第十話「蛹」
前回のあらすじ
星宮班としての初任務を迎えた。
初任務は微小の特異点を滅却すること。
順調かに思えたが、突如として、巨大な蛹のような魔洞が出現する……
突如現れた、蛹の魔洞は、
かなり手強かった。
何が手強いって、表皮がものすごく硬い。
「はぁぁ!!」
と、思いっきり刀を振っても、
ガギン!と弾かれてしまう。
だからと言って、伊月が《魔砲》を放っても、基本効かない。
詰みだ。
何しても効かない。
何も通ってる気配がない。
マジで自信をなくす。
「ちっ、硬すぎんだろうが。
オイ!煉!オレの攻撃に合わせて爆撃しろ!」
「いちいち命令すんな!」
将駒と煉が、各々の異能力で、
蛹に攻撃を仕掛ける。
が、しかし、
これまだ通っている気配が薄い。
爆発と高質量の打撃で、ちょっとは
外殻が割れたが、何層か表面が剥がれた程度。
それ以上は見込めない。
「ちっ、くっそ…これでもダメかよ」
どうしよう。都合よくコイツに効く武器なんかないし、攻撃を倒す方法もわからない。…なにか、何か方法はないか……
と探っていると、伊月が、何かを思い出したようで、
「あっ、」と声に出していた
「そうだ。コイツって外殻は硬いけど、
火属性の理力に弱いんだった。」
火属性の理力…?でも火属性はこの班には…と思っていると1人いる。
煉は爆発させるからギリギリ火属性か。
「じゃあ、煉ちゃんが爆発で攻撃し続ければいいって事か、」
「澄空!私を煉ちゃんって呼ぶな!」
「あ、ごめん」
でもそうか、これなら確かに行けそうだ。
そういえばさっきも、爆撃をした方が外殻が、多く削れていた。
つまりこれで行けるのでは!?
「あー、その…そうするとね、煉の異能力、燃費悪くてさぁ」
と伊月は言う。つまり、思いっきり表皮を削るために異能力を使うと、
理力切れでゲームセットと言う事になりかねないのか。
それは確かにまずい。
それに対しては、いつもはツンケンしてる煉も、ふんっ、とは言いつつも否定しない。多分自覚をしているのだろう。
「だから、伊月の出番って
ワケ。
アタシさ、こう見えても第一魔術は得意でさぁ」
第一魔術。理力の性質を変化させる基本的な魔術。確かその中にも火属性の魔術はある。つまりそれをぶつけると言う事か。
「じゃあ、伊月…攻撃を任せるよ。」
今回は役割を考えれば伊月が最適。
火属性しか通さないなら、魔術が不得意で火の理力を作れない人が2人で、
異能力を使った純粋な攻撃で削ろうとするよりも断然速い。
2人は納得してくれるか?
と思ったが、将駒は何も言わず従ってくれた。
煉はというと、
「伊月!もしヘマしたら許さないわよ」
と、かなりプレッシャーをかけていた。
でも、伊月はそれに屈することはないどころか、むしろ「任せてよ☆」と言わんばかりに、親指を立てて歩き出していた。
そして、所定の位置に着くと。
手のひらを相手に向けて、唱え始めた。
『紅玉が如くゆらめく光よ、
我を灯したまえ』
「【火を生み出す魔術】」
と伊月が唱え終えると、手のひらから火の玉がボウッと、出現する。
普段は理力をぶちまけるだけの伊月が、今は細く鋭い糸を紡ぐような集中力を見せている。
それは手のひらの上で待機して、いつでも命令に従えるような状態になっていた。
そして続けて伊月は唱える
『穢れを浄する火は今、
一条の矢となりて我が敵を焼き貫かん』
「【火矢を放つ魔術】」
手のひらの上に灯っていた火は、
まるで矢の如し勢いで、
まっすぐ飛んで行き、
着弾すると、蛹を炎で包み込んでいた。
ど真ん中を貫き、焼かれたその蛹は、
体のほとんどが灰となり、ボロボロと崩れていた。
「すご…」
「いんや、まだまだ、あとひと段落でようやくってところだと思うよ」
そういうと、もう少しだけ近づいて
また唱え始める。
『邪なる者の原罪は、
聖なる火により焼き尽くされん』
「【聖火焼却】」
ギァァァァ!!!
その瞬間、蛹は青白い光を放つ炎で焼かれていた。
さっきの炎でも、
うんともすんとも言わなかった蛹が
この炎を受けた途端、つんざくような叫び声をあげていた。
セイクリット。つまりは浄化を行う魔術という事なのだろうか。
魔力は理力と打ち消し合うか、濃度が濃ければ侵食するが、
神聖力を宿した理力にはかなり弱いと聞いた。だからこそ、この蛹は今叫びをあげている。
「よーし、澄空!将駒!今がチャンス!」
聖火焼却を維持してくれているうちに、
俺と将駒でとどめを指して完全殲滅。
これは行ける!
そう確信していた。
「行くぞ、将駒」
「わーってるよ!」
俺と将駒は、同時に踏み出して、
その蛹に一撃を与えた。
ギャァァァァ!!
というつんざくような叫びをあげて、
その蛹は力無く落ちた。
「殲滅…完了…」
おそらくこの特異点を生み出した主だろう。
これで解決…かと思われたが
おかしい
「特異点が…
閉じない?」
「あ?マジで言ってんのか?……」
将駒は、特異点を観察する。
「待て、もう主の蛹は倒したよな?……」
当たり前だ、だってさっき確実に……
もう気配もないし殲滅したはず、と思いながら後ろを向くと、抜け殻のようになった蛹があった、……
抜け殻……?おかしい、もしこれで殲滅し切っていたのなら、
……おかしい。魔洞獣が消える時の、あの灰のような崩壊が起きない。足元にあるのは、中身の空っぽな、冷たい殻だけだ
その時、伊月は叫んだ
「二人とも!後ろ!」
振り向くとそこには、まるで蝶のような羽を持った、巨大な魔洞獣がいた。
「チッ!……羽化しやがったか。
コイツは、羽虫の魔洞獣、『モスキート』…高速移動を得意とする早ぇヤツだな。」
将駒が割と冷静に教えてくれた。
モスキート。そう言われれば
そいつは蚊のような姿に見えた。
その複眼でジロジロと見定められている気がしてならない。
——羽化の瞬間、耳を刺すような高周波の羽音が響いた。モスキートの細長い吻が、獲物の血を啜るストローのようにぎらりと濡れている。
恐怖で足がすくむ。
動けない。動いたら死ぬ…
あの試験会場にいた猩々型も怖かったが、こっちは無機質な感じがまた恐怖を煽ってくる。
どうする、どうする…?
そんなことを考えているうちに、
伊月が火矢の魔術を放っていた。
その一撃で完全に目が覚めた。
何をしていたんだ俺は!
リーダーだろうが!
こんなところで足を止めてでどうする!
やるしかない、やらないと!
実に愚かだが、その愚かな勇気は確かに
俺の足を動かしていた。
「たぁぁ!」
距離を詰め、切り掛かる。
なぜか知らないが、俺はその時、
「行ける!」と思った。
しかし瞬間の俺の視界から、モスキートの姿が残像のようにブレた、
後になってみればあの時俺は、
神経伝達物質ドバドバで、まともな判断ができていなかったんだと思う。
とにかく、このまま行ける。
絶対倒せるなんて考えてたところはあった。もっと相手の出方を見るべきだったんだ。
刀を振り下ろそうとした
次の瞬間には、俺の体が宙に浮いていた…
次回、第十一話「窮鼠虫を噛む」




