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冒険者ギルドが十二歳からしか入れなかったので、サバよみました。  作者: KAME
冒険者の戦い方

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ゴブリンの王様

「なにを考えているんですか、あなたは!」


 エルノの声が森に響く。近くに隠れていたらしい小鳥がバタバタと逃げていった。


「うるせぇな。ちょっとしたイタズラだろ。イチイチ目くじら立てんな」

「あれがイタズラで済むわけないでしょう!」


 まったくだ。

 僕らは逃げ込んだ森の中を進みながら、主にウェインに文句を浴びせていた。


「マズいことはたしかね。許可のない作戦変更はやり過ぎよ」

「グミさんも可哀想でしたしー」


 リルエッタとユーネが早足で歩きながらエルノの言葉に頷いている。

 実際、その通りだ。あのタイミングでの作戦変更はきっと、領主様の一喝で兵士たちの隊列を立て直すところまで計算に入れている。けれどそれにしたって危うい気がした。

 あのまま兵士さんたちに動揺が走ったまま戦いに突入していたら、おそらく被害は余計に出ていただろう。その責任をウェインはとれただろうか。


「あの姉ちゃんには悪いことしたとは思ってるよ。けど作戦ねぇ……そんな大層なもんかよ、あれ」


 けれど、ウェインはまったく悪びれない。いっそふてぶてしいほどだ。


「砦門壊して全軍突撃。そりゃあ一番確実だが、戦術としてはバカみてぇに単純だろ。それであの程度の事態に対応できないんじゃ、兵も指揮官も無能すぎる」


 隊列はまずチッカ、続いてウェイン、その次にシェイアとエルノが並んで、リルエッタとユーネがその後ろ。最後尾は僕だ。

 なにがあるか分からない森の中なのに、進むペースは速い。さすがにもう領主様は追ってこないと思うのだけれど、どこかへ向かっているのだろうか。

 僕はとにかく、できる限り周囲警戒しながらついて行く。


「だからって、わざわざ変なことする必要ある?」


 僕は首をさすりながら聞いた。さっき猫みたいに首根っこを掴まれて運ばれたから痛い。


「ああ、あれは必要なことだったんだ」


 ウェインは神妙な顔でウンウンと頷く。

 そして、口の端を吊り上げたキメ顔で……見てる者をイラッとさせるドヤ顔で、人差し指をピンと立てて理由を口にした。


「冒険者って普通にやっても団体行動なんかできねぇだろ? けれどヤツらって中身悪ガキのまんまデカくなったバカどもだから、悪巧みとかするときの団結力はスゲぇんだよ。つまりこの方法なら冒険者を軍隊として運用できるんだ!」

「ふざけてるんですか?」

「至極真面目なんだがな……」


 エルノに睨まれて子供みたいに口を尖らせるウェイン。そういう顔するとさっきの話に説得力が増しちゃう。


「まあ実際、パレードに参加できなかったし道中はギスギスしてるしで、領主と兵士たちに不満は溜まってたしね。一杯食わせてやりたい、くらいのことはみんな思ってたんだよ」

「報酬も安いし」


 一番先頭を行くチッカと、エルノの隣に並ぶシェイアが不満を口にする。―――つまり、今回の行軍をみんな面白くないと思ってて、だからストレス解消にこんなことをした。


「……ということは、狙いはゴブリンロードの首ですか。手柄をかっ攫おうと」

「ご名答」


 エルノが言い当てる。

 そうか、一杯食わせてやろうというのなら、魔石を盗んで爆破するだけじゃ足りない。冒険者が敵の大将を討ち取って初めて意味ができる。


「でも、ウェイン殿は乗り気じゃなかったでしょう? どうしていきなり前線に冒険者を送り込むことにしたんですか!」


 正門と裏門からの挟撃作戦。いや、正しくは冒険者たちが領主の兵を囮にして裏門から奇襲したんだけど、最大限好意的に解釈するならそうなるだろう。

 けれどそれは、冒険者を砦に突入させること。ウェインが嫌がっていたことだ。


「思い出したんだよ」


 ウェインは僕より前を進んでいる。だから表情は見えなかったけれど、その声はどこか……自嘲の含みがあった。


「スピフィと一戦交えたんだけどな。さすがは東の筆頭だってなもんで、やっぱいい腕してやがる。だから思わず気持ちよくなってたんだが……」


 あの時。スピフィと喧嘩したときだ。

 最初は荒々しかった剣が打ち合うごとに繊細になって、いつしか本気の試合になっていったあの戦い。

 今でも鮮明に思い出せる。


「そんときにバカどもがギャアギャア言ってきやがってさ。本気でイラッてきて、それで思ったんだ。……ああ、よくよく考えたら今の俺は傭兵じゃなかったな、って。薄汚ぇガキだった俺を拾ってくれた傭兵団ならともかく、なんでこんなダメ人間どものために頑張ってるんだろうってな」


