冒険者の代表
「いやいや。さすがに十倍まではいらんだろ」
移動している間は馬車が揺れるので作業はできないため、グミさんは馬車の中で眠ってしまった。休憩中や夜に作業するために睡眠をとっておくとのことで、リルエッタとユーネもそれに倣って休んでいる。
僕もそうすべきなのだけれど、どうにもグミさんがした話が気になってしまって眠れない。大丈夫なのかなと不安になってしまうし、他の人はどういう認識でいるのかも気になった。
しかたがないので馬車を降りると、僕はウェインたちのところへと向かうことにした。砦攻めには十倍の戦力がいるかもしれないってもし知らなかったら、教えてあげないといけない。
そして、さっきの話をしてみた結果がこれ。
「まあ攻城側の方が不利なのはたしかだから、戦力は多いに越したことはないがな。城を落とすだけならそこまではいらねぇ。実際にどんなもん必要なのかは分からんが―――」
「やったことあるの?」
「ッチ。……忘れたな」
どうやら経験はあるようだけれど、詳しく聞ける雰囲気じゃなかった。……というか、ウェインが舌打ちは珍しい。
やっぱり冒険者の代表なんか任されたから、そうとう余裕がなくなっているのではないか。
二頭牽きの造りが頑丈そうな馬車が六台、人が歩く速度に合わせてガラガラと音を立てて車輪を回していた。
後尾の馬車二つはグミさんの兵器やその材料が積まれているから、前の四つには食料とかが載っているのだろうか。
基本的に馬は荷運び用で、行軍は基本的に徒歩だ。御者台以外の人員のほとんどは馬車を囲むようにして歩いている。どうやら兵士たちは前方で、冒険者は後方に固まっていた。
ウェインたち三人は全体で言うと中間あたり、冒険者たちの固まりの前の方だ。近くにはCランクパーティの人たちもいて、なにか雑談しながら歩いているのが見えた。
スピフィのパーティは……最後尾か。なんとなくそんな気はしていたけれど、他のパーティと問題を起こさないように追いやられたらしい。あるいは、自分たちからそこを選んだのだろうか。
海猫の旋風団も後ろの方にいたけれど、兎獣人のテテニーは姿が見えなかった。人前にあまり出ない彼女は、どこかに隠れながらついてきているのかもしれない。
「城というか、砦だけどね。ずっと昔、西の獣人たちとの関係が悪かったとき、お隣の辺境領が落とされた時のことを考えて建設されたとかなんとか? まあできあがった頃には戦争の気配もなくなっちゃってて、結局一回も実戦で使われないまま放棄されたって話だけど」
「戦争が起きなかったのはいいこと」
砦の由来なんてどうやって調べるのだろうか。相変わらずすごいとしか言いようのないチッカの情報収集能力に、いつもの通りシェイアが口数少なくコメントする。
「壁が高くていい砦だったぞ。多少傷んじゃいたが、使われてないから破損も少ない」
ウェインは苦々しい声音で廃砦を褒める。シェイアとチッカも表情が曇り気味だ。そういえばこの三人は最近までゴブリンの調査をしていたらしい。当然、目的地の砦は一度目にしているだろう。
使われないまま放棄されたってことは、砦は万全に近い状態ってことだ。攻める側にとってあまりいい情報ではない。
「どれだけゴブリンが砦を活用してくるかが問題だよな。どうせ上から矢を射かけてくるくらいはするから、それだけでも厄介なんだが。アイツらが使うのは弱弓だし精度悪いしで、普通ならそう脅威ってわけではないが……高さがあると飛距離も威力も増すからなぁ」
「石やレンガを落とされるだけで危険」
「まともにやったらけっこうな数の死人が出るかもね」
「門を壊すまでが勝負だな。一方的に矢を射かけられる場所はさっさと通り抜けたい」
「そこは噂の兵器の出番」
「そうそれ。あのイカれた眼鏡の姉ちゃんの眉唾錬金術だよね。頼りにしてるよ、チビ」
「おう、わりとガチでな」
三人の意見が合ってしまった。どうやらやはりグミさんの兵器は重要らしい。
「ま、正面から突撃する役は兵士がやるから、俺たちにはあんまり関係ないが。とはいえ成功は祈ってるぜ。その方が楽できる」
「え? じゃあ冒険者はどうするの?」
ウェインの言葉に驚いてしまって、思わず隣を歩く彼の顔を見上げる。……彼は舌を出して、前方を歩く兵士たちを眺めた。
「今回の目的は砦を落とすことじゃなくて、魔物の殲滅だろ。だったら逃げるゴブリンを放っておけねぇじゃねぇか。裏手とかから逃げるヤツを狩る人員も必要だ。まあ数の差がエグいから陽動や遊撃とかはやらなきゃならんだろうが、一番危険な正面は兵にやらせるさ……ん? もしかして十倍ってそういうことか? たしかに一匹残らず殺し尽くすなら、この人数だと少ねぇな」
……なんだか、ウェインなのにすごい考えてる。普段だったら、かなり早い段階で考えを放り出してしまうのに。
やっぱり冒険者の代表だからだろうか。それとも、元傭兵だという経験がそうさせるのか。
頭が良さそうに見えるウェインって嫌だな。不安になる。普段から頭の悪い人が頭の良いフリをすると、どこかで見落としをしているのではないかと心配になってしまう。―――たとえば、全体の役割を決めるのは領主なのだから、必ずしも彼の言うとおりの役に収まるとは限らないのではないか……とか。
「ペリドットとスピフィは一番槍でモメてたけど……」
「やらせるかよ」
冒険者の店のやりとりを思い出して指摘すると、ウェインは低い声でそう答えた。
ちょっとビックリするくらい、ドスの利いた声。
「領主と兵士のヤツら、冒険者をパレードに参加させなかったからな。ヒリエンカの町じゃ、俺らが同行するとすら思われてねぇ。そうまでして手柄を持ってくつもりなら、見合った活躍はしてもらわなきゃな。……旨味もないのに危険な役だけ押しつけられるなんて、バカみたいな話だろ?」
……たしかに、それはそうだろう。
冒険者は依頼料をもらってここにいるから、もちろん仕事はしなければならない。けれどそんな理由でもし、冒険者がメインで活躍してゴブリン討伐を終わらせてしまったとしたら、出発前のパレードはいったいなんだったのかという話である。
「言いたいことは分かるけれど、それが通るかどうかは分からないよ。あの領主、戦いの話は聞かないからこの機に実績を作っておきたいんだろうけど、ヒリエンカの兵士って海戦はともかく陸戦はあんまりだからね。冒険者は戦力としてアテにされてると思う」
「前の代の時は、魔物や海賊討伐に力を入れていた」
海賊なんているんだ……。
そういえばスピフィもあの領主は戦いがからきしだって言ってたっけ。チッカが知らないのなら、本当に大した実績はないのだろう。
貴族は戦う人たちだと聞いたことがある。いざという時に戦って民を守るから、偉いのだと。……だったら今回の戦いは、ヒリエンカの人たちに領主の仕事をアピールする好機であるとすら言える。
いや、もしかしたら……もし領主が冒険者に危険な役を押しつけようとしているのであれば、最初から手柄を横取りする気で、あのパレードを行ったのではないか。
―――そんなことまで考えが至って、あのときウェインがなぜ怒っていたのかがやっと分かった。
「関係ねぇな。いきなり舐めたマネしてくれた以上、兵が本隊、冒険者は後詰めで譲る気はねぇ。俺が代表なんだ。ペリドットやスピフィにも、領主にだって文句は言わせねぇよ」




