第68話 草原での戦い
目を赤く染めたヴァルキーはこちらに対して突進しながら腕を引き、こちらに殴りかかってくる動作をしてきた。僕はすぐに反応して盾と剣を取り出し、ク守で最大の防御力を誇る正面受けでパンチを受けた。特訓の成果も出ていたが、それでも後ろに50cmほどのけぞる形となった。いかにヴァルキーの拳の力が強いかが分かる。僕は一応声をかけることにした。
「ヴァルキー!?聞こえてる!?」
大声で呼びかけるが反応しない。どうやら何かによって意識を乗っ取られたようだ。まあ大方あの溶岩流が原因なことには間違いない。すこし考察していると、再び拳がこちらに飛んできた。攻撃の手を緩める気がしない…僕は2回目の攻撃を何とかかわした。
ヴゥゥゥゥゥゥ…
避けて再び、目が合うと、まるでこちらに威嚇するかのような声を出している。本当にヴァルキーだがヴァルキーではない様子。一種の小型モンスターを相手しているようだ。それも一発が即死級の威力を誇るのだから厄介である。ただ、今は…直線的なパンチしか飛んでこないからまだ避けやすいが…こういう中ボス戦は大体あと何段階か変化を残していることが多い。ゲームでも、アニメでも…そうなったときに対応できるかが分からない。そして、この状態をどうやって解消するかも分からない。かなり絶望的な状況である。ヴァルキーは再び攻撃を仕掛けてきた。だんだんと乗っ取りが進んでいるのか、直線的な攻撃ではなく、左右に回り込んでの攻撃に変化してきた。それに対応するために、最大限ク守を活用した。こういう攻撃に対応しているのが側面受けの種類たちである。
ガンッ!ガンッ!
何度もヴァルキーの腕と僕のドラゴンの黒盾の衝突する音が鳴り響く。僕は一旦解決方法を思いつくか、手に負えなくなるか、自身の状況が不利になるまでは手を出さないつもりである。などと考えていると
ドオオンッ!
突然ヴァルキーが地面を蹴り上げ、地面にひびが入り、僕は空中に投げ出された。
「うわっ!どこでこんな技覚えてきたんだ!」
その隙にヴァルキーは一直線で下から殴りこんできた。それに対してク守の下部受けを使った。するとそこそこ高度があり、スピードが若干落ちていたことで体勢を崩されることなく受けきることができた。そして、先に僕が下に落ちると今度は地面を蹴り、重力も利用しながら高速で蹴りを入れてきた。避ける暇も無かったため、僕は上部受けでその蹴りを受けた。
「ちょっ待っ…!重っ…!」
様々な力が合わさりとんでもない強さになっていた。そして、気のせいか重いと発した後、ヴァルキーの憤怒の表情がより一層激しさを増してるように見えた。あれ、もしかして細胞レベルで気にしてる?その後も様々なパターンで攻撃が続き、数分間膠着状態が続いた。これが継続できるのはク守様様である。フ流だとおそらく互いにダメージが入っていた。しかし、このままでは体力消耗で僕が不利になってしまうので、1回カウンターを混ぜることにした。ちょうど左ストレートが飛んできたので、右側面受けをしたついでに、フ流のカウンターでク守より威力を上げて放った。これでやっとカウンターになると考えたからである。すると僕に反して、攻撃が深く入らなかった。もしかしたら、今までの冒険でヴァルキーも強くなっていたのだろう。僕は少し嬉しい気持ちになった。しかし、今は止めなければならない存在。僕は情に流されないようにマインドを保ちながら戦いを継続する。
「どうしよ…これだとマジで僕がきつくなるんだよな~」
僕は少し弱音を吐く。まだまだ体力に余裕はあるものの、いつ限界が来るかは分からない。なにせ、限界まで戦ったことがないからである。今までの戦いは圧倒か、攻撃を受けてダメージで気を失うが多かった。今回は初めての持久戦である。僕は守りの体制を維持しながら攻撃を放つため、盾をそのまま持ってまま戦闘を継続した。今度はこっちから攻めてみることにした。まずは僕のオリジナルであるク守の軽い振り下ろし、ここからはリ下ろしと呼ぶことにする。そのリ下ろしを使って何度も連撃を放つと、僕の連発のペースが速い関係か、ヴァルキーは防戦一方になっていた。ここでフ流の中級技である、高速突きからの縦切りにつなぐ技を使った。そうすると、先ほどのカウンターよりも威力が上がった関係か、片腕に傷をつけることに成功した。
グウゥゥ…!