 正気に戻っちゃったかぁ。

 たしかに暴れケルピーの尾びれ亭の冒険者はスピフィを応援していたし、黒鱗シーサーペントの剣牙亭の応援の仕方もどうかと思ったけれど。


「つーわけで、もうそういうのはナシだ。戦いたいなら戦えばいい。手柄を横からかっ攫いたいならそうすればいい。ちょうどいいとこに面白いもんもあるし、裏門さえ破壊してやれば上手くいくだろ、ってな。実際、俺が動いたのは魔石盗む段取りだけで、細かな作戦は全部他のヤツらの悪ノリだぞ」


 魔石を盗む段取りって、僕とエルノの試合を賭けにすることだよね。

 あれだけ大事にすれば注目は集まるだろうし、それはもう盗みやすかっただろうな。


「ま、挟み撃ちなんか正面突破の次くらいに単純な作戦だが、ゴブリン相手なら効くだろ。結果的に被害も抑えられるだろうし、領主もなんて素晴らしいんでしょうこれこそが正解だったって言うだろうさ」

「言うわけないでしょう、絶対に牢屋へ入れられますよ! なんなら極刑もあり得ます!」

「だからどうしたってんだよ。前線は死線くぐってんだぞ」


 エルノが絶句する。僕も驚いた。

 そんな覚悟でやったのか。


「ゴブリンロードを冒険者が仕留めれば、面目は立つ。全力で戦って手柄まで立てた者を罰するなら、それはもうこちらが見限る番」

「そのときはみんなで旅に出るかな。さらばヒリエンカ、さらば暴れケルピーの尾びれ亭ってね!」


 シェイアが当然のように言って、チッカが明るくもしもの未来を口にする。あ、死ぬ気はサラサラなくてしっかり逃げる気だ。

 そういえば冒険者って、町の外の人も多いもんな……。ウェインとスピフィは海の向こうから来たらしいし、チッカも元は都にいたんだっけ。Cランクくらいの実力があれば、きっとどこに行こうがやっていけるに違いない。

 もし追われるのがこの三人だけだったなら、シェイアの師匠のところに避難するなんて手もあるか。


「行き当たりばったりってことじゃないですか! それ、ゴブリンロードを逃がしたり兵たちが仕留めたら言い訳できないってことでしょう!」

「あーもう、うるせぇって。犬っころみたいにキャンキャン突っかかってくるなよ。つーか敵を見誤るなっての。お前とやり合ったのは俺じゃねぇだろ、坊ちゃん」


 ぐ……とエルノが歯噛みする。

 たしかに少し変だ。いつものエルノだったらこんなふうに責めるだけじゃなくて、今後のことについてどうすればいいかを考えそうな気がする。

 当初の予定とは違ったかもしれないけれど、結果として冒険者は前線に出たし、挟み撃ちは作戦としては決して間違っているわけではないはず。それが分かったなら、彼の方から領主様を説得すると言い出してもおかしくない。

 自分から人質になるなんて言い出した時もなにか変だったし、多分だけど昨日の試合の後、エルノとウェインはなにかあったのだと思う。……試合の判定のことかな。たぶんロクデモナイことを言われたんじゃないか。


