第70話 台風一過とはならない
僕は引き続き、鉄の剣を使ってレドヴァルに攻撃を食らわせ続けていた。するとだんだんと体から発せられる紫色の靄の量が増えてきているのが見て取れた。それに伴ってブレスの温度、飛行速度、刃の入り方なども変化しており、少しずつ僕に有利な状態になっていった。しかし、レドヴァルが必死の抵抗を見せる。今まで、ブレスは一回地面に降りてから放っていたが、今度は翼をかなり羽ばたきながらブレスを構えていた。あまりの風の強さに、僕はブレスの妨害をするために近づくことすら不可能だった。ただ、一か所だけ吹く向きが逆の場所があった。それは、ブレスのためレドヴァルが空気を吸い込むことで発生する気流である。この気流は僕が入ってもあまり吸い寄せられないが、物を投げ込むことなら可能である。そこで、僕は切り株に置きっぱなしにしてあったすりつぶしたブリデール草をその気流に向けてぶん投げた。いや、なんで吹っ飛んでないの?と疑問に思いつつも、空中に投げ出された草はその気流に乗ってレドヴァルの口に一直線であった。すると、その草が口に入ろうかというタイミングでレドヴァルの吸気が終わり、ブレスをこちらに放ってきた。羽ばたいている分の風速もあるので、かなり高速かつ高温のブレスが飛んでくるかと思われた。しかし、真正面にいたブリデール草はブレスが直撃して焦げながらも勢いを失うことなく、口に一直線に入っていった。その直後、ブレスが止まり、レドヴァルは咀嚼するような仕草を見せた。僕はまだ残っているブレスを避けつつ、その様子を見守った。するとブリデール草の効果が直接伝わったことで、口から大量の紫のもやを吐き出し始めた。
ゴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーーーー!!!!!!!
レドヴァルは苦しそうな表情へと変化し、もともと体の傷から出ていた靄もその量を増し、ついにその体の崩壊が始まった。しかし、その速度は遅い。僕はラストスパートをかけた。上級の回転突進切りも惜しみなく使い、どんどんとレドヴァルを切り刻んでいった。すると、鱗の奥の方、胸のあたりに先ほどの血液と同じオレンジに光った核のようなものを発見した。僕はそこが弱点と信じ、上級技最高威力を誇る渾身の一撃の構えをした。そのか前に気が付いたレドヴァルが最後の力を振り絞り、こちらに今出せるだけの最大火力のブレスの準備を始めているようだ。その炎は先ほどまでのオレンジと異なり、青色をしていた。温度が上がっている証拠である。そのブレスを貯めるときにできる火球も先ほどとは比べ物にならない。これを食らえば、いくらヨウカビジリスで体力が回復してるとはいえど、致命傷は免れない。今の僕の位置はそういう位置なのだ。
「ヴァルキーーーーー!!!!今助けるからなぁぁ!!!!!!!」
僕はそう叫び、レドヴァルとの最後の総力戦に挑んだ。僕が集中力を高め、力を蓄え終えたタイミングであちらもブレスの準備ができ、両者同時に攻撃を始めた。一瞬の間にブレスと僕の距離が縮まり、僕の衣服は熱で少し燃えていた。僕はその剣で目の前に差し掛かったブレスを切断し、その勢いのまま、核に攻撃を命中させた。すると――
パリンッ!
