第67話 変化
突如としてミヒ川を流れてきた溶岩流に愕然としている僕は、その状況が一瞬理解できず、固まってしまった。しかし、すぐに我に返り、状況を把握した。溶岩流は、ミヒ川の上流方面から流れてきている。見た目は通常の溶岩流のように外側が冷えて黒くなっているのではなく、もはや赤色に染まって光る水が流れてきているようだった。速度は大体小走りと同じくらいで、逃げるのには一苦労するように見える。その溶岩流はついに僕たちの居た橋の下を通過し、下流方面へと流れていった。僕はこのことを報告するために、またニオさんの所に戻ろうとヴァルキーに呼びかけようとしたときだった――ヴァルキーは溶岩流を凝視しており、何か様子がおかしい。
「ヴァルキー?どうした?ニオさんに報告しないとこれ、行くよ!」
呼びかけても反応が無いと思っていると突然、ヴァルキーが苦しみだした。
「ぐっ…!ううっっ…!頭が痛い…!何なのだこれは…!」
どうやら頭が痛い様子だ。その痛さは立つことを困難にさせるほどらしく、ついには座り込んで頭を抱えている。にしても突然頭痛なんて変な話である。などとそこまで深く考えずにヴァルキーをおんぶでもして運ぼうとした。しかし、僕はここでとある可能性を思い付いてしまった。溶岩流を凝視していたことからも僕が思いついた可能性は以下の通りである。
1、単純に溶岩流からの赤外線が強く、視神経や脳にダメージとなっている。
2、溶岩流によってトラウマを思い出しそうになっており、拒絶反応で頭が痛くなっている。
3、溶岩流の光によって何かの引き金が引かれ、能力が解放されそうになっているが、その副作用として頭が痛くなっている。
これが1,2なら医療室の方へ連れて行けば解決するが、仮に3だった時にセントルビーが塵に帰してしまう可能性がある。僕は最悪の場合を想定し、ヴァルキーを連れて町から離れることにした。
「ごめん、ヴァルキー…!ちょっと揺れるけど我慢しててね…!」
「リオっ…一体これから……どこに行くのだ?」
「休めそうな場所、一旦この溶岩流から離れる」
「そうしてくれると……うっ…………助かるのだ……痛い…!」
僕は全速力でこの町にやってきた道をそのまま戻り、セントルビーを抜け、途中から街道をそれてさらに周りに何もない草原までやってきた。その中に1本だけポツンと生えている木の下に置こうとしたその時である。ヴァルキーがこんなことを伝えてきた。
「リオ…なんか頭が痛い上に体が熱いのだ…うううっっ…!」
ついには体が熱いまで言い出したのである。そう、これは他のアニメの何かの力に飲まれていくときの形態変化の反応である。僕はそういう方向で考えを進めた。ということは、僕の最悪の想定が始まったということになる。とりあえず、僕はなんとかそれを食い止められるようにヴァルキーに声をかけ続けることにした。
「大丈夫、僕がついてる!頭の痛みなんて吹っ飛ばしちゃえ!何か欲しいものある?」
と声をかけるとヴァルキーは首を横に振り、いらないとジェスチャーをしてきた。そして再び僕が声をかけようとすると――
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!