「それとな、思い出したことはもう一つある」


 少し懐かしそうな声音。過去に想いを馳せるような。

 ウェインがチラリと左を見る。それは森の奥ではなくて、きっとその先のさらに先。海の向こうを見たのだろう。


「我流が強くて完全に思い出したのは喧嘩の後だったが、スピフィの剣技は南の西方で見た技に似ていた。たぶんアイツはあの辺出身だろうな」


 スピフィの剣技。たぶん、魔剣士としての技じゃなく純粋な剣技の話だろう。

 あの時は南で海向こうとしか言っていなかった気がするけれど、技を見ればだいたいどの辺りにいたかも分かるのか。

 傭兵は、ウェインは、それだけいろんなところで戦ってきたのだろう。


「で、たしかその辺に反吐が出るほどクッソ野郎のお貴族様がいてよ。報酬を難癖つけて下げる。メシはケチる。ことあるごとにギャアギャアうるせぇ。偉そうにふんぞり返って見下してくる。しまいには俺らの手柄を横取りしようと後ろから襲撃してくるとかいう、マジでゴミクズなことやりやがった。しかも逃げ足だけは速いから取り逃がしちまって、逆にこっちが裏切ったみたいなことにされて―――ああクソ、今思い出しても腹が立つ!」


 ギリギリと歯ぎしりが聞こえてきそうなその内容は、こっちの領主様とはかなりかけ離れた印象だ。そういう貴族もいるのか。

 そういえば僕がエルノに奇襲した後、スピフィが負けて良かったねみたいなことを言っていた気がする。あれはもしかして、その貴族のことを……―――


「ねえリルエッタ。そういえば前、スピフィは良い家柄の出だって言ってなかった?」

「確認しない方がいいと思うわ」


 よし何も気が付かなかった。


「ここ!」


 チッカが足を止めて背の低い茂みに隠れる。エルノ、リルエッタ、そして僕も同じ茂みに身を潜めた。ウェインとシェイア、ユーネはそれぞれ木陰に隠れる。

 森だから隠れる場所が多い。……そういえば、この森はたぶんニビトイ村や兎獣人の集落を囲む森と繋がっているはずだ。散り散りになったゴブリンが砦に再集結したなら、この森から砦を見つけたのではないだろうか。

 そう、今僕らが隠れている場所からはちょうど、砦壁の側面が見えていた。


 チッカが指でその壁の一部を指さす。わざわざ示してもらわなくても分かる。秋の落ち葉に覆われて見難いけれど、地面に穴が空いている。

 そして、そこからゴブリンがすでに何匹か出てきているのが見えた。

 ……そうか。人がいない砦とはいえ、正門も裏門も当然閉じていただろう。じゃあゴブリンはどこから入ったか。壁の下を掘ったんだ。



「それで、だ。傭兵仲間がそのゴミ領主のこと、こんなふうに言ってたんだよな。―――まるで、ゴブリンの王様みたいなヤツだって」



 土と落ち葉まみれになりながら、窮屈そうに一際大きくて筋肉質な魔物が這い出てきた。

 ゴブリン、なのだろう。体格がよくて強そうだけど、顔つきも緑色の肌もゴブリンだ。たぶんあれがゴブリンロードなのだと思う。

 なんだか頭痛がしてきた。


「正門は兵士、裏門は冒険者が攻めていて、岩山方面は幻術で兵士を見せている。だから逃げるなら、遮蔽物が多い森へ向かう」

「あたしたちは前に来てるからね。あの穴は調査済みさ」

「さすが頭のいいヤツの読みは違うな。バッチリじゃねぇか」


 本来、冒険者は逃げるゴブリンを狩る役目だった。たぶん正面以外の三方向をぐるりと囲む手はずだっただろう。けれど彼らが裏門から突入することによってその役がいなくなったから、一番可能性が高い逃亡経路へとりあえず急いでいた、と。

 僕は槍の握りを確かめる。つまり拉致された理由はこれらしい。


「よっし大将首だ。ガキんちょは右、坊ちゃんは左任せた。そして俺は当然真ん中のデカいのだ。行くぜ!」


 とりあえず後で蹴ろう。

 駆け出すウェインを追いかけるように走り出しながら、僕は固く決意した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] スピフィーのお父さんがクソ貴族でウェインがいた傭兵団を裏切ったんだろうか
2024/07/11 08:57 目のないぶたさん
[良い点] 「後で蹴ろう」をここまでで何回言ったかなってくふくふ笑いに来たら、やっぱりみんな笑っててまた笑いました。 とりあえずにしといて、きちんと行動できるキリはステキですね。
[良い点] > とりあえず後で蹴ろう。 前もウェインを蹴ってたし、足癖が悪いですねえキリw まだ小さいから殴っても全然ダメージにならなさそうですし、また強い足での方がダメージ出ますもんねー! 悶絶させ…
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