第十六話「横浜港の異変-Ⅱ-」
南本牧ふ頭に、星宮班と景虎君が現着した。
嫌な気配が充満している。
俺自身は現場経験が少ない故、
魔力の体感濃度だけでは、
どんな強さでとかはわからない。
でも、
頭からつま先までゾワっと降りていく悪寒を、その地に踏み入れた瞬間感じたという事。それがそれこそが、奴が何かヤバいものであるという漠然とした証明だった。
俺の目線の先では、クラスメイトの
風丸健悟が戦っていた。
拳と風魔術だけで、まるで悍ましい竜のようなトカゲの魔洞獣と渡り合っている。
「風牙ッ!!!」
彼はその両拳で、トカゲの鼻っ柱と顎を
砕いていた。トカゲは喉から搾り出したような唸り声をあげて怯む.が、
それでも効果は薄そうなほど、硬い鱗をトカゲは持っている。
俺に何ができるだろうか……
もしかしたら手を出すのは間違いか?
でも、目の前で一人戦っているのに、
俺は何もしなくていいのか?
あーもうわからないどうすれば─
「何ウジウジ考えてるのよ!やるんでしょ!」
煉がけしかけてきた。
いや、けしかけて来てくれた。
おかげで俺の気持ちがどこか晴れていた。
「ご、ごめん!俺リーダーなのに…!」
「いいって事よ!それよりも、アイツ硬そうね?」
「そうだけど、なんか俺、アイツの硬さは単純なものじゃないと思う。」
「は?それってどう言うことよ」
さっきから、風丸君が攻撃を入れている。なのに砕けているのは鱗の表面だけ。恐らくはミルフィーユ状になっている。その上、再生力が高いのか、表面が砕けたくらいじゃ、すぐに全快してしまう。
単純な硬さじゃない。最初の1,2層をわざと壊れやすくしておくことで、衝撃を吸収して、その奥の層で止める。そして
柔らかい層を再生させる。それが奴の
"硬さ"なんじゃないか。
その仮説が本当であれば、
最初の層で一気に貫くことができれば…
あるいは…
「まぁ、要するに、一気にぶち抜いてってこと!」
「OK!わかったわ!」
煉は、手のひらを地面につけて爆ぜさせると、一気にトカゲの元に飛んで行った。
「なぁ、星宮ァ、いいのかよ…」
「いいよ、一先ずはうちで一番の火力持ちで試してみる。あの鱗の耐久性を」
─煉視点─
「てぇぇりゃぁぁぁ!!!」
私は、一気にトカゲの頭上まで飛ぶと、その脳天に向かって、拳を打ち込んだ。
「……!君は!煉君!!」
風丸の表情が綻ぶ。仲間が来てくれたことが、すごく嬉しかったのだろう。
「風丸!来たわよ!」
「そして……爆ぜろ!!!《核熱操縦》!!!」
拳に宿した理力が青く輝き、
収束し、激しく爆ぜた。
「ギャァォォ!!!」
けたたましい爬虫類の鳴き声が響く。
爆発の反動で彼女は吹き飛ばされるが、
それを利用してトカゲから離れ、
風丸の所に着地をする。
肝心の効果といえば、表層が焦げて内層の一番硬いところが見えて来た程度。
ちょっと焦げはしても、ダメージ自体は少ない。
ただ、衝撃で脳震盪を起こしたのか、
少し動きが鈍っている。
しかもちょっとの焦げで、少し再生が阻害されている。
「凄まじいな……外傷は少ないが、
煉君の攻撃で奴は怯んでいる!」
「そうね!畳み掛けるわよ!」
私は突撃する。手のひらの上で理力を少し爆ぜさせながら、一気に距離を積める。
しかし、トカゲも諦めちゃいない。
けたたましい鳴き声を上げると、近づいて来たところを尻尾で打っていた
「ぐっっっ!?かはっ……」
私は勢いよく打ち付けられ、
そのまま後ろに弾き飛ばされていた。
2、3回転げてから、受け身を取って立て直す。
しかし、受けたボディはズキズキと痛んでいた。
「大丈夫か!?煉君!」
「…っ、骨は…イってないわ…くそっ、
油断したわね……」
まさか、あんなのから一撃もらうなんて…悔しい
でも、それ以前に…
「本っ当にクソ厄介なやつね…」
吐き捨てるように言い放つ。
その時、星宮たちがこちらに来ていた。
「煉ちゃん!俺たちも対応する!」
人数が増えれば攻撃できる手数も増える、これで少しは粘れるかもしれない…!
