第31話 龍のトラウマ
僕とヴァルキーは今日の夜ごはんのために『トムゾル』を狩りに行った。早速、作戦の通り二人して足を狙って攻撃を仕掛けた。ヴァルキーは前足を、僕は後ろ足を攻撃し始めた。それに気づいたトムゾルが
ギイイイイイーーーー!!!!!
という不快な声で鳴き始めこちらに突進してきた。狙われたのは髪色が目立つヴァルキーの方だった。ヴァルキーは突然のことだったが自らの体で受け止めようとした。しかし、体の軽さが仇となり、思いっきり遠くへ吹き飛ばされてしまった。
「うああああーーーー!!!!!」
「ごめん、ヴァルキー、本当は気にかけてあげたいけど、ここで声をかけると位置がバレる…!!!せっかくヴァルキーが作ってくれたチャンスを無駄にはしない…!」
僕はトムゾルの突進後の減速の際にできる隙を狙って後ろ足を初級技の横切りで切り落とした。トムゾルはその痛さのあまり、再び――
ギイイイイ、ギイイイイーーーー!!!!!
と不快な声を上げた。と同時にトムゾルの背中の方に違和感を感じた。何かがうごめいているのである。とするとすぐに黒色の鳥の羽が生えてきた。ええ!?初耳なんだけど!?トムゾルはその背中から生やした羽を羽ばたき、空中へと移動した。しかし、後ろ足を失ってアンバランスになっているのか、若干飛行がぎこちないようにも感じる。それでも、ある程度の高さまで登ってい行った後、僕めがけて急降下してきた。羽が生えても攻撃パターンは変わらないようだ。僕はうまく位置を合わせて突進をよけつつ、羽を片方切り落とした。するとどういうことだろうか、羽がすぐに生えてきたのだ。しかし、最初に切り落とした後ろ足の方は未だに血が出ている状態だ。つまり、羽だけが圧倒的に回復力が高いのだ。これまで空中戦はこの前のデーガ遺跡のみで経験が乏しい。さらに前回はヴァルキーの助けもあっての戦闘だった。今回はソロである。正直厳しい。
「周りに何か登れるところは…フォトシスオークの大木だけか…とりあえずあそこに引き付けて速攻しとめよう」
空を飛んでいる相手にはジャンプで高さを補うしかない。デーガ遺跡の時は壁があったからいいものの、今回は足場が不安定な木の上である。一か八かの勝負である。僕は早速木に向かって一直線に走り出した。それに反応したトムゾルは後ろから思いっきり突撃してきた。この威力だとこの木も折れてしまう危険があったので、何とか横に誘導し、木への衝突免れたものの、攻撃が途中で中断となってしまった。もう一回助走からやり直しである。
「どうしたものか…何か光るもので時間稼ぎができればいいのだけど…あ!フォトシスオークの実を投げればいいのか!トムゾルは光って、動くものに反応する。ということはフォトシスオークの実をぶん投げるだけでその条件は達成されるよね?」
しかし、問題はその実をとった際、その時点で光源が動くことから、より攻撃が激しくなるというところだ。それは短時間で採取&遠投で切り抜けよう。そう決めた僕は早速取りやすい位置の木の実を剣で切り落とし、それをもって若干移動、闘牛の赤い布のように振り回し、トムゾルを引き付けた。そして、怒り狂った様子のトムゾルが先ほどよりも上空に向かい、最大威力の突撃を繰り出そうとしているのを確認してからタイミングを計って木の実をとても遠くへぶん投げた。すると、読み通りその木の身に視線が移動し、その木の身に向かって勢いよく突進攻撃をしたのだ。それを生かし、トムゾルの心臓のあたりを中級の突き技で一刺しした。若干浅いように感じたので、そのまま同じ中級の縦切りセット技で振り下ろして切り落とした。すると、トムゾルの動きが止まり、地面へ落ちていった。同じように僕も落ち始め、初級縦切りで勢いを流し、受け身をとって戦いは終わった。今回も何とか無傷で討伐に成功した。ちょうどそのタイミングでヴァルキーが走って戻ってきた。
「大丈夫だったのか?見たところ無傷のようなのだ」
「なんとか無傷で討伐したよ…急に羽とか生えてきて普通に手強かった。」
「でも、あの巨体の動物を無傷で討伐できるリオもなかなか強いと思うのだ…ん?…あの羽は!!」
「なんか知ってる?何度切り落としても生えてきて…」
「すまないのだ、リオ。このことはまだ話せないのだ…そのタイミングが来た時に話すことにするのだ…」
