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天星UNFOLD〜占星術士の群青戦記〜  作者: 逢松十五
第3章「影の支配者」編
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第二十二話「影の支配者ジェミラ・シードライヴァー-Ⅱ-」

ジェミラの操る「無因影」は確かに厄介だった。


しかし桜庭桃李は、冷静に戦況を観察していた。


影は沼のように広がり、そこから腕や槍が生まれる。

だがその運用は、突き詰めれば——


(僕の異能力と、大差ない運用の仕方をしてるな…)


そして何より疑問なのは、殺しに来ているはずの彼女の影は全て急所を外した運用で、殺しではなく制圧メインな動きだということ。


桃李の周囲で舞う花弁状の刃——

「桜刃」


それらが影の腕や槍と衝突する。

ザシュッ!と、鋭い切断音と共に

黒い腕が細断される。

同時に、影の槍も桜刃を打ち落とす。

まるで刃物同士のぶつかり合い。

空間で火花が散るような、激しい拮抗。


桃李は小さく笑った。

「鍔迫り合いなら、僕も得意なんだよ」


桜花は嵐のように舞い、

見事な鍔迫り合いを演じて見せた。

しかし、やはり厄介なのは

異能力の強制解除術式「無因(ゼロコード)」あれが邪魔をして思うような鍔迫り合いが出来ない。


桜刃が嵐のように舞う。

影を切り裂き、道を作る

そして桃李は踏み込んだ。

ジェミラの喉元まで距離を詰める。


「一つ教えてやるよ、……オレの能力の術式『無因(ゼロコード)』のタネを…」


余裕そうな笑みで、桃李の刀を受ける。

そして彼女は説明をし始めた


「この術式はな、影に触れたものの因果を無くすんだ…」


桃李は尋ねていた。

「つまり……?どういう事?」


「つまりは…お前の刃が分解された原因は消え、元の状態に戻っちまうって訳だ。相性最悪だったな」


桃李は、顔を顰めるが…同時に納得がいった。確かに何か根本的な分解するという状態を維持できなくなっていた気がする。


「んま、てな訳で異能頼りの奴はみんなオレの刃の下死んでった訳さ…」


鎬を削り合っていた状態から、刀を弾いてお互い距離を開けていた。

その瞬間、無数の影の槍がせり上がり、

桃李に向かって伸びてきていた。


でも、今度は桃李は桜刃を展開せずただ避けるだけ。


「おいおい、そんなんじゃいつか当たるぞ、桃李…」


「確かに、このままじゃ…当たるね」


迫る影に突っ込みながら、また桜刃を展開していた。


「だから…

それは意味がないんだって―」


その瞬間。

桜刃が影へ突っ込む。

触れた瞬間、

確かに花弁が元の刀へ戻る。


だが——


桃李はもう動いていた。

戻ってきた刀をそのまま振るう。

ジェミラは腕でそれを防ごうというモーションをしていた。

ガンッ!!と金属音が響く。

ジェミラの腕と刀がぶつかる。

ジェミラの目が少しだけ見開かれた。


「へぇ……やるじゃんか…肉薄って奴?

でも残念影は衣服の中にも出せるんだよなぁ……それにもうお前、終わりだよ…」


彼女が防いだのと同時に、

桃李の腹は彼女の影で貫かれていた。


「ゲホッ……」


桃李の口から血が流れ出る…

腹から影の槍引き抜かれ、

桃李は地に膝をついていた。


「ま、介錯はしてやっから…安心して逝きな―」


と、彼女が刃を振り上げたその瞬間だった。

また、桜刃が展開された、

ジェミラは片眉を上げた。

「まだ抵抗するかよ……」

と文句を垂れた瞬間、桃李は独り言のように呟き始めた。


「桜刃…は、本来……刀の刀身の質量以上の量の花弁を作ることが出来ない……」


「は?何言って…」


先ほどまで、せいぜい刀の質量と同じ程度の量であった桜刃は、

その数を指数関数的に増やしていた。


「でも……理力を使えば、無から桜刃を作って、補填できるんだ……」


数千枚程度だった刃は、

すでに数万枚数十万枚単位に膨れ上がっていた。周囲の街灯の光が桜に反射し、千住の夜が昼間のように桜色に染まった

「でもそれが本来の使い方なの…

ジェミラちゃん、

まるで…桜並木みたいで綺麗でしょ…?」


ジェミラは戦慄していた。

このような隠しダネを持っていたとは予想も付かなかったから。

早く消さねばならない。

影を一気に押し出して、

桃李を圧殺しようとした。


だが、一息遅かった。


「【桜花万燗・枝垂れ桜】」


そう、彼が口に出した途端、

中空に待機していた花弁が、

まるで枝垂れ桜の如く

流れるように周りの影を押し流し、斬り払っていた。


無数の花弁が空から落ちる。


だがそれはただの落下ではない。

右から。

左から。

後ろから。

下から。

全方向から襲う刃の嵐。


ジェミラは舌打ちをしながら、

無因影界(ゼロコードシェーダー)の影を適当な槍の形にして応酬した。

「くっそ……刃の密度が……多すぎる」


影が桜刃へ触れる。

触れた花弁が次々と消える。

対抗できない訳じゃない。


だが——


多すぎる。

消しても消しても、

桜は降り続ける。

しかも、

軌道が完全にバラバラ。

予測不能。

ジェミラの動きが一瞬乱れる。


どの刃も理力の密度が大きい


(くそ…どれか一房でも当たれば…即死だ)


