攻略編成
結果として、戦闘職の蟻はあれ以上強くはならなかった。
けれど比率はかなり増えて、しかも連携するようになったから前衛はかなりの苦戦を強いられたそうだ。
僕らのいる後衛の場所にまで何度かやって来ていたし、罠の発動するタイミングから大回りして前線パーティを囲もうと動いていた形跡も分かっている。それだけでも厄介さが分かるというものだ。
けれど、それも長くは続かなかった。手強くなったのはほんの数日で、それからは見るからに蟻たちの動きが鈍ったのだ。
「―――という経緯で、ぼくたちは蟻の巣穴の出入り口を発見した。人が通れるくらいの大きな穴だったし、あそこから巣に入ることもできると思うよ」
僕たちの臨時パーティのリーダーは当然だけどペリドットだ。代表して報告する姿が堂々として頼もしい。
「前線じゃが、やはり昨日や一昨日とおなじように動きが非常に鈍くなっておる。予想したとおり許容量以上の魔力を蓄えてしまったんじゃろうな。しかも今日は連携どころか、意味不明な行動や同族の蟻を殺すような動きも確認された。意識朦朧、あるいは錯乱状態と言えるじゃろう。おかげで予測しづらくて面倒なくらいじゃったよ」
前線パーティの報告者はダルダンのようだ。本当は博識なシェイアがやった方がいいんだけれど、残念ながら彼女は長く話したがらない。なら一番歳上のダルダンということか。……そういえば、このドワーフは何歳なのだろうか。
面倒、とは言っていても、厄介ではなかったのだろう。豊かな髭をしごきながら話すドワーフの顔には余裕が見える。
「あたしたちの方はなにもなし。ただなにもなさすぎて働きすら一匹も見かけなかったから、行動範囲が狭まっているのは確かだと思う。前線でそんなだったなら、まともに行動できてない可能性があるね」
もう一つの後衛パーティのリーダーはチッカらしい。少し意外だ。ニグとヒルティースはともかく、あっちには神官さんもいる。
チッカは誰かに任せられるときは任せちゃうから、てっきり神官さんがやってるものだと思ってた。今回はあくまで主体は冒険者だと遠慮したのかもしれない。
「さて、では相談しよう。いつ頃攻める?」
報告が出揃って、この場の全員を見回したペリドットの提示した議題は端的だった。攻めることは確定らしい。
「今日の夜だろ」
ウェインが即答した。まるで当然のことのようにハッキリと。
「夜はダメじゃないかい? 蟻が巣に戻ってる時間帯だよ。いくら弱体化してても数がいれば面倒だろう?」
「そこは出入り口なんだろ? ってことは日中は蟻が近くにうようよしてるってっことじゃねぇか。中の様子を見てケツ捲るってなったら、一目散に外を目指せる夜中だろ」
「ああ、なるほどたしかにね。ところでなにか悪いモノでも拾い食いしたのかい? 蟻の死骸とか」
「喰うか! それ毒なんだろうが!」
単純に毒とも言い切れないんだけどな。
僕もペリドットと同じことを思ったけれど、ウェインは戦闘に関してはけっこう鋭いんだ。戦闘訓練ではビックリするくらい真っ当なことを言うことも多いし、こと戦いにだけは信用できる。
まあその分、普段はまったく信用ならないんだけど……いや、できないのは信用じゃなくて信頼か。たぶん戦うことしかやってこなかったからだろうな。
「ま、迷宮蟻っていうだけあって巣は迷路になってるだろうからね。攻略は数日かかるかもしれないし、最初は夜でいいんじゃない?」
チッカがウェインに賛成すると、ペリドットは肩をすくめる。
「そうだね。遺跡探索の主軸は君になるだろうし、チッカ君に判断は任せるよ」
「途中で帰りかけたあたしを信じてもらってどうも。じゃあ聞くけれど、最高に上手く行った場合は女王を討伐しちゃってもいいの? 蟻たちが統率を失うって話だけれど」
「おそらくだけれど、問題ないだろうね。蟻はかなり減っているし、魔力濃縮のしすぎで弱っている。女王の統率がなくなったとしても、今の代が遠くまで行けるとは思えないかな」
「なら、卵は全部潰さなきゃね。条件は分かった」
今回の仕事内容はあくまで蟻の駆逐だ。すごい数の蟻が森に散られると困るから、こうして冒険者も人数を集めて来たのだ。
まあ予想よりもだいぶん大変だったのだけれど、ここまできたら完璧に終わらせたい。
「それで、連れて行きたいパーティメンバーは決まっているかい?」
「一応はね。人数はあたし合わせてフルパーティの六人。ウェイン、シェイアはとりあえず連れて行きたい」
まずは普段から組んでて連携がとりやすい二人か。
遺跡探索も兼ねる以上、チッカは確定でメンバーに入る。なんなら彼女がリーダーでもいい。なぜならここにいる誰もが、遺跡探索の経験はほとんどないからだ。
つい最近までこの地域は枯れた遺跡しかないと言われ続けてきたから、ヒリエンカの冒険者たちは遺跡の冒険に縁が薄い。―――それが分かっているから、ペリドットも彼女の意見は尊重する。この人選にも、彼は頷いただけだった。
「それと、暗視が利くドワーフのダルダン。神官は……コルクブリズ」
ダルダンはすんなり指名したけれど、コルクブリズはギリギリまで迷ったな。神官さんとどっちがいいか悩んだのだろう。
実力ではおそらく神官さんが上。だけどより冒険者として機転が利くのはコルクブリズだから、たぶんそれが決め手だろう。
神官さんとチッカ、イマイチ合わなさそうだし。
これで海猫の旋風団から二人。残りは……一枠。
「それで、最後は……」
チッカは誰を指名するのか。まだ名前を呼ばれていない者が息を飲む中、太陽の輝き宿す緑髪の青年が髪を掻き上げる。
「フフン、それはモチロンぼく―――」
「最後の一人は自分に行かせてください」
そう手を挙げたのはサノだった。
てっきり僕もペリドットになるかと思っていたけれど、立候補もあるんだ。
「兎人族と冒険者の共闘という話でしたでしょう? 一人くらいは連れて行ってもらわないと立つ瀬がありませんからね」
「じゃ、それでいいよ」
絶句するペリドットを尻目に、チッカが頷く。……行きたかったんだねペリドット。ちょっとかわいそうだ。
けれどサノは弓が使えるし近接戦もできる。パーティの最後の一人としては悪くはないのではないか。
「これでメンバーは決まりだね。夜になったら、このパーティで巣穴に入る。……そうだね、シェイアの魔力回復のためにも、今日の午後は休息に当てよっか」
チッカがそう締める。それを聞いて、僕は静かに息を吐いた。
……正直、ここで選ばれるとは思ってなかった。ここまで来たらもう僕に出番はない。精鋭の数は余るほど揃っているのだし、わざわざ僕を連れて行っても足手まといにしかならないのは目に見えている。そもそも魔物の巣に入って行くなんて僕の実力だと自殺行為だから、選ばれたって困る。
けれど―――少しだけ。本当に少しだけ、残念に思ったのだ。