トムゾルに生えている黒い羽根を見てからヴァルキーの様子が変になった。なんというか、怯えている?そんなこんなで、討伐したトムゾルを解体しようとした。しかし、トムゾルが生きていないのにも関わらず、黒い羽根はものすごいスピードで再生をしていた。根元の部分の皮をはぎ、肉を取って見るとなんだか気持ち悪い物体がうごめいていた。これに自分の件を一刺しすると再生が止まった。さすがに、見た目が真っ黒なのでその場で燃やし、それ以外の部分だけテントに持ち帰ることにした。
「やっぱり、あの黒い羽根気になる?」
「…」
「もう燃やしたから多分平気だとは思うけどやっぱり心配?」
「…」
今までの元気がどこへ行ったのかと思うほどヴァルキーに元気がなかった。一応頷いてくれはするものの、言葉を発さない。そこで、僕はヴァルキーを抱き寄せることにした。すると、ヴァルキーの体は震えており、途轍もない恐怖を感じているように受け止められた。今日はこの恐怖で寝れない可能性があるのを考えたので、テントでずっと抱きかかえながら寝ることにした。子守である。とりあえず、今日はトラウマのあるトムゾルの肉を食べるのは控えさせ、山菜と携帯食だけを食べさせた。僕は、とりあえず大量にあるトムゾルの肉を一部だけ食べ、残りは羽と同じように燃やした。そのあとすぐに寝る準備をし、二人でテントで寝た。この時、ヴァルキーは何も発さないまま震えていたが、しばらくすると可愛らしい寝息が聞こえてきたので、それに安堵し僕も眠りについた。
翌朝、ヴァルキーのいつもの元気が出てきたようだ。
「おはようなのだ!昨日は迷惑かけて申し訳ないのだ…ただ、あの羽は我にとってとても強い意味を持つ羽なのだ。だけど、昨日リオがずっと我とくっついて寝てくれたおかげで、すっかり元気になったのだ!リオは我のヒーローなのだ!本当にありがとうなのだ!」
「元気が出たならよかったよ、ちなみにお腹減ってない?昨日あんまり食べなかったでしょ?」
「それはそうなのだ~何か食べるものは?」
「ごめん、昨日気に障るかと思ってあの肉は僕が食べた後残った分は燃やして捨てた」
「そうしてくれると助かるのだ、本当にリオは優しいのだ!大好き!」
「そういってもらえるならよかった。また困ったことあったら遠慮なく僕を頼るんだよ?僕パートナーではあるんだから」
「そうなのだ、そうだったのだ、今度あいつに会ったときは一人じゃないのだ!絶対負けないのだ!」
ヴァルキーが独り言のように何かを発していた。僕は耳がいいので少しだけ聞き取れたが、おそらく、過去に黒い羽根、それも再生能力の高いあの羽をもつ『あいつ』とやらにかなりのトラウマを植え付けられたのだろう。家族がやられたとか、自分が命の危機に瀕したとかね…とりあえず、隠していることを大まかに推測したところで、この話を終わりにし、次の町デントロンへ向かった。
どうも、winger86です。いつも本作品を読んでいただきありがとうございます。さて、今回はデントロンへ至る前のお話でしたが、いかがだったでしょうか?理鳳は思わぬ形でヴァルキーの過去を垣間見ることになりました。それもかなり強いトラウマのようですね。皆さんは、フラッシュバックのようなものはありますか?私はありますね。それもいろんな場面で想起されるので結構苦しいことが多いです。まあ、それはさておき、次回以降はやっとこさデントロンへ至ります。これでボスティール研究所で教えてもらった遺跡すべてを回ることになります。そこから得られることは何なのでしょうか?お楽しみ。それでは、また次のエピソードでお会いしましょう。
メモ
黒い羽根:???
フォトシスオーク:
トゥーロンとデントロンの間、プレール地方北部にのみ自生する落葉広葉樹。特徴は夜になると光る木の実である。色は、青もしくは紫である。その光を長時間浴び続けると錯乱作用があるとされている。基本的に根、枝、幹、葉、実すべてが人間にとって有毒であり、素手で触れるとかぶれ、最悪アナフィラキシーショックで死ぬこともある。木の実の光は日中の太陽光を集めて発光している。この発光現象と同時に光合成も行っている。
トムゾル:
プレール地方北部の森林にのみ生息する大型の鹿に似た草食動物。通常の個体で高さ4~5m、体長6~8mほどある。理鳳が戦ったトムゾルはイレギュラー個体であり、通常のトムゾルには羽は生えてこない。主食はフォトシスオークであり、その葉、実を食べる。しかし、その葉や実を独占する習性があり、同じ種族以外がフォトシスオークのような光るものを手にすると、奪い返そうとしてくる。そのため、照明にトムゾルが寄ってきてしまい、村が破壊される。このような理由でロンドを超えると人の居住地がない。




