抜け駆け
蟻が巣くっていた遺跡は予想通り罠などがほとんど発動済みで、安全だったかわりに財宝もほとんど壊されていたらしい。
らしい、というのは僕は一歩も入っていないからで、チッカたちは女王蟻を倒して卵を潰したら、探索もそこそこに引き上げたのだそうだ。
―――だから一応、遺跡内にはまだ探せばなにかあるかもしれない。
「じゃあ潜るよな?」
「もちろんだ。遺跡探索は冒険者の華だろう」
「なるほどそういうものなのか」
となるとニグとヒルティースが俄然やる気を出して、つい昨日彼らのパーティに仮加入したラミルンがふむふむと頷く。
うーん、不安だなこの三人。改めて考えると無茶しそうな組み合わせだ。
討伐隊が女王蟻を倒してきて、兎人族の里は祝勝ムードに入っていた。
広場にはいい匂いの香木が焚かれ、兎人族秘蔵の果実酒が振る舞われ、女王蟻の死骸をやんちゃな兎人族の里の子供たちが登って遊んでいる。あの気難しい前里長さんですら、嬉しそうにその光景を眺めていた。
そんな広場の片隅で、僕たちDランクの二パーティはもらった果実を囓っていた。この森で採れた果物らしいけれど町でも村でも見たことがなくって、優しい甘さで美味しい。
けっこう大きくって食べごたえもあるし、町で売ったらけっこう流行りそうだとリルエッタがさっそく商人の顔をしていたけれど、森の奥にしかないしあまり量も採れないものらしく残念がっていた。
あまり日持ちもしなさそうだし、兎人族がここを離れるとなれば採取もできなくなる。種が入ってたから持ち帰って育てることはできそうだけれど、育つかどうかは怪しいし。
「バカね。いくら罠はほとんど蟻が起動させてるとはいっても、残っていないとは言い切れないわ。それに、遺跡の罠なら時間がたてば自動的に再設置されることもあるのよ。貴方たちはそういうの対処できないでしょう?」
「そうですねー。遺跡の仕掛けってちょっと難しいので、斥候も魔術士も治癒術士もいなければオススメできないかとー」
僕と同じ不安を感じたのか、リルエッタとユーネが渋い表情をする。普通じゃないもんね、遺跡。下水道の遺跡は罠はなかったけれど、入り口の仕掛けやそこから続いてきた部屋の様子にはビックリした。
挑戦するなら遺跡に慣れた斥候か、知識がある魔術士か、怪我をしても治せる治癒術士のうち二人は欲しいところだ。
「そんなのお前らがいるじゃねぇか。まさかこんな場所にまで来て、このまま大した冒険もせず帰る気じゃないだろうな?」
「遺跡探索の経験はあるだろう? それも、東の奴ら出し抜いて下水道で見つけたっていう痛快なのが」
ニグとヒルティースはなにをバカなことをと言うような顔をする。どうやら遺跡探索のメンバーには僕らも数に入っていたようだ。
というか今回、僕らはけっこう頑張ってたんだけどね?
「経験があるって言っても一回だけだよ。慣れてなんかいないし、行くならチッカ誘えばよくない? 今回は後衛組でけっこう一緒に組んでたでしょ」
「あのハーフリングの姉ちゃんはダメだろ……。あんな見た目なのに上位ランクで一番ガチ寄りだもんよ」
「ああ、組んでると引率になる。そういうのじゃダメなんだ。オレたちはオレたちが格好良く活躍したいんだからな」
最近僕も知ったことだけれど、引率とは上位ランクの冒険者が下位ランクの面倒を見ながら行動を共にすることらしい。それを長く続けるのは双方にとってあまりいいことではないとのことなのだそうだ。
まあ短期ならいい勉強になるとはいえ、二人の性格的には嫌だっただろう。特に今回の二人は主に組んでいたのがチッカと神官さんだ。きっとそうとうなダメ出しを喰らったのではないか。
……それでも今まで文句を言わなかったのは、そんなこと言ってられなかったからに違いない。そういう意味では、我慢した方だとも言える。
「蟻の掃討はしなきゃだろ? どうせあの遺跡は掃除しなきゃならないんだ。今の弱った蟻なら戦闘職でもオレたちで倒せるんだし、動きが鈍いから逃げるのも楽だからな。数を減らしにいくと思えばいいことだろ」
ニグの言葉はきっと後付けで、本当はただただ遺跡に潜ってみたいだけなんだろう。けれどまあ、一理はある。まだ蟻は減らさないといけない。
とはいえ働き蟻ならともかく、戦闘職は外殻が硬すぎて僕だと倒しきれないんだけど。力負けするから目とか関節とか狙うのも危ないし。
個人的には、行くのは危険な気がするが……僕はリルエッタとユーネに目を向ける。
「……まあ、この森の遺跡に興味はあるわ」
そういえば以前、下水道の遺跡に潜ったときリルエッタはこの地域に遺跡があるって予見していた。古代、東の都エルムフラーレンの遺跡群からヒリエンカの大橋を通った先には、なにか重要な場所があったはずだと。
あのときから気にはなっていたのだろう。
「ちょっとだけならユーネも気になりますけどー」
どうやらパーティの二人は引かれているらしい。
それはそうか。冒険者なら遺跡探索はやっぱり心惹かれるよね。前みたいに魔法の武器防具とかもあるかもだし。あの盾ってそういえば、まだ宿で埃被ってるのかな。
なんにしろ組んでいるのだから、二人が行きたいなら僕も行くしかない。それにやっぱり遺跡は特別だ。少しワクワクする自分もいる。
「危なくなったらすぐ帰るなら、僕もいいよ」
「よし決まりだ。なら今から行こうぜ! 宴会でみんな浮かれてる今が好機だ!」
「ああ、出し抜き抜け駆けは冒険者の常だ。今の内にこっそり出発しよう」
ニグが手を叩いて立ち上がり、ヒルティースが続く。
このまま蟻を掃討するならいずれ上位ランクで編成された討伐隊がまた組まれるだろうし、それに先んじるなら早い方がいいけれど。
「いや無理でしょ。蟻まだ数いるし、明るいうちは入り口まで辿り着けないよ」
「そうね。行くならまた夜にしないと」
「死にに行くようなものですよー」
僕たち三人に一斉に止められて、しゅんとして座りなおす二人。
「……この二人のパーティで良かったのか不安になってきたな」
それを見てラミルンは砂色の耳を伏せる。その不安は、しばらくは大切に持っていてほしいと切に思う。




