別の出来事で暴走する危険もある。そういった意味では、僕にはこれを受けても責任がのしかかり続ける。僕はその覚悟はもうできている。ちなみに、実験の最後でレッドドラゴンから水龍に変身できるかと聞くと、先ほどの光変身ではなく、細胞変異型の変身で、僕は心の中で少し興奮していた。ヴァルキーは実験を終えると、普段の姿に戻り、僕の元へ駆け寄って腕を絡ませてきた。べったりな様子である。
僕とニオさんは共同でこの実験の報告書をまとめ、この後はギルドマスターのみが使用できる郵便ルートでボスティール研究所に情報を送る予定のこと。バレるとゴルドナ中に混乱が生じるからである。そうして、僕たちは最後のクエストを終え、客人宿泊室に戻った。
「最初はどうなることかと思ったけど、溶岩流での暴走はしなかったのは助かったね…」
「いや~本当なのだ!また頭痛くなったらと思ったらもうドキドキしてたのだ!でも、実は溶岩流を見たとき、なんか頭の中にいろんな情報が入ってきたのだ!」
「へえ~…え?それを先に言おうよ…」
「あ、やっぱり行った方がよかったやつか?」
「もちろん!それでどんなことが頭に?」
「まずは、さっきの炎のスタイルなのだ!急にイメージが浮かんできて、その通りに変身したらできたのだ!今もすっとできるのだ!」
というとすぐに再び髪色を変えた。そして、また碧緑に戻った。
「な?だからその日のリオの気分で髪色が帰られるんのだ!ふっふ~んすごいでしょ~?」
「なかなか便利な使い方もあるんだね」
「今思いついたのだ。そして、次にあのドラゴンの姿のイメージとブレスのイメージが入ってきてそれ通りにやったらあんな感じでいろいろできたのだ!」
こうやって聞くととある幼児用戦闘アニメキャラクターたちの変身するときのポージングを彷彿とさせる現象だなと感じる。
「これから野宿するとき焚火には便利になるんだな、なんというか助かるというか…」
「リオも早速我の能力を別の形で使おうとしてるのだ!まあでも我の能力が便利な方向に使えて、リオの役に立つなら全然いいのだ!」
そういうとヴァルキーは飛びっきりの笑顔をこちらに向けてきた。だからその笑顔に弱いんだって…その後、夜にも様々な実験をし、夜遅くになってから就寝した。
翌朝、僕たちは出発の準備をしていた。これまで滞在して散らばっていた自分たちの物の整理整頓を済ませ、客人宿泊室をなるべく元の形に戻そうとした。そうして数時間、ようやく出発の準備が整った。その時、部屋をノックする音が響いた。
「おはよう、リオ君、今日で出発だっけ?夜遅くまで起きてナニかしてたりしなかった?」
「まあ、平気ですよ」
「ふ~ん、あんまり張り切りすると体に障るからほどほどにね?それで、一応約束事があるとはいえ、リオ君たちには表向きには町の危機から救った冒険者、復興を手伝ってくれた人ってことになってるから一応お礼は受け取って欲しいな」
「分かりました、僕たちも丁度出発の準備が整ったのでそちらに向かいます。」
「一体何がもらえるのだろうな?」
そうして僕はいろいろな感情を持ちながら客人宿泊室を後にするのだった。
どうも、winger86です。いつも本作品をありがとうございます。さて、今回はヴァルキーの第二の能力が開花するお話でしたがいかがだったでしょうか?今までヴァルキーと言えば水属性の魔法や技を中心に使用していましたが、今度は炎系の能力を獲得しました。この相反する炎と水、まるであの水タイプと炎タイプを併せ持つモンスターみたいですね。ということで次回は、ついにセントルビーを離れ、どんどんと南に向かっていきます。お楽しみに。それでは、また次回のエピソードでお会いしましょう。