というガラス細工のような音を立てて、その核破壊され、一気にレッドドラゴンの体の崩壊が始まった。先ほどまで鮮やかな赤色をしていた鱗は見る見るうちに黒色へと変化し、そのまま煤のようにボロボロと崩壊していった。すると、その崩壊する巨体の中に、いつも見かける青緑の髪色の姿が見えた。僕は上級技斬撃飛ばしで煤を薙ぎ払い、煤がついて黒くなっているヴァルキーをお姫様抱っこで抱きかかえた。そしてレッドドラゴンの体の崩壊は終わり、先ほどまで山のようになっていた煤もすでにどこかへと消えてしまっていた。僕は服の飛び火を払い、ヴァルキーにやさしく言った――
「お帰り、ヴァルキー…」
その直後、少し遠くの方に人影が見えた。長い黒髪で降ろしており、一本の剣を腰に身に着けている人…ニオさんである。ニオさんはこちらに気付くと素早くこちらに駆け寄ってきた。
「大丈夫!?さっきこのあたりに大きな空飛ぶトカゲのモンスターがいたんだけど…ってそのヴァルキーちゃんどうした?黒く汚れているみたいだし、気を失ってるけど…」
「それについては後程説明します。今は早くヴァルキーの手当てをしてあげてください…!こっちで持っていた回復薬は使い切ってしまったので…」
「分かった、リオ君は平気そう?見たところボロボロだし…まさか!あのモンスターと戦ってたの!?」
「そうです、何とか勝ちましたけど…それよりも申し訳ないのですが急いでもらいたいです」
「ああ、ごめんなさい、先を急ぎましょう。ついてこれる?」
「大丈夫ですよ」
僕はいつにも増して感情が消えているのを感じた。原因は分からないが、淡々と前頭葉で考えたことを発する機械のようだった。僕はヴァルキーをニオさんに預け、走ってギルドまで戻った。その途中、橋を渡った時にずっと流れている溶岩流を見かけたが、再びヴァルキーが起きることはなかった。まあ起きてもらっても困るけど…そして、走ること15分ほどでギルドにたどり着いた。そして真っ先にあっちの世界で言うところの集中治療室に入り、治療を受けることとなった。僕はそこで胸が締め付けられる感情が涙と共に湧いてきた。
「うう゛う゛…ぐすっ…うう゛う゛う゛…あ゛あ゛あ゛…!」
僕の中で思っていた以上にヴァルキーの存在が大きくなっていたのを実感した。そして、この涙の原因はこれだけではない、実はヴァルキーを持ち上げた際、普段の暖かさは全くなく、むしろ冷たかった。さらに、心音が小さくや呼吸も浅いように見えたので命の危機に瀕していることは間違いない。目の前で自分の大切にしていた命が失われようとしている事実に涙しているのだ。まだ死んだと確定した訳ではないが、目の前に死という文字が転がっている。僕は感情が消えていたのではなく、感情の大きさに体が追い付いていなかったのだ…こんな経験は初めてである。すると周りの冒険者が泣いている僕に気が付き――
「あまりくよくよしてると治るものも治んないぞ!兄ちゃん!」
「そうそう!ここは祈っておくんだ!そして、戻ってきたときに笑顔で迎える準備をしておけ!」
「大丈夫!ここの医者はゴルドナの中でも名医なんだ!あのお嬢ちゃんの容体なんてあっという間に直しちまうぜ!」
などなど温かい言葉をたくさんかけてもらったのだ。それに対して僕は嬉しさのあまり、さらに涙を流し、お礼の言葉もしゃべれないほどだった。少しして、感情が落ち着いてくると、今まで回復薬やアドレナリンで麻痺していた疲労や痛みなどの感覚が戻り始め、苦しくなってしまった。ちょうどそこへ、他の仕事を終えたニオさんがやってきた。
「気分はどう?さぞつらそうな状態だけど…先に体休ませてからにしておく?」
「大丈夫です…」
「分かった、その言葉信じるよ?それで、お願いなんだけど…質問したいんだ。もしかしたら思い出したくないかもしれないけど…あの溶岩流とモンスターについて話を伺ってもいい?」
「はい…それが約束でしたから…もうある程度気持ちの整理はついてますのでできる限りの範囲でお伝えします。」
僕は即答した。そして、もう3度目となるギルドマスターの部屋に案内された。
「じゃあ、早速だけどあの空飛ぶトカゲモンスターのことについて聞こうかな?」
僕はポロポロと事の顛末を語り始めたのだった。
どうも、winger86です。今回もご覧いただきありがとうございます。さて、今回はついに理鳳とヴァルキーもといレッドドラゴンヴァルキーの対決に決着が付くお話でしたがいかがだったでしょうか?今回でやっと戦闘が終わりました。理鳳は何とか変化してしまったレドヴァルに処理し、ヴァルキーを助け出すことができました。しかし、体が冷えていたり、呼吸や心音が少なかったりしたことで理鳳の不安をあおる形となっていましたね。今までこういう感情をあまり表に出さなかった理鳳にしては号泣するというシーンも新鮮さを感じましたね。ということで、次回は戦いの後の様々な事柄に対して進展していきます。果たしてヴァルキーは無事なのか?お楽しみに。それでは、また次回のエピソードでお会いしましょう。