って……
「煉ちゃんって呼ぶなって言ってるでしょ!このバカ星宮!」
─澄空視点─
煉が飛び上がり、脳天をぶち抜いて爆ぜさせた。それでも、遠巻きで見た感じでもわかるくらい、ダメージが少ない。
怯みはせど、外傷が少ない。
追撃をかまそうと突撃した煉
それを、奴は尻尾で弾いた
「あっ…!!」
思わず声が出る。そろそろ俺たちも動かなければ。しかしあまり迂闊に動けば、
煉の攻撃の巻き添えを喰らって被害が逆に広がる……
どうすれば……
「なーにウジウジ考えてんの?」
伊月が、そう言って肩を組んできた。
「もしものときは、陽那が回復してくれるから、何も気にせず、アタシたちも加勢しよ?」
俺は、白石さんの方を向いていた、
そしたら、白石さんは無言で頷いて、
まるで、任せてよと言われているようだった。
次に将駒の方を見る。
「あぁ、行こうぜ、レンのヤローとケンゴのヤローを援護すんぞ…」
「じゃあ、僕はちょっと離れたところから、照射して援護するよ」
景虎君も、援護をしてくれる……
陣形は完璧だ。景虎君に目線を送って頷くと、
前衛組の俺たちは、走り出した。
そして、トカゲと睨み合っている煉の元に着くや否や、俺は叫んだ。
「煉ちゃん!俺たちも対応する!」
「煉ちゃんって呼ぶなって言ってるでしょ!このバカ星宮!」
あんなに打ち付けられていたのに、
ここまで叫べるなら心配はない。
と、その時通信が入った。
『こちら司令部、風丸訓練士からの応援要請を受信した』
風丸君がこちらを見てウィンク&サムズアップをする。
『ただ今そちらにA.S.A.U.習志野支部から異能空挺隊が出た。
最短五分で現着するが、その間持ち堪えよ』
「りょ、了解!」
通信が切れた…つまりは俺たちが防堤となって、トカゲの足止めをすればいいわけだ。
腕がなる…と言いたいところだが、
繋ぎは繋ぎでプレッシャーが……
とにかく、俺は刀を抜いて構える。
それに続くように各々構えを取る。
「それじゃあ、行くよ!」
そう叫ぶと同時に、まず俺が真っ直ぐに突っ込む。案の定トカゲは体を翻して尻尾を打ちつけてくる。だが、俺はそれを刀で受けて、反動で跳ね上がり、
胴体にそのまま刀を振り下ろした。
ガギィィンと、金属がぶつかって跳ね返る音がした。
やはり、刃物は通らない。
「ギャァォォ」
トカゲが俺を噛み砕こうと襲い来る、
しかしそれを横から割り込む形で、
ど頭を将駒が、横っ腹を風丸君が蹴りを入れて阻止する。
チュドォォン!!
そして真上からは景虎君の照射による攻撃が落ちる。しかし、やはりこれも衝撃で怯みはすれど、効果は薄そうだ。
『光あれ─』
「《魔砲》!!」
俺の斜め後ろ上から、伊月が魔砲を放つ。それは奴の表皮が溶けた脳天に当たるが、内層の硬い鱗で弾かれる。
伊月は小さく舌打ちをして着地し、今度は刀を叩き込む。それは表層の鱗に食い込むだけで、通らない。
「ほんっとに硬いなこいつは!!」
何が有効打かもわからないまま、とりあえず、できることをやることに専念することにシフトした。
俺は星辰天環を発動させて、彗星を放つ。
「ギャァァ!!!」
刺したら意外や意外、彗星が鱗にブッ刺さって、内層まで少し焼いていた。
もしかすると、俺の異能力はアイツに刺さるかもしれない。倒し切れなくても、
弱らせることはできるかもしれない。
「みんな!ちょっと俺を援護して!
俺の彗星を当てやすいように!」
そう叫ぶと、皆なにも言わずに、
奴の気を色んな所に晒すための攻撃にシフトしてくれた。
この仮説に根拠はない、証拠もさっきの反応と、奴が負った傷だけ、
それでも、1ミリ%でも可能性があるなら、やるしかない。
風丸君が風の拳で怯ませてくれた。
将駒が触れた奴の体の質量を一瞬操作して、体勢を崩してくれた。
煉が右前足を爆撃して、さらに体勢を崩してくれた。
伊月がど頭に魔砲を撃ち込んで、防御する気力を削ってくれた。
景虎君が、照射の異能力で体を少しでも沈めてくれた。皆、何度打ちのめされてボロボロになっても。
そうして出来たこの隙に、
「彗星弾!!」
青白い光の筋が一条。
真っ直ぐに奴の横っ面に伸びていく。
空を割くような、甲高い音が響き渡り
奴の横っ面に見事にクリーンヒットすると、
「キシャァァ!?!?」
と、うめき声をあげて苦しんでいた。
そもそも四方から攻撃を喰らって
いっぱいいっぱいだったんだ、
対応外の角度からの攻撃なんて喰らうに決まっている。
クリーンヒットした左側面は、内層まで、焼け、再生が阻害されているようだった。
ウェアラブル端末の時刻を確認すると、
すでに五分が経とうとしていた。
ともすると、もうそろそろ空挺隊が来る。
「風丸君、多分そろそろ俺たちはお役御免だ。今結構トカゲも弱ってるし、いったん下がろう」
「そうだな!じゃあ、撤退!」
そうして撤退の準備を始めた次の瞬間には、
航空機の音がゴウンゴウンと響き渡っていた。
そして、上空の航空機から幾つもの黒い影が、落ちてくる。
それはすごいスピードで落下したかと思うと、ある一定の高度で落下さんを開いて減速し、そのまま地面にローリングをしながら着地をしていた。
確かあれは、五点接地法っていう着地の仕方だったか、本物は初めて見た。
そして、一人の空挺隊員が、俺たちに近づいて敬礼をしてきたので、俺も敬礼を返した。そして空挺隊員は
「足止め感謝する!あとは我々が引き継ぐ故、君たちはベースキャンプに一時帰還するように!」と、言い放ち、そのままトカゲの元へと向かっていた。
「さて、そういう事なので、帰りますか!」
俺たちはベースキャンプへと戻り、
この日の任務は終了ということになった。
後日談にはなるが、あの後異能空挺隊は
異能力を全く使わずになぶり殺したらしい。なんというか、信じられないくらいすごい世界があるのだなと思った。
それと同時に、悔しさが俺の中で滲んでいた。
一先ず、この一件はこれで終幕となった。
十五です。投稿までに期間があきましたが、
なんとか投稿しました!単純に展開をどうしようとこねくり回していたからですね。
では、次回は第十七話「琥珀」です。乞うご期待




