12.おおおお姉様あぁぁぁ!
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今朝の襲撃以降追っ手に追われるようなことは無く、一行は予定通りにバルドレイン城へと到着した。
だがしかし、彼らはバルドレイン城の門で足止めを食らっていた。
「ふざけるな! そんなどこの馬の骨かもわからん小汚い女が、レティシア王女なわけがないだろうが!」
「やっぱり、そうなるよね」
顔を紅潮させて怒鳴る門番と、予想通りの展開に笑いを禁じ得ないエヴァン。
そもそも王家の女の自衛策が、一介の門番に知れ渡っているとは考えにくかった。だからその格好のままで城に入れるのかと尋ねたのだが、やはり無理そうである。
「ティア様。変身魔法、解いちゃった方がいいんじゃない?」
ここで押し問答をしていても埒が開かないと、ルルは軽い気持ちで提案する。レティシアも仕方がないと、小さく頷いた。
「そうですね。では、全裸になってしまいますので皆様は目を閉じて――」
「全裸になるならやめよう!? ってかなんで全裸!?」
「元々着ていた服は、この姿に変身した時に弾け飛んでしまいましたので」
「あぁ、そういうこと……」
納得したものの、それでは困った。どうすればこの門番を納得させられるだろうかと、ルルは頭を回転させる。一度商店街に戻って、服を購入してから出直すのが無難なところだろうか。
ちなみにエヴァンはこの状況も楽しんでいて、自ら打開の為に動く様子は無い。
「わかったわ。出直してくるから――」
無難な方法を門番に伝えようとしたルルの前に、突如ノアが大きく歩み出た。
「チャッピーは馬の骨ではない。ハリネズミだ」
「はぁ? 何の話だ」
門番は眉を顰め、警戒を強める。
「俺はチャッピーの話をしている! いいか? この女の前腕のこの部分が、俺の可愛いチャッピーだ。左よりも右腕の方が弾力があり、よりチャッピー感が強い。しかしまぁ、左腕も決して悪くはないがな。それ以外の肉の部分――それがお前らの王女だ」
どうだと言わんばかりに胸を張るノアに、門番はひとまず沈黙した。
長い長い沈黙の後、門番はゆっくりと問う。
「……貴様は何を言っているんだ?」
「お前こそ何を言っているんだ? もう一度説明しろと? 城の門番というものは、頭が悪くても就けるのか」
「っ! 不審者として全員捕らえ、牢にぶち込んでやる!」
その一言で、様子を窺っていた他の門番たちが一斉に動き出し、ノアたちを取り囲んだ。
「ちょっと待ってよ! 私たちは本当に――」
槍の穂先を眼前に向けられ、ルルの顔が青ざめる。
その時。
「お姉様ぁぁぁぁ!」
唐突に、金切り声に近い女の声が頭上から降ってきた。
何事かと全員が高い城壁を見上げると、煌びやかなドレスに身を包んだ少女が双眼鏡を片手に見張り台に立ち、こちらに向かって大きく手を振っていた。
「まぁ、ルチア」
レティシアは嬉しそうな声音で呟くと、場違いなほど丁寧に手を振り返す。
「ルチア……って?」
「私の妹ですわ」
侍従たちにてんやわんやと見守られながら、見張り台から降りてくるルチア。栗色の柔らかい髪を靡かせ、両目にたっぷりと涙を湛えながら一直線にレティシアへと走って来た。
「おおおお姉様あ゛ぁぁぁ! ごぶ……ごぶご無事で何よりです゛ぅぅ!」
「汚いな」
「黙ってて」
顔面からあらゆる体液を垂れ流すルチアに、ぼそりと呟くノア。その後ろ頭をルルは強めに叩く。
「ルチア。心配してくださっていたのですか? ありがとうございます」
「当たり前じゃないですかぁぁ! 本当に……本当に……っ! 良かったぁぁ!」
強く抱き合い、再会を喜び合う姉妹。その様子を門番たちは、一様に唖然とした顔で眺めていた。
「お前たち、王女様方の御前で何をしている? 早く道をお開けなさい! レティシア様のご帰還を、すぐに各所へ通達せよ!」
「は……はいっ!」
ルチアの侍従の一人がぴしゃりと言うと、我に返った門番たちは、蜘蛛の子を散らすように各方面へと走って行った。
「お帰りなさいませ、レティシア様。ルチア様は大層心を痛められ、連日見張り台に立たれてはレティシア様のご帰還を願っておられたのですよ」
侍従の言葉に、レティシアは腕の中の妹の頭をそっと撫でる。
「……心労をかけてしまって、ごめんなさい」
「いいえ! ご苦労をされたのはお姉様の方ですわ! 早くお部屋にお戻りになって、その変身魔法を解いてくださいませ。お父様も大層お喜びになりますわ!」
レティシアの手を強く引き、門を潜るルチア。その後を侍従たちが慌てて追いかけて行く。
「――……それで、あなた方は?」
侍従の女は、今ようやくノアたちの存在に気が付いたといった様子で声を掛けた。
「私たちがティア……あ、レティシア様をお助けした感じ……みたいな?」
「……」
侍従は胡散臭いものを見るように目を細め、それから目線でついて来るようにと促した。
「……感じ悪っ」
「まぁまぁ。お城に入れるなんて、なかなか無い経験だよ?」
釈然としないルルを、ニコニコと笑顔で宥めるエヴァン。
城内に入った頃には、三人はすっかりレティシアとは引き離されてしまっていた。感じの悪い侍従に案内されるまま、広くて長くて無駄に豪華な廊下をひたすら進んで行く。
「では、こちらの部屋でお待ちください。改めて事情を伺いに人が参りますので」
通された部屋は応接室のようだった。床には見事な刺繍の絨毯が敷かれ、調度品はどれも一目見て高価だと分かるものばかり。腰まで沈む柔らかいソファに座ったルルは、所在なく上下左右に首を動かしている。
「やっぱりお城って凄いわねぇ。なんだかティア様が、本当に王女様だったんだなって実感するわ」
「それにしても、なかなかインパクトのある妹君だったね」
「ルチア様……だったっけ? 確かティア様と母親は違うのよね?」
「うん。三姉妹、全員腹違いだって話だよ」
そんなルルとエヴァンの会話には興味の無いノアは、ふと窓から外を覗いてみた。この部屋は中庭に面していて、美しく整備された庭園が目に飛び込んできた。
「オオムラサキだ。モンキアゲハ、オオスカシバもいる」
色とりどりの花が美しい庭園だが、ノアの目に留まるのは虫ばかり。窓を開けて外に出ようとしたので、さすがにそれはルルが止めた。




