11.バルドレイン家の教え
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王都の中心に雄々しく鎮座する黒壁のバルドレイン城は、民を広く見守っているかのようにそこに在った。
街のどこからでも仰ぎ見ることのできるその城を目指し、ノアたち一行は露店の並ぶ石畳を歩いていた。
「ナナイロツノオオクワガタがいる森はどこだ?」
王女の不在にどこか沈んだ空気の漂う街並みを、ノアは気にする様子もなく突き進む。
「それならば、郊外の国立自然公園ではないでしょうか。広い芝生の広場があるのですが、森は自然のまま残した公園ですので様々な昆虫が生息していると思いますわ」
「クワガタ探しはいくらでも時間があるんだから、今はティア様を優先するわよ」
王女を城に送り届けることよりも、今すぐにでもナナイロツノオオクワガタを探しに行きたいノアを牽制するルル。
「……いいだろう。ナナイロツノオオクワガタも、こんな時間では見つけられないからな」
「それじゃあこのままお城に直行するけど、ティア様はその格好のままでお城に入れる感じ?」
渋々納得するノアの隣で、エヴァンが尋ねた。その言葉の意味を理解し兼ねたルルは、不快そうに顔を顰める。
「ティア様の服がボロ雑巾みたいだからってこと? それとも髪がボサボサで清潔感が無いから? 見た目で判断するなんて最低だと思うわ!」
「いや、僕はそういう意味で言ったんじゃないんだけど……」
むしろルルの発言の方が失礼だと思いながら、エヴァンは苦笑いを浮かべた。
「だってその姿、偽物でしょ?」
「あらぁ……魔法学部首席の目は欺けませんでしたか」
「まぁね」
レティシアは悪戯が見つかった子供のように、小さく舌を出して笑う。
「え、何? どういうこと?」
「まさかルル、本気で王女様がこの姿だと思っていたの?」
「思っていたも何も……ティア様はティア様でしょ? 影武者ってこと?」
わけがわからず、エヴァンとレティシアを交互に見遣るルル。そんな彼女に、レティシアは眉尻を下げた。
「騙してしまったようで申し訳ございませんが……この姿は『変身魔法』を掛けた姿です」
ルルは大きく目を瞬いて、ノアを振り返る。一緒に驚いて欲しかったのだが、生憎ノアの頭の中は今夜のナナイロツノオオクワガタ探しのことでいっぱいで、こちらの話は殆ど聞いていない。
「な……なんでそんな魔法が掛かってるの? 誰に掛けられたの? なんでエヴァンは最初から分かってたの? ってか、なんで教えてくれなかったの!?」
ルルは次々に沸き起こる疑問を、抑えることなく吐き出していく。その勢いに圧倒されながらも、レティシアは冷静な声音で答えた。
「この魔法は、自分で掛けています。自称魔王様が私を攫った理由は分かりませんが、考え得る限りのリスクを回避する為です。お城の外に出る時は、常にこの姿でいるように……これはお父様からバルドレイン家の女全員に叩き込まれる教えなのです」
つまり貞操を守る為である。
続いてエヴァンがルルの疑問に答える。
「ティア様からはずっと、仄かに魔法の気配がしているからね。割と最初から気付いていたよ。黙っていたのは――その方が面白いと思ったからだね」
ルルは額を押さえ、長く深い溜め息をついた。頭の中を整理するように、吐いた息をゆっくりと吸って、また同じ時間を掛けて吐き出す。
「変身魔法の気配なんて、分かるわけないでしょ……! ねぇ、ノア! 聞いてる!?」
「やはり出発は深夜だな。深夜に捜索ついでに罠を設置し、朝方に罠に掛かっていないか再度チェックに行こう」
「誰が今クワガタの話してるのよ!?」
ノアは殆どどころか、全く話を聞いていなかった。
「それで、その変身はいつ解くの? 本物のティア様も見てみたいところなんだけど」
「はい……でも、ここでは目立ってしまいますので、お城に着いてから改めてご挨拶をさせてください」




