仮結成
「彼のパーティでもいいのだが、ワタシの斥候としての能力は彼と被るからな。他の二パーティにもテテニー姉さんとチッカがいるし、そもそも格上すぎて入る余地がない。その点、お前たちなら人数も斥候も足りないだろうし、実力も近いだろう?」
彼、とラミルンは僕を視線で示す。
たしかに僕らのパーティだと、ラミルンが入っても少しバランスが悪いだろう。四人パーティで斥候二人は多いし、ユーネどころか僕だってマトモな前衛とは言えないのにさらに後衛の弓使いが増えるのはさすがにダメな気がする。僕らが受け入れたとしても、さすがにバルクが物申してくる気がする。
それに僕らは、どちらかといえば探索系のパーティだ。
ラミルンは性格的にも技能的にも討伐系の方が向いているのではないかと思う。そういう意味でも、ニグとヒルティースのパーティを選ぶのは正解なのではないか。
「まあ、たしかに斥候足りてないけどよ……」
「申し出は嬉しいが、そちらはオレたちでいいのか?」
「お前たちは彼と同じDランクなのだろう? Dは冒険者として一人前の段階だと聞いた。ワタシは一番下のランクになるだろうから、いいかどうか決めるのはそちらだ」
お金の使い方も知らないラミルンがなんで冒険者のランクについて知ってるのか気になったけれど、そういえば僕たちがDランク昇格したお祝いのときに再会したんだったか。
彼女の耳なら聞こえていない方がおかしい。
「どうするヒルティース、念願の斥候だぞ。これで討伐対象見つけるのに散々歩き回る苦労ともおさらばか?」
「兎人族の耳や脚のすごさは分かってるからな。ラミルンの実力も申し分ない。こちらとしてはありがたい話だ」
ニグは喜びを抑えきれないソワソワした声。ヒルティースは冷静に損得を計算する声だ。
ニグとヒルティースはずっと二人だけで組んでいたけれど、べつに他の仲間が欲しくなかったわけではない。現に以前はリルエッタとユーネを仲間に誘おうとしたこともあるのだ。
ではなぜずっと二人組でやっているのか……と言えば、それはもう運が悪いのである。
冒険者パーティは欠員が出やすい。怪我なんて日常茶飯事だし、死んだり再起不能になったりもけっこう聞く。もちろん危険な仕事だから普通に辞める者も多い。
Fランクのころは性格が悪くって誰も仲間になってくれなかった二人でも、実力がついてきた今ならお誘いが来てもおかしくはないはずだし、実際そういう機会はあった。
ただ、どこかのパーティに欠員が出たときに限ってちょうど他のパーティにも欠員が出たとか、二人が遠出してるうちにパーティ募集が埋まったとか、相手パーティに以前から喧嘩してる相手がいたとか……最後のは二人の自業自得なんだけれど、そういうので縁がなかったとかなんとか。大部屋に寝泊まりしてるとよく愚痴を聞かされるから知っている。
だからこの話は、二人にとって渡りに舟のはずだ。
「そうか。なら……」
「だがオレたちのパーティには神官がいない」
けれどヒルティースは冷静だった。
仲間はそこまで簡単に決められはしない。相手に問題があるならなおさらだ。
「君たちは怒りで我を失うのだろう? それを止めるには平静の治癒魔術……だったか? それが必要だから、今回の戦いでも兎人族は常に治癒術士と行動を共にしている。だがオレたちは神官じゃないから、君が暴走したときは止められない」
そうだ。ラミルンが一度暴走したときはヒルティースも一緒にいた。あのときのラミルンは強かったけれど、敵の数がどれだけ多くても突っ込んでしまうなら危険すぎる。
実際に近くで見た彼が、あんな事態になるのは避けたいと思うのは当然だ。
「お前は止めてくれただろう? ワタシが暴走したら前と同じようにしてくれればいい」
けれどラミルンは肩をすくめ、そう言い切った。
……あのときってたしか、思いっきり殴られてたけれど。それで気絶したのにいいのだろうか。それをやったヒルティース自身も今のは驚いたのか、頬が引きつってる。
「それに兎人族は衝動に身を任せると戦闘力が上がる。悪いことばかりではないぞ」
「目の当たりにした身からしたら、アテにしたくない力なんだよ。毎回怪我されたら迷惑だ」
怪我すると休むしかないからね。特に治癒術士がいないパーティはなるべく怪我をしないように戦うものだ。
「あの衝動は兎人族にとって、自由を勝ち取った際の勲章のようなものです。ですが同時に彼らは、それを危ういものだと理解してもいます。今回の件でその認識はさらに強まったでしょう。……そしてどのみち、衝動を制御できなければ人間社会に馴染むことはできません」
たぶん、ラミルンと神官さんはそこまで話していたのだろう。つまりその事態は想定済み。
そのうえで二人を選んだ。治癒術士がいないパーティだけれど、それでなんとかならなければ里の者たちを人間の町へ連れて行くわけにはいかない。それは絶対に問題になる。
「つまり冒険者をやりながら衝動を抑える訓練もしたいということか? そのための補助もオレたちにやってほしいと?」
「兎人族の里のためにゴブリンの群へ挑んだあなたたちを、わたくしは信用しています」
祈るように両手を胸の前で組んで、神官さんは微笑む。
前々から思ってたけれど神官さん、ニグとヒルティースのことかなり気に入ってるよね。
「……まあ、あれこれ考えるより、まずはお試しで何回か一緒に冒険へ出てみるか。それでどうしようもないようだったらまた考えればいいしな」
「おう。冒険者の先輩としてしっかり面倒みてやんよ!」
ヒルティースが折れると、ニグがニカッと笑って親指を立てる。
不安要素はあるしまだ仮みたいな感じだけれど、どうやら三人で組むことで決まりのようだ。
うん、ニグとヒルティースは前衛だし、斥候で弓使いのラミルンが入ればなかなかいいパーティになるんじゃないだろうか。彼女の耳と脚は冒険でもかなり強みになるだろう。
「良かったですね、ラミルンさん。それではお二人とも、彼女をよろしくお願いします。……ところで、少しよろしいですか?」
神官さんはラミルンに微笑みかけ、ニグとヒルティースへ丁寧に頭を下げてから、話題を変える。
「先ほど、キリがDランク冒険者であるというような話が聞こえた気がするのですが、どういうことでしょうか?」




