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インソムニア奇想譚  作者: ままはる
健康診断のついでに呪われちゃった話
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08.閉塞

⭐︎


「ノア!」


 知らせを聞いたルルとエヴァンが、息を切らして医務室へと駆け込んだ。


 ベッドには脂汗を浮かべて横たわるノアと、傍で彼の手を両手で包み込むレティシアの姿がある。更にはデュマ、クラウゼン、ポポロまでもが顔を揃えていた。


「え……何これ……冗談、よね……?」


 ノアが倒れて医務室へ運ばれた――そう聞いて駆けつけたものの、ルルはどこかで、案外ノアはケロッとしているだろうと安易に考えていた。しかし部屋に漂う重苦しい空気に、ようやく事態の深刻さを理解する。


 エヴァンはノアの顔を覗き込み、それからレティシアへと視線を移した。


「ノアの様子は?」


「呼びかけに返答がございません……熱も高く、時折うなされていて……とても、苦しそうで……」


 レティシアの瞳から、涙が一筋こぼれ落ちる。


「ノア! ティア様を泣かせるんじゃないわよ! 起きて状況を説明しなさい!」


 叩いてやろうと触れたノアの頬が異様に熱く、ルルは目を見開いて反射的に手を引いた。


「熱なんか、出したことなかったのに……」


「ノアに何が起きたんですか?」


 エヴァンが三人の教授たちを振り返る。


「それがさっぱりわからない。魔法剣の練習中、発動直前に突然胸を押さえて倒れたんだ。一年生の時に何度か発動に失敗したことがあったが、こんな反応は見たことがない」


 クラウゼンは言葉の続きを託すように、デュマに目を向けた。デュマはボサボサの頭を手で撫で付け、ボソボソとした声で話す。


「単なる体調不良とは思えませんが、念のため医務室のナースにドクター・ウェインに連絡するよう伝えました」


「父に……」


「彼のかかりつけ医はドクター・ウェインでは? 何か不都合でも?」


「……いえ」


「それにしても、この現象は何だろうねぇ? ドクターが到着するのに二、三日かかるだろうし、それまでに検査してみた方がいいんじゃない? あたしがやってあげようか?」


 ノアの体をぺたぺたと触りながら、鼻息荒くポポロが言う。レティシアは慌ててノアに覆い被さるようにして、首を強く振った。


「い、いけません! ノア様はきっとそのようなことをお望みではありません!」


「えー? でも、このまま死んじゃった方が困りません?」


「死……!?」


「ポポロ教授! 縁起でもないこと言わないでください! ティア様も、ノアならきっと大丈夫だからまともに取り合わないで!」


 ポポロをノアから引き離し、青ざめたレティシアの背中をさするルル。エヴァンは顎に手を当て、何かを考えるように視線を落とした。


「デュマ教授。一応確認なんですが、これが呪術の類の可能性はありますか? 例えば――血を使うような」


「……さて。過保護な君たちは我々にノア君を触れさせたくないようですし、自分たちで検証してみればどうでしょう。ルルさんは私の講義を受けているのだから、そのくらいはできますよね」


 デュマは黄ばんだ歯を見せ、ニヤリと笑う。


「わ、私? できるかな……」


「ルル様、お願いいたします」


 レティシアに潤んだ瞳で見つめられ、ルルは自信なさげに頷いた。回復や防御の魔法は使用頻度が高く手慣れているが、解呪となると授業以外で扱ったことがない。


「えっと……まずは外からの干渉の痕跡を調べるんだっけ?」


「魔力の対流を視るのが先じゃない?」


「あ、そっか。……ってかエヴァン。わかってるんだったら、あんたがやりなさいよ」


「いやいや、ここは回復魔法士に任せるよ」


 微笑んで一歩下がるエヴァンを軽く睨み、ルルはノアの胸元に両手を翳した。目を閉じ、小さく魔法式を唱えていく。白く淡い光がルルの手のひらを包み、その手をノアの体の上でゆっくりと動かした。


「うん……?」


 ルルの目には、ノアの持つ魔力がはっきりとした黒い靄として映っている。靄は彼の体の中で、ゆっくりと流動し渦を巻いている。


 眉を顰め、何度も手を往復させるルルに、ポポロが焦れたように身を乗り出した。


「なになに? どうしたの? 何が視える? 勿体ぶらないで早く教えてよ!」


「……閉じ込められてる……?」


「閉じ込められてる、とは……?」


 レティシアが不安そうな声で尋ねた。


「普通、魔力っていうのは微量に体外へ放出され続けているものなのよ。それなのに、ノアの魔力はびっちりと蓋をされたみたいに体の中に留まってる。外からの干渉は視えないから、呪術ではなさそうだけど……」


 ルルの説明を聞きながら、エヴァンは横目でデュマをちらりと盗み見た。彼はニヤニヤと笑いながら、ルルとノアを交互に眺めている。


「本来魔力が放出されるべき穴が塞がっているから、ノアが魔法を発動させようとした瞬間、出口を失った魔力がノアの中で暴発した……?」


「えぇ? 何それ? そんなことある?」


「そんな現象は聞いたことがないが……まぁ、理論上有り得なくはないな」


 目を丸めるポポロと、低い声で唸るクラウゼン。


「さて、どうしますか? 病院へ運びますか?」


「どうしよう……?」


 デュマに問われ、ルルはエヴァンとレティシアに視線を向けた。


 エヴァンは苦い表情で黙考する。このまま医務室に置いておくわけにもいかない。しかし病院へ運んでしまえば検査を断ることはもうできないし、そもそもこれは医者の手に負えるものではなさそうだ。


「ひとまずノアの部屋へ運ぼう」


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