第72話 刷新する僕ら
ヴァルキーは起きてすぐに泣き叫びだした。そして、驚くことにまだ病み上がりと言うのに体を勢いよく起こして僕に迫ってきた。思わず――
「え?ちょっ…!」
と叫ぼうとしたが、口が塞がれて喋り切ることができなかった。ヴァルキーは思いっきり僕にキスをしてきた。それを見た医療班の看護師の人が、ニヤついている。そして、唇を付けた後に腕まで後ろに回し、がっちりである。龍人ということもあり、力が強く気を抜けば押しつぶされそうな感じである。その後も約2分間ほどずっとキスをされた。当然美人にキスされた僕は心臓が高鳴っている。これは前好きになった人に告白した以来である。唇を離したヴァルキーはここまでの胸の内を離し始めた。
「我…もうリオに会えない気がしてたのだ…ぐすっ…我が意識を失った後あるだろう?あの後我何か変な場所に閉じ込められてて、意識を保てない状態だったのだ…」
「や、やっぱり乗っ取られてた感じだったんだ…」
「もちろん!我は進んでリオに危害を加えたりなんかしないのだ!それで…体も意識も乗っ取られている間…溶岩流に賭けられていた魔法からとても強い怨念の力を感じたのだ。その強い怨念をそのまま術式にしたような…とても怖かったのだ!まさかリオを憎む感情が生まれるのはやっぱり嫌だったのだ!」
どうやらレドヴァルが僕に攻撃してきた理由はその強い恨みのこもった溶岩流生成の魔法の影響のようだ。
「それで、意識を乗っ取られていたら、突然リオの声が聞こえてきたのだ…確か、今から助けるからな~と、お帰りだったはずなのだ」
よく覚えているなと思った僕である。
「あの言葉はとっっっても嬉しくて、体を乗っ取られているはずなのに胸がどきどきしたのだ…もう一度言われたいのだ…♡」
「助けるからなは、ちょっと使う場面ないけどお帰りなら別にその状況になったらいつでも行ってあげるよ」
「へえ~なんかリオサービスしてくれるのだな、もしかして我が返ってこないかもって心配してくれたのか~?」
ちょっと揶揄うような感じで聞かれたので僕は思いっきり正直に答えることにした。
「もちろんだよ!だって自分の判断ミスで命の危険にさらしたんだよ!それにここ数か月は毎日一緒にいるわけだし、情は生まれないほうがおかしいよね!」
そう語調を強めて言うとヴァルキーは照れた様子を見せた。まさかここまで正直に話すとは思っていなかったようだ。そんな様子が見れて僕も少しうれしい。しかし、ここであることに気が付いた。そう、まだ看護師がいるのである。そこで看護師の方を見ると吹き出しそうになるのをこらえている様子だった。目の前で惚気だしたらそういう反応になるのも当然である。
「あ!ごめんなさい、看護師さん!ついうっかりヴァルキーと話し込んでしまいました!ちょっと人前ではさすがに控えますね…」
「大丈夫ですよ、私このことはお気になさらず…そのまま惚気続けちゃってください♪…ふふ…」
思いの外ノリノリの様子である。だが、僕はさすがに恥ずかしいのでここらで周りから見たらイチャイチャに見える行動をしないようにした。そもそもキスした時点でアウトな気がするけどね。
「看護師さん、ヴァルキーが意識を取り戻したので先生の方に連絡してもらえますか?経過観察という形で…」
「分かりました先生を読んできますね。あ、ちょっとこっちのほうで私時間稼いどくので、あとはお二人でごゆっくり~♪」
そう上機嫌な様子で病室を立ち去った。ヴァルキーは未だにベッドから体を乗り出しているので、僕はもう少し安静にしているように言うと、頬を膨らませながらベッドにどしんという効果音が出るように寝っ転がった。その表情はとても可愛らしい…ん?あ、これ落ちたな僕…キスされただけでとか…やっぱり僕は童の帝だな…。僕はそう実感しつつ、久々の感情に胸が満たされていく感覚を覚えた。
「なんか、今日リオの我を見る目、なんかいつもより我を見ている時間が長い気がするのだ…もしかして…我に惚れたのか?」
ぼーっとヴァルキーの顔を眺めていると、そんなことを言われてしまったので僕は素直に首を縦に振った。
「えっ!?なんだ~最初からがっつり攻めちゃって良かったのだな~というか結構リオチョロいのだな?そうか~ということは我がファーストキスゲットか~嬉しいのだ~」
「浮かれているところ申し訳ないのだけれど、僕のファーストキス5歳…」
「誰だその不届き者は…!」
