手分け
今日は朝の内に手分けして聞き込みを行い、昼に集まって情報交換を行う予定だった。
わたしたちはその予定よりも早めに集まって、適当に食事ができるお店に入る。冒険者の店は避けた。
「……と、いう感じね」
わたしは自分が聞いてきたことをすべて話して、キノコと猪肉の炒め物を食べる。
「やっぱりゼルマは怪しそうだね」
「そうね。領主様が目をつけているのだもの、なにかしらはあるでしょう」
キリはあの店に売られそうになったはずだ。
もし本当に売られていたら、まだ冒険者にもなっていない、抵抗する術をなにも持たない時期である。きっとそうとう酷い目に遭わされただろう。
本当に、逃げられて良かったと思う。
「僕はチッカから、ガルブ一家とその配下を捕まえた場所と、薬を造ってた場所を聞いてきたよ。両方とも、前にナクトゥルスを採取した場所の近く」
「たしか森の中で危険な薬草を栽培していて、そこで捕まえたのよね? それがあの場所の近くなのは知っていたけれど、薬を造っていた場所は違うの?」
「あの辺りにある廃村を拠点にしてて、薬もそこで調合していたみたいだね」
危険な薬草を栽培していた場所に、拠点にしていた廃村か。
行ってみる価値はあるが……優先順位は低めだろうか。とっくに兵士たちが調べただろうし、わたしたちはどちらかといえばゼルマを調べるべきだと思う。
とはいえ、そこを調べるのならば三人で行くべきだろう。一年近く放置された廃村は魔物が巣くっているかもしれない。
「ユーネはあまり大したことは聞けませんでしたー」
少し消沈した表情でユーネはそう前置きした。
「子供たちは違法奴隷のころのことはあまり思い出したくないみたいでー、そもそもあまり聞かないようにしてるらしいですー。過去の清算も大事ですが、それよりも未来を示すのが教会の方針でしたのでー」
ゼルマについてもガルブについても、教会は一番有力な情報が得られそうな場所だった。なにせ直接の被害者だ。……しかし同時に、真っ先に兵士たちが話を聞いているはずの場所でもある。
ガルブ一家が薬草栽培で働かせていたのは、逃亡や反抗を押さえ込むのが楽だったからだろう、まだ幼い子供たちだったらしい。かなり酷い目に遭っていただろうし、それくらいの子の証言は曖昧になりやすい。
つまり捜査がまだ続いているということは、違法奴隷の子たちからは決定的な情報は得られなかったはず。なので残念ではあるけれど、まあ仕方ないと飲み下せはする。
「ただですねー、どうしてか聞き込みに来た兵士さんたちに混じって、エルノ君がいたらしいですー」
「エルノが?」
意外な名前が出てきて、わたしは眉をひそめた。
「兵士さんたちと一緒に神官や修道女のみなさんと話をしたり、子供たちと遊んだりしていたらしいですねー」
なるほど。昨日領主の館に行ったときは顔を見せなかったが、どうやら衛兵と一緒に動いているらしい。
どうやら彼もこの件に一枚噛んでいるようだ。
「いずれ貴族位と領主の地位を継ぐために実務経験を積んでいるのかもしれないわ。兵がどんな仕事をしているのかを知っておけば上に立つときに有益だもの。あとは、同じ子供であれば話を聞き易いかもという打算もあったかも」
まあその打算が上手くいっていればこの件は終わっているはずなので、失敗しているはずだし……だとしたらおそらくもう一つの目的の、エルノに実績を積ませるという目論見も失敗している。
「もしかしたらですけどー、エルノ君がキリ君と競いたくて、この仕事を回してくれたのかもしれませんねー」
「ええ……そんなことある?」
ユーネの脳天気な予想にキリがさすがにナイでしょみたいな顔をするが、意外とあり得るかもしれないな、とわたしは思ってしまった。
「……とりあえず今後の方針だけれど、どうするかよね。キリ、今の時間からその廃村に行ったとして、夕方までに戻ってこれるかしら?」
「できると思うけれど、あんまり時間をかけて調べるのは無理かな」
「なら明日以降にするべきね」
廃村なら泊まれる家屋くらいあるだろうけれど、日帰りできる場所なら日帰りで行けばいい。
では今日はどうしようか。まだ仕事終わりには早いけども。
「んー……リルエッタ、行商人に聞き込みはできる?」
キリのその提案を聞いて、わたしは舌を巻いた。
さすが被害者は違う。
「貴方を売ろうとしたような行商人が他にもいるかもしれないってことね。……いい線かもしれないわ。ユーネ、違法奴隷の子供たちは孤児院が世話をしていると聞いたけれど、故郷を覚えていて帰った子はいるかしら? どの村に帰ったかは分かる?」
「それはー、教会へもう一度聞きに行けば分かると思いますがー……」
「いいわ。村名が分かれば、塩の取引をしてる行商なら誰が行っているか特定できるかもしれない。行商に出ていたら帰るまで待たなければいけないけれど……」
兵士はそこまで調べているだろうか。
キリのように騙されてきた子がいたのであれば、すでに攫った行商人は摘発されているだろうし尋問もされているはず。それがなかったのであれば、そもそもそんな村人の信用を損なうような、愚かなことをする商人はいなかったのかもしれない。
しかしただの行商人でも人攫いのあった村の事情はある程度知っているだろう。話を聞ければ、なにかの情報は得られる可能性は高い。
「それじゃあ、そっちは二人に任せるよ。僕は僕で調べてみる」
朝に手分けしたからだろうか。町中の調査は別れて行動するものという意識になってしまったのか、キリが別行動を申し出る。
「それはいいけれど、どうするつもり?」
「ゼルマの店の近くを散歩しようと思って」
たしかに場所の確認は大事だし、外から眺めるだけでもなにか分かるかもしれない。しかし、いかにも戦士風の武装をした子供が店の近くをうろついているのは不自然だろう。
今日は町中の調査だというのに、キリは真面目にも冒険に行く格好をしている。これでは冒険者だと分かってしまう。
「なら武器と防具は外した方がいいわね。なるべく目立たない格好をして、なるべく遠くから見ること。軽々しく中に入ろうとかはしないように」
「うん。当たりをつけていかないと警戒されるだけ、だよね」
どうやら彼も分かっていたようだ。忠告はいらなかったらしい。
「大丈夫、ちょっと散歩するだけだから。二人も聞き込み頑張ってね」
後から思えば、だけれど。わたしは気づけたのだろう。
キリはきっとこの依頼が来たときから……いいえ、もしかしたらもっと前から、静かにだけれど確実に怒っていた。




