第58話 インディン・ゴルドナ競馬場
インディンにある超巨大競馬場に赴いた僕たちであったが、その会場の座席が全てが埋まったことで、その事実とこの会場にいる人たちの熱狂に圧倒されていた。
「リオ~!なんでみんなこんな叫んでいるのだ~?」
「分かんない~!でも今日は何かの記念日なのかもしれないね~!」
こんな大規模な競馬場が満員になるほどだ、何か今日はイベントがあったに違いないなどと考えていると、ちょうど僕たちの真下のあたりから馬たちがぞろぞろと現れ始めた。あれ?競馬って最初はどこかでぐるぐるするもんじゃなかったっけ?そうしているうちに、どんどんレーンの中に馬たちが入っていき、総勢25頭になった。この間、それぞれの推し馬がいるのか一頭ずつ現れている間に観客たちのボルテージもどんどんと上がっていき、もはや鼓膜を突き破るほどにまで達していた。そして、25頭の準備が整い、今か今かと守発を待つタイミングで、周りもみんな静かになっていった。しっかり大勢でも空気は読めるようだ。
「馬がそろったのだ…いつ出発するのだ?」
「今は静かにしておいたほうが良いよ…」
ヴァルキーが疑問を投げかけてきたが、少し会話しただけでも周りからの目線はとても痛い。それだけこの競馬イベントは特別なものとして扱われているのだろう。その気持ちは分かるぞ。そして、ゲートがパタンと開く音と同時に戦いの火ぶたが切られた。それと同時に観客の歓声も帰ってきた。
まず初めに飛び出したのは5頭ほどで、ロケットスタートを切ったようだ。あっちの世界ではたまにお昼に競馬中継が放送されていたので実況を聞きながらだったので、こっちの世界の実況なし競馬は初めての経験だった。どの馬が人気なのかはあまり知らないが、周りの歓声を聞いている感じだと、中盤より少し後ろにいる黒い8番青色ゼッケンの馬が人気のようだ。一体どういう名前なのかは声の大きさにかき消されて全く聞こえない。
「馬が一斉に走り出したのだ!一体どの馬が勝つのだ?あの今先頭にだった12番の馬なのか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないっていうのが現状かな」
「え、なんでなのだ?」
「どこかで聞いたことがあるんだけど、馬って走り方に4通りあるんだよ、逃げ、先行、差し
、追い込みだったかな」
「それってどんな違いがあるのだ?」
「まあ大まかに言うとスタートの時のポジションかな」
「スタート時?ああ、最後に目指すのはみんな先頭だからスタートの時なのだな!で一体どれがどのスタートに当たるのだ?」
「う〜んとね、さっき言った4つの順番がそのまま先頭からの順番になるね」
「ということはあの5頭が逃げか先行ってことでいいのだな?」
「多分ね、僕も詳しくは知らないから…」
「意外と競馬も奥が深いのだな〜」
こうして話している間にも局面は一刻一刻と動いていき、今は先頭に2頭、その後ろ上位集団が7頭ほど、その後ろ中盤が12頭、その後ろに1頭ずつがポツポツと言った体型になった。そしてみるみるうちに肉眼では見えなくなってしまった。
「あ〜馬見えなくなった…」
「え?我ははっきり見えるぞ?リオ〜こんな距離も見えないのか?」
ここに来て知る龍人の身体能力である。ちなみに、僕は直近の健康診断で両目とも1.5である。
「多分、僕が人間だから見えないだけだと思うよ、ヴァルキーの方が龍の血が混ざってるから色々な身体能力が高いって言うのもあるだろうね」
「うっかりリオが人間なの忘れてたのだ、てへっ」
「それじゃあ、今馬たちどうなってる?」
「今はの〜さっきから特に変わりはないのだ、ちなみに大体奥の方の直線の真ん中より右側にいるのだ」
「実況ありがとう」
