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第60話 いつもと異なる移動

僕たちは食事を終えた後、僕は椅子に、ヴァルキーはベッドに座ってのんびりしていた。現在の外の様子は、まあ普通に雲がある晴れ、日は大分傾いており、茜色に色づいている。そんななかでも、このセントルビーとインディンを結ぶ『ナナオ街道』は道幅はそこまで狭くないが、あのレースの影響で前にも後ろにも馬車がおり、そして右横には徒歩で移動する人たちの姿までいたことで窮屈に感じた。そして心なしか騎手さんの顔も険しくなっていた。恐らく、周りの馬車や歩行者に気を使いながら馬車を操る必要があるため、神経を張り詰めていると推測される。そういう訳で僕は騎手さんの運転の邪魔にならないように気になる音を立てずに過ごすことを決めた。


「なあリオ、この周りを見ている感じだとこの先の村も人が多くて宿とかの泊まれるところ確保できる気がしないのだ…」

「そうだね、もしかしたら馬車に乗っているのに野宿みたいなことになるかもしれないな」

「それって前にやったテントで寝るやつか?ここにベッドがあるのにか?(でも、テントの方がリオとの密着度上がっていいかもしれないのだ)」


なんかヴァルキーが小声で何かを言っているが聞こえないふりをしておこう。


「僕たちのためじゃなくて騎手さんのために作るんだよ、騎手さんのための火とテントをね。まあでもこういうことを想定してしっかり準備してそうだけどね」

「あの騎手さんとってもしっかりしているからありえそうなのだ!」


などと楽観的に考えていたが、現実はそう甘くはなかった。インディンを出発してから数時間が経ち、インディンに農作物を届けるという農村にたどり着いた。しかし、この村も通常なら人はそこまでいないはずなのだが、やっぱりリカーゴやニューク、フィランデル並みに人がたくさんいた。この村は規模も小さいため、停車場もなく、人が泊まるところも少ないため満席になっており、それぞれの建物外に行列が見られた。まさしく異常事態である。さらに、悪いことにちょうど馬の睡眠時間を確保しなければならない時間にその村にたどり着いた馬車も多く、その街道の前後にはテントがひしめき合っていた。これではどこかで騎手と馬の回復させることも不可能となってしまった。さあどうしたものか…


「騎手さん、これどうします?どこで泊まりましょうか…」

「まあ、この近辺は無理でしょうね…」


騎手さんの額には汗が流れており、ここまで到着する間ずっと気を張って運転してくれていたのだろう。表情には若干の疲れさえも見える。


「なら、私があともう少し頑張ります…今日はここで泊まっていく人も多いでしょうからこの先ならある程度すいていると思いますから…」

「あまり無理しないでいいですから、と言いたいところなのですが、これじゃあ休むに休めないですからね…」


なにせ、この人の数だ、うるさくて気が休まることなどないだろう、あと防犯上のリスクもある。


「我こんな賑やかなところで寝たくないのだ…」


ヴァルキーも嫌がっていて、騎手さんの頑張りが必須のようだ。本当に申し訳ございません…


「分かりました、しっかりこの馬たちにもあともう少し頑張ってもらいましょう」

「そうですね、ならこの間もらったニンジンをあげましょう」

「それが良いですね」


そうして、冷蔵庫内のニンジンを4本ほど取り出し、この馬車を引っ張る2頭に食べさせた。あとはこれで人が少ないところまで馬車を引くのみである。僕たちは早速馬車に乗り込み、セントルビー方面へ進んだ。幸いなことに、体感30分ほどで馬車の停泊が無くなり、いつもと変わらない風景になってきた。


「やっと人通りが少なくなってきたね…」

「もしかしてこれでやっと馬と騎手が休めるのか?」

「そうなるね、じゃあもろもろ準備し始めようか」

「オッケーなのだ!」


僕は窓越しに騎手さんにここら辺での休息を提案したところ、承諾してくれた。そして、こちらの準備の話をしようとしたところ、どうやらヴァルキーの読み通り一通りの道具は揃えているようで、僕たちは一旦馬車を降りて騎手さんのテントや馬のための雨除けなどの組み立てを手伝い、今夜はこの街道上での休息となった。しかし、防犯上の観点から他の人が出発するよりも早く移動を開始するらしく、そこまで休息時間は取れないとのこと。あっちの世界ではこれよりもずっと短い睡眠時間が基本だったこともあり、そこまで苦に感じなかったが、ヴァルキーの体力回復には少し短いようだ。なので、朝は僕だけ起きて片づけを手伝うことをヴァルキーが眠った後に話した。僕はそのあとあまり時間をかけず眠りについた。