苦しさがピークに達したのか、途轍もない声量で叫びだし、横になり始めた。僕はその声に警戒してしまい、ヴァルキーとの距離を取ってしまった。少し離れてヴァルキーを見ると、そのヴァルキーの表情は悶絶という言葉でも表現しきれないほど激しいものに見えた。そしてついに、ヴァルキーは突然項垂れてしまった。先ほどまでの苦しそうな表情から一転、疲れ切った表情に変化した。
さらに…先ほどまで目をつぶっていたが、今度は目を開きこちらを向いた。僕は体調不良がある程度落ち着いたのかと思ったが、すぐにそんな考えを訂正した。そう、僕の頭は嵐の前の静けさだと警鐘を鳴らしている。その予感通り、ヴァルキーの鮮やかな碧緑の虹彩はだんだん赤色に変化し、先ほどまでの悶絶や疲れの表情とも違う…憤怒の表情になっていた。え…?やっぱりこれ戦わないといけないやつ?ヴァルキーは…いや、ヴァルキーから変化しようとしている何かは明らかに僕に対して敵意を持っている。僕たちはウォンタリー湖以来のタイマンをすることになったのだった。
*
我――ヴァルキーはリオと一緒に橋のヴァイゾの処理を行っていた。処理は順調に終わり、あまり行きたくはないニオの所へ報告しに行くことになった。その時、遠くの方でかすかにパチパチ、ザー、ボコッボコッという複数の音が混じった変な音がし始めたのである。
「リオ、なんか聞こえる気がするのだが…?」
とリオに聞くと、リオも耳を澄ませる様子を見せた後、すぐにその音を察知して、我にアイコンタクトで急ごうと伝えてきた。我はしっかりその意図を汲み取り、走ってニオの所へ向かい、すぐに報告を済ませてから再び橋まで戻った。ちなみに、報告に行った時のニオのリオを見る表情は乙女そのものだった。今度蹴散らしてやろうと思う我である。端に着くと、先ほどの奇妙な音は先ほどよりも大きくなっており、こちらに近づいているのが感じ取られた。そして、ついにその方向が特定できたのだ。その方向を我はリオに伝えた。
「リオ、川の上流から何か来るのだ…!」
その直後、川の奥の方から真っ赤に燃えた溶岩流が流れてきた。これにはリオも
「え…?何でこんなところに来てるんだよ…?」
と驚いた表情とともに発していた。我も何かを喋ろうとしたその時、急にその溶岩流に目を釘付けにされてしまったのだ。一瞬我も何が起きたのか分からず、思考停止した。すると、溶岩流の光から何かしらの魔法が掛けられ、我は突然脳内に女性の声が響き始めた。
――この世界を破壊しなさい…そして、目の前のあの男性の存在を消しなさい…――
少し年齢が高い女性の声で、口調は至って落ち着いてる。そして、この声と同時に強烈な頭痛に襲われた。我は痛みの余り、立っていられない状態に陥ってしまった。その様子に気が付いたリオは我を抱きかかえて走り始めた。リオが何か我に言っていたが、頭の中の声がだんだんと大きくなっており、上手く聞き取れなかった。だけど、どこかしらに移動していることが分かったのでリオにそのことだけを聞いた。すると
「休めそうな場所、一旦この溶岩流から離れる」
と一言で言った。この時我はかすかにこう言ったようにしか感じられなかったが、リオはこの溶岩流が原因であることも、この後何が起きるのかもなんとなく把握しており、覚悟を決めたような口調と表情だった。我は何が起きるのかが分からず不安で胸がいっぱいになりつつある。そのことを聞きたい我だったが、あまりの頭の痛さに
「そうしてくれると……うっ…………助かるのだ……痛い…!」
としか言葉にならなかった…そして、走ること15分して、草原の真ん中に生えてきた一本木の所にやってきた。我は優しく降ろされ、木の幹に寄っかかっていた。この15分の間に実は自分の状況に変化が生じていた。それは、だんだんと体の内側から何か膨大な力を感じるようになったことである。それに伴って体が燃えるように暑い。そして、脳内にしゃべりかけられていた、世界を破壊する旨の言葉は鳴りを潜めたが、頭はずっと痛いままである。脳内の声が小さくなったことで、ようやくリオの声を聞き取ることができた。そして我はこの現状をリオに伝えることにした。
「リオ…なんか頭が痛い上に体が熱いのだ…うううっっ…!」
しゃべった途端先ほどよりも激しい頭痛が襲ってきた。そして、だんだんと自身の意識が遠のき始めたように感じた。そして、その痛みはどんどんと強さを増し、リオが気を使って何かを用意しようとしてくれたが、我はそれを断るように首を横に振った。そして、その痛みがピークに達し、思わず腹の底から叫んだ。
その直後、頭の痛みがすっと消え、我は体の力が抜けてしまった。そして、我の中に世界に対する…特にリオに対する憎悪の感情が生まれ始めていた。これは我が生んだ感情ではないのは分かる。不思議な感覚だった。その感情を消すために、我は朦朧とした意識の中リオの顔を見た。ああ、やっぱりいつ見てもリオはかっこいい…恋愛感情的なものも湧き上がってきたが、結局魔法によって作られた憎悪の感情に我の意識は飲み込まれ、そこで我の記憶は途絶えてしまった。
どうも、winger86です。いつも本作品を最後までご覧いただきありがとうございます。さて、今回はヴァルキーが溶岩流によって様子がおかしくなる話でしたがいかがだったでしょうか?ようやく、3章の山場の一つに差し掛かってきました。実は、ここまで来るのに書きたいことが増えてしまい、2話ほど延期してから書いていました。まさかこんなに増えてしまうとは…ということで、次回はついに21話ぶりの理鳳とヴァルキーの直接対決となります。お楽しみに。それでは、また次回のエピソードでお会いしましょう。




