大当たり?
これは、おかしい。あまりのおかしさに固まってしまった。
兵士たちはこの廃村を調べたはずだ。それこそ人数を動員して隅から隅まで調べていているはずの場所である。
「えっとー……大当たりー、ってことですかねー……?」
ユーネが呆気にとられた顔で間抜けなことを言って、積まれた荷物に手を延ばす。―――それを見て、ハッとした。
「待ちなさいユーネ!」
とっさに制止する。ユーネがビクッとして手と足を引っ込めた。少し可哀想だけれど、ここでうかつに動かせてはいけない。
わたしはしゃがんで床に明かりを近づける。うっすらと埃が積もっているから、わたしでも分かった。
「しばらく立ち入った人はいなさそうね。……兵士も」
「荷物の上の埃も動いてないね」
その場で目を凝らしていたキリが教えてくれる。たまにだけれど彼は斥候の技術云々を抜きにして、単純に目がいいのではないかと思うときがある。
つまりここは長い間、手つかずだ。
「……まあ、見過ごしていたということもあるでしょう。こういうのを確認する意味もあって、わたしたちはここまで足を伸ばしたのよ」
しばらく考えて、わたしは思考を振り払うように首を振った。
探し物が意外に身近な場所から見つかることなんて珍しくもない。たまたま兵士たちの死角になっていた、ということではないか。
「リルエッタさーん、どうしたんですか?」
さっきわたしが大きな声を出したからだろう。アニアが上から声をかけてくる。
「目的のモノが見つかったわ。ビックリするほど簡単に」
「えっ? 本当に?」
驚きの声だ。
案内こそしてくれたものの、彼女もまさかここに残っているとは思っていなかったのだろう。
「うーん……ねえリルエッタ。これ、偽物ってことはないかな?」
キリの眉をひそめながら、妙な勘ぐりをする。
「捕まらなかったガルブ一家の誰かが兵士さんたちが来る前にここにあったものを運び出して、偽物を置いていったとか。でも兵士さんたちはこれが偽物というのが分かったから、そのまま放置した……なんてどう?」
「うーん……面白いけれど、その想定だと運び出すまではともかく、こんなに大量の偽物を用意する時間があったとは思えないし、必要もないのではないかしら? そんなことをしている間にできるだけ逃げた方がいいもの」
「あ、そっか。そうだよね」
「でも、一考の余地はあるかもしれないわ」
推理としては少し雑だが、たしかにこれが偽物……梱包された中身がただの砂とか小麦粉などであったなら、兵士たちも馬鹿馬鹿しくて押収しなかったのではないか。
もちろん、偽物でも一つ一つ中を開けて確認するべきではあるのだけれど、怠惰な兵士がサボってそのままなんてこともあるかもしれない。そんな質の悪い冒険者のような兵がいるとは思いたくないが、大勢でここを見つけられなかった無能の烙印よりは、個人の怠け者がいたとした方がまだヒリエンカにとって救いがある。
「……ガルブ一家の誰か、あまり立場の高くない下っ端が、ここにあった薬物を常習的に持ち出していた可能性はあるかもしれないわね」
「ああー、上の人にバレないよう偽物を用意してー、少しずつ在庫から盗んでいたってことですねー」
売り払うか自分で使うか、とにかく動機なら考えつく。悪党の集まりであればありえそうなものだ。そう考えれば、領主様が言っていた足りない分というのは偽物にすげ替えられた分なのかもしれない。
いや、ここには調査された痕跡がなさ過ぎるから、やはり可能性はかなり低いか。
「……とりあえず、ここで考えていても仕方がないわ。証拠品を一つ持っていきましょう」
「そうだね。ここ、変なニオイするしあまり長居したくないな」
「たしかに薬物臭いですねー」
扉を開けた瞬間から薬品の臭いは鼻についている。普段嗅がない香りだ。かすかではあるものの、キリの言うとおり長居すると気分が悪くなりそうだった。……こういう臭いを放っている時点で本物な気がするが、幸か不幸かわたしはガルブ一家が製造していた薬物を見たことはないので確かめようがない。
わたしはハンカチを取り出して、目につく限りで一番小さな梱包をくるんで持つ。本物なのか偽物なのかは分からないけれど、できれば梱包の上からでも触れたいとは思わなかった。
扉をしっかりと閉めて、三人で階段を上る。
「どうでしたか?」
「本当にあったんですか?」
外に出て正常な空気を吸うと、自分でも驚くほどホッとした。けれどゆっくり深呼吸する間もなく、ヨハキンとアニアが立て続けに質問を投げてくる。
「ええ、あったわよ。案内してくれてありがとう、おかげで助かったわ」
不可解ではあるが、実際に探し物があったのは間違いない。この二人には感謝するべきだろう。
「そっか……本当にあったんだ……」
「まさかまさかですね。もしやヒリエンカの兵士はイマイチですか? 自分たちを助けてくれたのも冒険者でしたし」
人差し指で顎に触れて遺跡を覗き込むアニアと、口の端を歪めるヨハキン。そういえば違法奴隷だった彼らを助けたのは、海猫の旋風団とあの三人組の合同パーティだったか。本来ならそれは衛兵の役割だ。
ガルブ一家の捕り物に町の兵は貢献していない。せいぜい身柄を引き渡されて牢に入れたくらいだろう。ヨハキンが辛辣になるのも分かる。……この二人は被害者であり、兵士たちがガルブ一家を取り締まれなかったから苦しんでいた。
「領主様に貴方たちのことを話しても大丈夫かしら? 多少は謝礼金が出してもらえるよう交渉するつもりだけれど」
「いえ、話してもいいけれどお金は大丈夫です。大したことはやっていませんので」
「あ、あたしもお金まではいりません。孤児院は領主様の支援で運営されていると聞いていますから、もう十分お世話になってます!」
新人で孤児院出身ならあまり余裕などないだろうから、貰えるものは貰っておけばいいのに。
まあ教会が孤児を着の身着のままで放り出すわけがない。ある程度の支度金は渡されているのだろう。
「そう。じゃあ、今度食事でも奢るわね。……とりあえず一回、町へ戻りましょう。今から戻れば明るい内に領主様に報告できるわ」
キリとユーネに目配せすると、二人とも小さく頷く。本当にかすかな動きだったから、アニアとヨハキンには気づかれなかったはずだ。
本来であればもう少しこの廃村を見回って、それから薬草畑の方へも足を伸ばすべきだろう。ただ、いくら過去を吹っ切りに来たとしてもアニアとヨハキンはこんな場所にゆっくりしたくないに違いない。
あんな素人丸出しの油断のままにゴブリンに襲撃された新人たちだ。帰り道で魔物に遭遇する可能性は低いだろうけれど、もしもということがある。正直、このまま二人だけで帰すのは心配だった。
もう十分以上成果は出ているのだし、逆に言えばここでこれ以上の成果はもう得られないだろう。それならばこの場所を教えてくれた二人と帰途につき、冒険者の常識的な知識を伝えるくらいのお礼はしてもいい。




