議論
休憩のために新しく造られた拠点は、山小屋のようなものだったけれど広さはあった。僕たちが全員入るとさすがに狭く感じるし、急造の休憩所だから隙間風も吹くけれど、よくこんなのを短期間で建てたものだと感心したほどだ。
……もっとも物作りが苦手な兎人族の手際はやはり悪かったようで、かなりダルダンがやったらしい。
僕たちは一旦そこに集まって、思い思いに腰を落ち着ける。
椅子などはない。だからみんな床や、持ち込んだ食料や錬金術用の素材の箱に座っていた。兎人族の住居のような地面じゃなくてちゃんと床を造ってくれたのは、ダルダンのおかげだろう。
「つまり、蟻が死んだ蟻を食べると、蟻を強化していた魔力が食べた方に移っちゃって、さらに強くなっちゃうってこと?」
「そう」
僕の確認のような質問にシェイアが頷く。
シェイアが任されて、そしてリルエッタへ押しつけられた説明は分かりやすかった。だからみんな一様に暗い表情をしている。
つまり迷宮蟻は、数を減らせば減らすほどに個体が強くなるらしい。
「今回の前線だが、戦闘職の蟻の比率が目に見えて多かった」
前線組はみな疲労困憊といった感じだ。シェイア、ダルダン、コルクブリズ、サノ、ラミルンの五人は壁に背を預けている。今回はかなり激しい戦闘をしたのだろう。
そんな中ウェインだけはドッカと床にあぐらを掻いて、普段は見せない真剣な顔で報告した。なんというか、こういうところはさすがである。
「しかも、奴ら連携しやがる。今回は一回火炎球見たら散開しやがってな。囲まれたから早々に退却してきた。奴ら接近戦でも倒せはするが、相手すると足を止められる程度には強いからな。手間取ると後続に数で潰される」
一回囲まれて切り抜けて来たのか。それはそうとう大変だっただろう。疲労してるのも分かる。
「……しかし不思議だよな。魔力によって強化されれば強くなるのは分かるが、だからって魔力が濃くなっただけであんなふうになるのか? 人間も魔力の濃いところにいれば強くなれんのかよ」
ニグが辟易とした顔で疑問を口にするが、それについては知ってたりする。
「昔は今よりももっと大地の下を流れる霊脈の数が多かったんだって。それが少なくなって魔力が薄くなったせいで、弱体化した種がけっこういるらしいよ。……だからたぶん、迷宮蟻は元々強かった種で、元の強さに戻ってるだけなんだと思う」
「なんでそんなの知ってるんだよお前」
「イルゼの魔物図鑑に書いてあった」
その魔物図鑑にも迷宮蟻は書いてなかった。あれは主にヒリエンカ周辺の魔物について書かれたものだったから、もしかしたら別の土地の魔物なのかもしれない。
イルゼは二冊目を執筆中だから、迷宮蟻の情報はすごく喜ぶのではないか。
「前に戦ったブリザードウォレスも、たぶんそうですよねー」
ユーネが口にしたのは、あまり思い出したくない戦いの話だ。あれは本当に本当に全滅するところだった。
でもどうだろう。あの魔物は姿とかは普通のと同じだったらしいし、氷属性の魔力溜まりがブリザードウォレスの魔法に合いすぎただけの可能性もある。
「魔力で強化ってより、本来の姿に戻ってる感じっスか。進化したみたいに感じてたっスけど、どっちかっていうと先祖返りっスね」
「濃すぎるマナは有害。許容量を超えれば毒になる。人間はあんなふうに強くはならない」
マナが毒になるのは、体感として何度か経験してきた。マナが濃いところに長くいると体温が少し高くなってきて、やがて息が詰まる感じがしてくる。たぶん、それが続くと体調を崩すだろう。
マナ溜まりで森の中にぽっかりと薬草しか生えていない場所があるのも、魔力に耐えられない植物は枯れてしまうからではないか。
「それで、ぼくが思うに作戦を変える必要があると思うのだけれど、どうしようか?」
脱線しかけた話をペリドットが戻した。たしかに今は蟻の強化の原因より、今後の作戦を考えなければならない。
まず口火を切ったのはヒルティースだった。
「蟻は死んだ蟻を食べて強くなってるんだろ? なら死骸が残らないように蟻を倒せばいいんじゃないか?」
「良い意見だね。だけど、それだとシェイア君の火炎球や錬金術の仕掛けでしか倒せなくなるかな? どうだろうリルエッタ君」
「火炎球でも直撃以外で吹き飛ばしたのは死骸が残るわ。錬金術の矢や罠でも同じ」
「ふぅむ、後衛が待ち伏せされたのならば、午後の編成は見直すべきではないかの」
「たしかに。今後は四パーティに分けるのはやめて、午前中と同じ構成にした方がいいかもしれないね。あ、前線パーティの前衛でぼくと交代したい人はいるかな?」
「テメェは後ろ護ってろ」
「交代制で戦いに出る兎人族の勇士たちも、しばらくは固まって行動してもらうようにします。今まで通り、戦いに出るときは疲労の少ない神官に協力を仰がせてください」
「フフフフフフ、すみませんが拙僧は午後まで休憩します。魔力の回復に努めます」
「あ、それならユーネ行きますよー。いつも通り射手のみなさんの後ろで控えますね」
「わたくしも行きましょう。サノさんが疲労しているので、指揮はテテニーさんにお願いします」
「分かったっス。んー、というかっスね。これ以上蟻が強くなる前に女王蟻を倒して、遺跡を制圧するってのはさすがに無謀っスか?」
「私たちは勇者じゃない」
一つの発言を皮切りに議論が続いていく。ランクも関係なく、それどころか冒険者であるかどうかも関係なく、疲労困憊の人たちも積極的に会話に参加していた。
蟻の駆逐は難題で、僕たちは何度もこうして話し合ってきていた。もう誰にも遠慮はない。こうして意見が交わされれば新しい考えがなにかしら出てくるもので、ここにいるみんながその重要性を理解していた。
チッカが手を挙げる。
「というか、この仕事はあたしたちには荷が重すぎるんじゃない? これ以上は割に合わない気もするし、諦めるのも視野に入れた方がいいと思うけれど」
その意見は全員をしばし沈黙させて、彼女へと注目を集めさせたのだ。