ヴァルキーはその痛さから後ずさりしながら苦しそうな声を上げた。その皮膚からは血が出ており、見ていて自分まで痛そうに思えた。なにせ今は仲良くなったヴァルキーである。以前とはわけが違う。だが、驚くべきはここからであった。なんと、その傷はすぐに修復してしまった。ありゃ?こんな再生能力あったっけ?と疑問に思う僕だったが、その原因はすぐに分かった。
カ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!
僕に切られた怒りからか、鼓膜を破壊しかねないほどの咆哮を発したと思ったら、ヴァルキーの髪の色が元々の青緑から目と同じ溶岩の赤色に染まり始め、脇を閉めてこぶしを握り、何か力を高めるような動作を始めた。どこかの満月を見ると大猿になる宇宙人たちと似たポージングである。
ウゥゥ…!グゥゥゥゥ…!……ガアアアアアアアアアアアア!
僕はこういう時に大猿さんたちのように変身を見届ける優しさはないので、変身を妨害するように中級技と初級技で畳みかけた。上級技は意図的に隠してある。手の内を明かしてしまったことで攻撃を読まれるリスクを減らすためである。先ほどからこのヴァルキーを乗っ取った何かは、とんでもない戦闘センスと学習能力を秘めている。まさにどっかのアリの王である。僕は中級技と初級技を組み合わせて、上級の次点最大火力技である回転突進切りを発動させた。もちろん、相手は動かないため、攻撃を当て放題の状態である。ヴァルキーの体には見る見るうちに切り傷が入り、数秒の間に無数のダメージを与えた。
シューーーー…
しかし、変身は止まることを知らず、その無数の傷ですら蒸発する音を立ててすぐに回復し、ついにヴァルキーの体に変化が表れてしまった。悔しい!その変化は、まず初めに顔から始まった。目の色と形はそのままに、きれいな皮膚に赤色の鱗が現れ、牙も伸びてきた。元々生えてきたぐるぐる巻きの角はより長くなり、巻き方が若干緩くなっていった。次に、上半身である。今の恰好は腕と足が見える状態なので、それ以外は分からないが、先に腕から顔と同じ鱗が生え始め、手先に向かうと爪が生えてきた。その爪は前に見たマグマドラゴンそっくりである。その鱗と爪たちはついに足先まで広がり、続いていた叫び声も止み、変身が完了してしまった。その間なんと体感10秒ほどである。変身を遂げたヴァルキーの成り果て…もうレットドラゴンと呼ぶに等しい姿をしたモンスターは先ほどまでとは異なる雰囲気を醸し出していた、やはり別の生き物になったという表現がしっくりくる…僕は身軽になるために、持っていた黒剣と黒盾を置き、ハイドさんからもらった最初の剣で挑むことにした。久々に日の目を浴びるその姿は振るうようになってから半年足らずなのに、輝かしく光るのではなく、年季の入った剣のように鈍い色に変化しており、数々の戦場を潜り抜けてきたことが伺える姿をしていた。
「ハイドさん…!力を貸してください…!」
僕は剣の刀身の根元にある僕の銘に向かってそうつぶやくと、覚悟を決め、目の前にいるレットドラゴンと対峙するのだった。
どうも、winger86です。いつも本作品をありがとうございます。さて、今回は暴走したヴァルキーと直接対決をするお話でしたがいかがだったでしょうか?ヴァルキーは何かしらの影響を受けて赤色の人型ドラゴンに変化してしまいました。ここから理鳳はどうやってこの状況を打破していくのでしょうか?お楽しみに。それでは、また次回のエピソードでお会いしましょう。
メモ
レットドラゴン:
後神歴と呼ばれる時代より前に実在していた龍種。ヴァルキーたちの水龍と同様に人型に変身することができるが、水龍とは異なり人型でも鱗や爪が残ってしまうのが特徴。それ以外にも水龍と異なる特徴があるが、それはまた別のお話…