ジェミラは全神経を集中させ、

影で桜を打ち落としていた。


だが、次の瞬間には

ジェミラの背後に影が落ちた

静かな声が響き渡る


「ごめんね……」


ジェミラはすぐさま振り返り、影を出そうと手を振るうが、遅かった。

腹を通り抜ける冷たい感触。

と同時に体のうちから何か熱いものが

じわりと出てくる。


「かはっ……」

ジェミラの口からは血が流れる。

それを見た桃李は申し訳なさそうな目をしていた


「はは……やる…じゃんか…」


桃李は刀を引き抜いた

そして距離を取る

一方でジェミラは腹を抑えながら、その場に倒れ込んだ。


「なるほど…ね、花弁は全部囮で……

オレの意識を逸らすための罠だった訳だ…」


桃李は何も答えなかった。


「てか、なんで……瞬殺できる心臓を一突きしなかった…?オレは…魔洞に与しているだけで、ただの人間だ…そうすりゃ普通に死ぬのに……」


桃李はジェミラに近づいて答えた

「だって…君…言うほど悪い子じゃないでしょ……」


「はっ、戯言言ってんなよ!……

っ!」


ジェミラは目を閉じた。

痛みが襲ってきているのだ。


「できれば人を殺したくない、

そんな能力の使い方してたよ…

致命傷になる箇所は避けてた。」


さっき刺された腹も、腹部大動脈や内臓を上手いこと避けて刺してきていた。

詰まるところ彼女は脅されて加担していると。

疑問が確信に変わった。


「……助けてくれ…トーリ…

オレ…脅されてて」


桃李は何も言わずに、頷いて近づき

彼女の前でしゃがみ込んでいた。


「ジェミラちゃん…動かないでね…

治癒魔術をかけるから……」

『豊穣の女神よ……聞き入れたまえ―』

そう言って治癒魔術を掛けようとした瞬間。

ビルの窓から、ドス黒いオーラを纏った球体が、こちらに飛んでくる。

特異点だ。

「なっ……」

桃李があっけに取られている間に、

特異点はジェミラの胸にくっつくと、

腕や脚、頭などの各部位に、

光の帯を伸ばしていた


「ぐぁぁぁ!!」


ジェミラは苦悶の表情を浮かべていた。

目尻には涙を浮かべながら

助けを求めるように手を伸ばしている。


「やだ…オレは……っ、」


消え入りそうなほど、

喉から捻り出すように

救いを求めていた。


「ごめん、なさい……星の子に…伝え…」


「ジェミラちゃん!」


桃李の声も届かず、ジェミラは

完全に()()()()()()していた。


ジェミラの髪の毛は、長く伸び、

目の色は群青色だったのが、今は赤く輝いていた。そして、まるで影がドレスのように変化して、元着ていた服は、

全て無くなっていた。


「ふふ……ふふふっ、」


ジェミラだった人物は、

ドス黒いオーラを纏い、

人格が完全に変わったかのような

鋭い目つきとなっていた。


体から溢れる魔力の奔流で地面がひび割れる。

声はトーンが重なったように聞こえる。


「君は…特異融合体(とくいゆうごうたい)か……」


桃李は静かにつぶやいた。

特異融合体それは、80年前の大厄災で

各地に出現した「元人間」の魔洞達。

特異点やそれに準ずるエネルギーを宿される事で、その力を手にすることができる


「特異融合体…?ワタクシそんなんじゃないわ、

ワタクシこそが、本当のジェミラ・シードライヴァー。」


両手を広げ、狂気の瞳で、

桃李を一瞥した。


「……あぁ、この感覚…

久しぶりに生で感じる空気はいいわね…

…あなたを殺して…それを景気付けにでもしようかしら?」


今回の特異点に宿る人格が、

人の姿を得たのだ…

そしてそれこそが真のジェミラ・シードライヴァー……

まるで用意されたかのように事象が連鎖する。


ジェミラは妖艶な笑みを浮かべ

桃李に宣言する。


「第二幕……ふふっ、頑張ってちょうだいね」


彼女が指をパチンと鳴らす。

その瞬間、千住の街を埋め尽くしていた桃李の「桜」が、ドス黒い影に侵食され、一瞬にして墨色へと染め上げられた。


背筋を焼くような、圧倒的な捕食者の気配。

桃李は傷ついた腹を強く押さえ、震える脚で一歩前へ踏み出す。


(……まずいな。これは、僕一人でどうにかなる相手じゃない)


絶望的な実力差を前に、桃李はそれでも不敵に口角を上げた。


「……悪いけど。僕、しつこい男は嫌われるけど、諦めない男の子はモテるって信じてるんだよね」


――夜の底で、真の「影の支配者」が産声を上げた。

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