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インソムニア奇想譚  作者: ままはる
オオクワガタを探していたら攫われた王女を見つけた話
24/97

24.朝デート


⭐︎


 明け方。まだ陽が昇りきらない頃に、ノアたちは宿からの脱出を試みた。


 明け方ともなると群衆のほとんどは解散しており、それでも宿の周辺に残っているのは新聞記者か、何が何でも勇者が見たいコアなミーハーだけだった。


「あっ! ひょっとして勇者様ですか!?」


 宿から出て来たノアたちに気付いた新聞記者が、カメラを構えて駆け寄ってくる。


「是非ともお話しを――」


「うるさい」


 ぶすっ。


 低い声で呟くと、ノアは魔法剣で新聞記者を刺し貫いた。深々と漆黒の剣を腹に突き立てられた記者は、ゆっくりと地面に倒れ伏す。そして、すやすやと寝息を立てて眠りについた。


「この時間なら、外で寝ていてもギリギリ誤魔化せるかもしれないね」


「この人は誤魔化せても、目撃者は誤魔化せないと思うわよ」


 楽観的なエヴァンと、恐怖に慄いた表情で逃げていく他の記者たちを見送るルル。


「だから私が魔法で眠らせるって言ったのに」


「効果は同じだ。何も問題は無い」


「視覚的な効果はトラウマレベルでしょ」


 ルルのツッコミは、ぼやく程度に抑えておいた。出会い頭に人を刺すほど、ノアの機嫌が頗る悪い。不眠三日目に突入し、目は半分座っている。


「今のうちに自然公園に行こう。クワガタ探しをした後、頃合いを見て別の宿屋に移動するよ」


「わかった」


 少しだけ、ノアの表情が明るくなる。首から虫かごをぶら下げ、片手に虫取り網を握り、軽い足取りで公園へと向かった。


⭐︎


「いやぁ、嬉しいなぁ。まさか昨日の今日で、ルチア様に朝からデートに誘っていただけるなんて」


 雲ひとつない晴天の下、同じように晴れ晴れとした表情のフェリクスが、ルチアに向かって微笑んだ。


「急なお誘いでしたのに、応じてくださって嬉しいですわ」


 ルチアはぎこちない笑顔を顔面に貼り付けて、遊歩道を歩く。


 場所は自然公園の芝生広場。リュミエールから真犯人を見つけるよう言い渡されたルチアは、手っ取り早く一番怪しいフェリクスに近付くことにしたのだ。


 自然公園は急遽厳戒態勢が敷かれ、一般人は立ち入りを制限された。公園の内外には、幾重にも衛兵が配置されている。本来ならば城の外ではルチアも変身魔法で姿を変えるのだが、相手が婚約者である為、普段通りの姿でデートに挑むこととなった。


「王都の中にこんなにも自然の溢れた公園があるだなんて、バルドレインは本当に素晴らしい国ですね」


「あ、ありがとうございます……」


「あぁ、日傘は僕がお持ちしますね。そこ、足元に大きな石があるのでお気をつけください」


「はあ……」


 ルチアは内心で狼狽する。フェリクスのエスコートは非常にスマートで、ルチアに対してとても優しい。この男が真犯人だと睨んでいたのだが、またしてもアテが外れたのだろうかと不安になっていた。


(真犯人はフェリクス様以外の人物……? だとしたら、私にはもう調べる手立てがないじゃない!)


「どうかしましたか、ルチア様?」


「あ……いえ。フェリクス様のお相手が、本当に私で良いのかと考えていました。本来ならばレティシアお姉様が――」


「僕は、貴女がいいのです」


 不意に手を握られて、ルチアは不覚にも胸がドキンと高鳴った。フェリクスの青い瞳が、ルチアの顔を覗き込む。


「ルチア様ほどの美しい方は、僕には勿体無いかもしれない。けれど僕は、貴女を一目見た時から――」


「ルチア様。お話し中申し訳ございません」


 フェリクスの気持ちが今まさに最高潮に達しようとしたその時、近衛隊長がルチアの前に跪いた。危うく雰囲気に飲まれかけていたルチアは、仄かに赤い頬を手で仰ぎながら近衛隊長に視線を移す。


「何か問題でも?」


「問題……と申しますか……――失礼いたします」


 近衛隊長は一礼してから、ルチアに小声で耳打ちした。


「公園内で、勇者一行を発見いたしました」

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