この世界には放送機器も双眼鏡もないので、龍の視力を借り、逐一何かあったらヴァルキーに教えてもらった。そして数分が経ち、ついに僕の肉眼にも馬たちが取られられるようになってきた。現時点の状況は、最終コーナー出口手前、つまりこれからそれぞれの馬の強みが出てくる。ロケットスタートを決めた12番の馬は未だに先頭をキープしており距離はあえて競馬用語を用いるなら4馬身程度である。ちなみに。このコースは最終コーナーからゴールまでもかなり遠いので、実際のスパートはもう少し先になると予想される。そして、先ほどから会場内でやたらと聞く8番ゼッケン「ゴルドゥヌス」であるが、最初のポジションは馬たちがごちゃごちゃになっていたので把握できていなかったが、今は先行グループの1番後ろにいるようだ。なんかオーナーのネーミングセンスを感じる…さらに、肉眼で見えなくなってから一時は収まっていた観客からの声援は再び息を吹き返し、大きくなっていった。
ここで、中盤の集団にいた3頭の馬が最終コーナーを回った後一気に外側に膨らみ、スパートをかけ始めたのだ。これには観客も大騒ぎ、開幕前を彷彿とさせる爆音が轟いていた。
「またうるさくなってきたのだ〜!」
「仕方ないよ〜!このレースのラストスパートなんだから〜!」
そして、横に並んだ3頭が先行集団に追いついたところで、8番が動き出した。先行集団からの横に飛び出しみるみる加速して先行集団を追い越しかけていた3頭と並んで先行集団の馬たちを追い越した。残りは距離にして500メートル。直線は半分を過ぎ、ここまで先頭を走り続けていた12番は先ほどまで先行集団を5馬身程度まで引き離していたが、後ろから追いかける4頭がその差を縮め、あっという間に追い越してしまった。そしてゴール前になり、観客たちも立ち上がって大声を張り上げて応援、会場内はボルテージに達していた。
「一体どの馬が勝つのだ!?頑張れ〜〜!!!」
「頑張れ〜!!!8番〜〜!!」
僕たちも周りの雰囲気に乗せられ、応援をする。そしてゴール直前のあと一伸びというところで、ゴルトゥヌスが意地を見せ、ハナ差で1着フィニッシュとなった。
「おおおお〜〜〜〜!!!!あの8番の馬が買ったのだ〜!!!」
ヴァルキーはこのレースに大興奮の様子。しかし、周りを見渡すと肩から崩れ落ちている人もいた。おそらく負けたのだろう…御愁傷様です。他には大はしゃぎで喜ぶ人、ガッツポーズを決める人、抱き合う人など反応は千差万別であった。そしてレースが終わると、観客の人たちは我先にと払い戻しの場所まで走って向かっていた。この観客数なら早く並ばないと帰るのが遅くなりそうだと僕も思った。しかし、僕たちは馬券を購入していないので、その列には並ばず、人でごった返している場所を通ってなんとか会場内に出ることができた。
「予想通りというか、なんというか帰りは本当に大混雑だったね…」
「我あれでかなり疲れたのだ〜なんか体動かした時とは違う疲れな感じがするのだ」
「人疲れってやつだね、僕もなったことあるよ」
「へ〜リオもこんな感じの疲れ方するのだな〜同じ人なのに」
「そりゃするよ、意外とこういう時って気を張ってるから体力使うんだよね〜」
「我もうお腹ぺこぺこなのだ〜何か食べたいのだ!」
ということで飲食店を探そうとした時、僕はとっても嫌な予感がした。それは、どこのお店も宿も満杯であるということである。今日のレースは通常よりも人が多いとされるレース。辺りを見渡すとどこも大混雑であり、空きが全くと言っていいほどなかった。
「ここでご飯を食べるのは諦めよっか…」
そうヴァルキーに言うとこくりと頷き、僕たちはトボトボと馬車の停車場へと歩いて行ったのだった。
どうも、winger86です。いつも本作品を読んでいただきありがとうございます。さて、今回はインディンでの競馬がメインの話でしたがいかがだったでしょうか?理鳳とヴァルキーたちはこの街にあった競馬場を訪れ、初めての競馬観戦をしました。周りの雰囲気にあてられて、興奮していましたね。みなさんはそのような経験はありますか?次回はインディンを出発していき、今回の目的地であるサントルビーに向かっていきます。お楽しみに。それでは、また次回のエピソードでお会いしましょう。




