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冒険者ギルドが十二歳からしか入れなかったので、サバよみました。  作者: KAME
冒険者の詩

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休憩所

「遺跡で扉を見つけた時はどうするか、あのハーフリングから聞いたことはある?」

「チッカに教えてもらったことは、野外での斥候のしかたをちょっとと、冒険の心得をいくつかと、魚釣りについてをたくさん」

「それ、ほぼ釣りのことしか教えてもらってないんじゃないですかー?」


 チッカは釣り好きだからね。でも針と糸と木の棒さえあれば竿が作れるし、魚釣りはだいぶんやって慣れたし、魚のさばき方も分かるから、実は遠出の冒険に役立つのではないかと思う。食料は大事。

 遺跡の扉に関しては、冒険者が出てくる物語を読んだことはあった。たしかこういうときは聞き耳、そして罠がないかの確認だ。


 とりあえず扉に耳を当ててみる。金属とも石とも思える材質。物音は何も聞こえない。

 次に飾り気のないドアノブに手をかける。ずいぶん古いはずなのに、カチャリと簡単に開く。いったい何でできているのだろうか。

 押せば開きそうだったので、僕は一旦下がった。リルエッタとユーネも少し下がらせて、槍の石突きでゆっくりと押し開ける。もし罠があっても、あるいは中に敵がいても、この開け方なら対処しやすい。


「何もなさそうね」


 松明の炎を掲げて扉の向こうを覗き見て、リルエッタがホッとした声を出す。


「まあここ、下水道だからね。ウェインもシェイアもチッカも、西側を探索した時に罠の話なんてしなかったし」

「そんなのがあったら話題にしますよねー」


 ここは今も昔も下水道で、財宝が眠っているような場所じゃない。昔の人だって、いくらなんでもこんな場所に大切なモノは隠さないだろう。

 だから罠もないはずだ。だって設置する意味なんかないのだから。


 三人で扉の中に入ってみる。中はそこそこの広さの部屋だ。冒険者の店だと、宿の個室よりはちょっと大きそう。

 大ネズミはいない。他の魔物もいない。ただガランとした空間があって、不思議と壁も床も湿気っていない快適な空間だ……いや快適は言い過ぎか。だいぶん鼻は慣れちゃったけれど、意識すれば下水とカビの臭いが漂っているのは分かる。

 それでも扉を閉めれば密室になる。少なくとも大ネズミが入って来られそうな隙間はないし、安心して休憩ができそうだ。


 ……正直、ちょっと拍子抜けだった。べつに期待していたわけではないけれど、意味深な扉を開けてこんなに何もないとなんだか反応に困る。

 何かがありそうな気がしたのだけれど


「……こういうときはランタンの方がいいわね」


 扉を閉めて、床が濡れていないことを確認して、僕らは荷物を置いた。……そこで処遇に困ったのが火をつけた松明で、床が土じゃないから地面をちょっと掘って突き刺したりするわけにもいかず、しかし燃えているのに転がしたり壁に立て掛けるのもどうかと思い、なかなか困った。

 結局ユーネのポールメイスを床に置いて、その上へ松明の先を浮かすようバツ印のように重ねるという形にする。ちょっと不安定だけどしかたがない。


「松明は燃え尽きたら新しいのを使う形だからかさばるし、休憩するとき床にそのまま置けないし、長時間の探索には向かないわね。油を補充するだけでよくて床に直置きもできる、ランタンの購入を検討しましょう」

「いいと思う。リルエッタは戦闘の時に投げ捨てたりしないもんね」


 下水道の大ネズミ討伐をするなら、戦う時に床に投げ捨てても壊れないし炎もすぐ消えない松明がいい。

 そう大部屋の人たちに教えてもらっていくつか買ってきたけれど、僕らのパーティにはあまり当てはまらないようだ。リルエッタは片手で短杖を持てるから、灯りを持ちながらでも魔術を使える。

 大ネズミとの戦いもそうだったけれど、考えるのと実際にやってみるのとでは全然違う。たぶん普通の冒険者なら、休憩したくなったら一旦下水道を出るはず。大部屋の人たちの助言は僕らのパーティ構成も、下水道に長時間潜り続けることも、想定したものではなかった。

 難しいな、冒険。


「ここって何の部屋なんでしょうねー?」


 手で床を払ってから腰を下ろしたユーネが、何もない長方形の部屋を見回しながら疑問を口にする。

 砂に描いた迷路ではないし、この場所には意味があるのだろう。


「ヒリエンカの町の中心部だけとは言っても、下水道は広いわ。これだけの規模の工事なんて、たとえ神様がいた古い魔法の時代でもかなりの人手と時間がかかるはずよ。だから作業の円滑化を図るために、資材置き場か休憩所としてこういう部屋がいくつか作られていたのでしょう」


 ハンカチを床に敷いて座ったリルエッタが、推測を口にする。


「本当に休憩所だったかもしれないんだ」


 僕も床に腰を下ろした。松明を中心にして、一応扉に一番近い場所。

 今はガランとした部屋でしかないけれど、昔は椅子とかテーブルとかが置いてあったのだろうか。あるいはこの下水道を床や壁の材料とか? もしかしたらスコップやツルハシなどを置く場所だったかもしれない。

 そう考えれば、このなにもない部屋もなんだか特別に思えてきた。


「ただ、もし下水道が大規模な魔術陣になっているのなら、この部屋は術式の一端を担っているはずよ。扉のある部屋が術式の起点か終点になっているかもしれないし、規則性を調べるいい目印になるわ」

「魔術陣の模様になってる可能性かぁ」


 それは地図を全部完成させないと難しそうだ。やるとしたら何日かかけることになるだろう。それは当初の予定とは違う。

 けれど大ネズミ討伐は意外とできている。お金にもなるし訓練にもなるのだから、ちょっとアリかもしれないな、って思ってきた。地図を完成させたら買い取ってくれるって、東の冒険者の店の主フォルトさんも言っていた。


「……本当は、この部屋を調べたらなにかあるかもしれないと思っていたのだけれど。でも、これだとなにもなさそうね」

「壁や床に模様とかはなさそうですねー」


 松明の灯りで見る限り、特に変わったものは見当たらない。もちろん天井にも何もなかった。改めて見回してみても、本当にただのガランとした部屋だ。

 うん、ただの部屋。部屋だね。うん。


「…………」

「………………」

「……………………」


 コメントに困るくらいに何もなくて、話題がなくなって、三人で黙ってしまった。

 沈黙が降りる。せめて家具でも飾りでも無意味な落書きでも、なんならその残骸とかでも一つくらいあってくれれば話を広げられたのに。

 この部屋について話すのはもう限界だけれど、かといって他の話題がすぐに浮かばない。床にあぐらを掻いて腕を組んで、天井を仰ぎながら、むぅと考える。


「とりあえず、ここは安全そうだから拠点にできると思う。それを踏まえて、進むかどうかを考えよう」


 結局出てきた話題は冒険のことで、そして三人で相談しなければならないことだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 長方形の部屋、ですか。魔術陣でもあれば仮説の一つもできるのですが。例えば転移陣。各部屋で別の場所へ移動できる中継点、とか。濁流から身を守るための簡易シェルター、なんてのもありますね。
[一言] 体験してこそ得られる知識は多いから初心者にはいいダンジョンかも。マッピングがてら初心者卒業ルートみたいなものも作れそう。
[一言] 事前に得た情報と実体験に差があることを理解できましたね 次からは情報収集するときに自分のパーティーならどうかという視点をもって行動ができそうです
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