別れ。
荷物を背負い朝焼けに照らされる街中を歩くヴェインはふと小さな花屋に視線を向ける。店先に見知った顔を見つけたヴェインは自然と花屋へと向かい話しかける。
「よう。久しぶり。」
「え? あっ。ヴェインさん。」
声をかけられ振り返ったのはかつて冒険者として一緒に行動を共にしていた少女、ミリー。動きやすい軽装で花を抱えているミリーはヴェインの顔を見て驚いた表情を見せる。
「お久しぶりです。」
「あぁ。葬儀以来だな。元気にしていたか?」
「はい。」
「冒険者を辞めたって聞いたけど、本当なんだな。」
「…はい。今は、ここで働かせてもらっています。」
精一杯の愛想笑いから一転、暗い表情になったミリーを見てヴェインはしまった、と思った。
「…前々から母から冒険者をやめろと言われていたんです。冒険者は危ない仕事なんだから女の子には無理よって。父が怪我をして冒険者を引退したから危ない仕事だってのは分かっていたんです。だけど、冒険者だった頃の父はとってもかっこよくて、憧れて。父の娘である私もきっとすごい冒険者になれるんだって思っていたんです。」
ミリーの話を邪魔する者はこの場にいない。話していくうちに声に感情がのっていき少し声が大きくなる。
「だから父と母の反対を押し切って冒険者になったんです。だけど私、少し魔法が使えるくらいで他は全然ダメで、要領悪くて失敗ばかりで。いつも他の人達の足を引っ張っていたんです。だけど、ラックさんとヴェインさんはそんな私を助けてくれた。他の冒険者に裏切られた私を助けてくれた。すごく、嬉しかったです。だけど2人について行って私、分かったんです。私、冒険者としての才能が全然ないんだって。ラックさんやヴェインさんみたいにすごい人しかなれないんだって、気がついてしまったんです。だけどそんなにすごい人でも死んでしまう事にも気がついてたら私、怖くなって。」
両目から涙をこぼし涙声でありながらもミリーは話し続け、話の最後の方では両手で顔を覆う。
そんなミリーにヴェインはハンカチを差し出しミリーが落ち着くまで背中をさする。
「…すみません。取り乱してしまって。」
「いいさ。気にする事はない。」
ヴェインから貰ったハンカチで涙を拭い少し落ち着きを取り戻したミリーを見たヴェインは話を切り替えようとする。
「まだ店が開いていないところ悪いけど、花束をひとつお願いできるか? 最後にあいつに渡したくて。」
「構いませんけど、最後とは?」
「実は別の国に行こうと思ってな。しばらくはここに帰るつもりはない。家はもう引き払っている。」
「えっ!? どうしてか、聞いてもいいですか?」
「…短い間とはいえあいつとはあの家で一緒に過ごしたからあそこにいると色々と思い出して、辛いんだ。」
そう言ってヴェインは目を伏せる。
それを見たミリーはそれ以上何も言えず、さらに先ほどの醜態を晒した事への罪悪感からか花束を用意するために動く。
◆◇◆◇◆
ヴェインは花束を抱えて霊園へと向かう。霊園にはヴェイン以外に人の姿はない。ヴェインは奥へと進み周りのと比べて一際大きくて立派な墓石の前に立つ。墓石の周りには花束や供え物がたくさん置かれている。
墓石には『英雄ラックここに眠る』と彫られていた。
「よう、ラック。久しぶりだな。」
そう言って墓石の前にかがみ花束を置くヴェイン。
「この花束、ミリーがこしらえてくれたんだ。あいつ、今は母親が経営している花屋で働いているんだ。仕込みの途中のあいつと会って、無理言ってこの花束を作ってもらったんだ。」
立ち上がり、墓と供え物を見つめるヴェイン。
「みんなお前に感謝しているんだな。街の奴ら、お前の事を窮地から救ってくれた英雄様だってさ。葬儀の時もたくさんの人達が参列してくれたっけ。」
ヴェインは懐かしむように目を細める。そして、意を決してここに来た目的を果たそうと口を動かす。
「ラック。俺は今日この街から出ていく。お前とこうして会うのはこれで最後かもしれない。だから、お別れを言いにきっ!」
最後まで言い終える前にヴェインは突然勢いよく咳き込む。少しの間咳は続いたが、やがて落ち着いていく。
咳がおさまった後、彼は呼吸を整えると墓石を向けて別れの言葉を口にする。
「さようなら、ラック。」
彼の口から出されたその声はヴェインとしてのものではない。男にしては少々高い声だった。
まだまだ続きます。