「それも含めて僕から色々な話があるんだけど、まずは体調を万全にしてほしい。いいね?」
「もしかして正式な愛の告白!?我さっさとここから出られるように頑張るのだ!」
と話しているとちょうどタイミングよく看護師と医者の人が部屋に入ってきた。そして、医者の人がヴァルキーの検診をしていると、看護師の人が耳打ちしてきた。
「どうですか?イチャイチャできましたか?」
「できましたよ、多分そろそろゴールインです」
「なら私も手伝った甲斐がありましたね~おめでとうございます。というか、あなたたちまだ付き合ってなかったんですね」
「まあ僕が断り続けてたので…」
「なるほど、やっとそっちも気持ち自覚した感じですね、どうぞお幸せに」
と耳越しではあったものの、僕たちの仲を応援してくれるようだ。この時、ヴァルキーは検診を受けながらこちらにジト目を向けていた。そして検診が終わり、2人が出ていくと『浮気者!』とこっ酷く怒られるのであった。
先ほどの医者の話によると、ヴァルキーは今あまりに状態が良いらしく、本当ならもう退院できるそうだが、経過観察ということで明日まではここにいるそうだ。ヴァルキーはそれに対して
「長い!もっと早く一緒のベッドで寝たいのだ!寂しいのだ!リオもそう思うでしょ?」
僕が惚れたのをいいことにどんどんと僕に同意を求めてくるようになった。こうしてみるとやっぱりかわいいと思った僕である。僕はまだ離れたくないヴァルキーを何とか説得して部屋に戻った。
「やっぱり惚れるって怖いわ~どう頑張ってもヴァルキーがいつも以上に可愛く見えるし、ドキドキする」
僕は部屋で感情を爆発させていた。果たして僕はこれからヴァルキーと二人で冒険できるのかが心配になってきた。そうして部屋で悶えていると、部屋のドアがノックされる音がした。このリズムはニオさんである。いつも通りの言葉を互いに交わし、ニオさんは部屋に入ってきた。
「失礼するね、ここ数日の復興や研究のお手伝い本当にありがとうね…その様子だとヴァルキーちゃんのこと好きになっちゃった感じか~まだリオ君がヴァルキーちゃんのこと意識してない今がチャンスだと思ったのに~条件別のやつにしたほうが良かったかな~?」
当然のように私利私欲のために職権乱用をしようとしていたギルドマスターである。
「まあ冗談は置いておき、ヴァルキーちゃん意識戻ってよかったね~でもこれからはこの間の約束覚えてるよね?」
「もちろんです、しっかりとこなさせていただきます。」
「流石私が良いと思った男だね!信用するよ!それで、ヴァルキーちゃんが目覚めたということはもうそろそろ出発近いかな?」
「そうですね、多分冒険出来るようになったらすぐに出発すると思います。」
「そうなると寂しいね…そこで提案なんだけど、リオ君たちここセントルビー所属の冒険者にならない?今リオ君たちは確か無所属だったはずだけど…どう?いつでも個々の都市の支援なら手紙一つで受けられるよ?」
身が不安定になる冒険者としては魅力的な提案だった。しかし、僕はこう伝えた。
「お断りします。僕はいろんなところを移動して冒険をしたいんです、どこかの所属になってしまったらこの都市に縛られて思うように冒険ができなくなりますよね?」
「リオ君の意見は御尤もだね、分かったよ、この話は無かったことにするね。じゃあ、もう残り少ないセントルビーを楽しんでね…と言いたいところなんだけど、ミヒ川にはまだ近づかないでね、溶岩流まだ流れてるし…上流のミネアスから報告があったんだけど、未だにその勢いは衰えていないらしいから数か月は流れっぱなしと思っておいたほうが良いかもね」
「分かりました、アドバイスありがとうございます!」
「うん、これが私たちからできる最大限の力添えだから…他にも聞きたいことがあったらなんでも聞いてね?」
そういうと、ニオさんは仕事が残っているらしく、部屋を後にした。僕はセントルビーとの別れの時が近づいているのを感じながら部屋で過ごした。
どうも、winger86です。今回も最後までご覧いただきありがとうございます。さて、今回は理鳳がついにっヴァルキーを意識し出し、二人の関係性が変化していくお話でしたがいかがだったでしょうか?理鳳が前に好きな人がいたのは17歳、高校2年生の時です。その時は直接告白をして振られていたようです。ここから2人の関係はどこまで変化していくのか。お楽しみに。それでは、また次回のエピソードでお会いしましょう。