 翌朝、日が昇って少しした後、いつもより大体2時間ほど早い時間から作業を開始した僕と騎手さんはあっという間に後片付けを終え、出発した。街道を見ると、同じことを考えていたと思しき馬車や歩行者がちらほらいた。しかし、昨日の夜ほど混んでいるわけではないので昨日ほど体力の消耗激しくないだろう。もちろん、割と荘重なのでヴァルキーはすーすーと寝息を立てて寝ている。


「ご協力ありがとうございました。こちら側がおもてなしする側なのに手伝っていただいて…馬たちも見ての通り元気になりましたから今日中には恐らくセントルビーに到着できる予定です。昨日農村に寄れなかったことで先に進んだことが幸いでしたね」

「いえいえ、こちらことここまで乗せていただいてありがとうございます!まだまだ旅路は続きますが、最後までよろしくお願いします!」

「ええ、もちろんです!」


と昨日の疲れから一転して騎手さんは元気な様子で馬車を走らせ始めた。馬の方も体力が回復したのか、いいペースで馬車を引いているようにも感じる。騎手さんの話によると、このあたりだとセントルビーに到着するまでにあと半日とのこと。やはりそれだけ遠い場所のようだ。それまで僕はやることが無いので、往来の人や馬車、周りの風景を眺めることにした。ふと、先ほどまでいたインディンの方面に目をやると、遠くの方に昨日までは気付かなかった蛍の光のような光の玉がいくつも浮かんでいた。あれはいったい何なのだろうと疑問に思いつつ、いつかヴァルキーにも見せてあげたいような幻想的な風景だった。その景色を小一時間ほど眺めると、次第に光の玉は小さくなっていき見えなくなってしまった。ちょうどその時、ヴァルキーが目を覚ました。心地よく眠れたのか朝から少し元気な様子で話し始めた。


「おはよう~なんか今日は我目覚めが良いのだ~。あ!聞いて欲しいのだリオ!今日な!夢でリオとイチャイチャしてキスまでする夢見たのだ!それもあっちからしてきて…我もう天にも昇る気持ちだったのだ!」


どうやら夢の内容が自身の幸せになる内容だったらしい。僕もそういう経験はある。しかし、この夢に誰かが出てくる場合は解釈が二通りある。1つは、その人とそういうことをしたい欲求があふれ出している。もう1つは相手が自分のことを想ったことで夢に出てきたである。後者は今から遠い昔、平安時代くらいの話なのであまり参考にはならない…。


「そんな夢見たせいか我キスしたくなってきたのだ…」

「ヴァルキーってキス知ってるんだ、知らないかと思ってた」

「我を何だと思っているのか?あ゛ん゛?我は子供じゃないのだ!」


忘れていたが、前に僕にキスしてたわこの子。気を失ってる時だけど


「ごめんよ、ヴァルキーは立派な女性だったね」

「当然なのだ!だから我はリオとつがいになりたいって思うのだ、でもそれは今は叶わないから、キスで我慢するのだ…ダメなのか…?」


僕は生まれて初めて上目遣いでのお願いを受けた。しかし、ペットとしての可愛いの感情が勝ってしまうのであった。

どうも、winger86です。いつも本作品をお読みいただきありがとうございます。さて、今回は想定外の馬車移動がメインの話でしたがいかがだったでしょうか?今回の移動ではあまりの混雑に道中の村までも人でいっぱいになるほどの異常事態になっていました。こちらの世界ではただ車が大渋滞を起こすだけですが、この世界だとここまでの交通麻痺になるんですね…ということで、次回はついにセントルビーの町に到着します!一体セントルビーではどんなことが待ち受けているのか、お楽しみに。それでは、また次回のエピソードでお会いましょう。

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