↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

事件発生

とうとう殺人事件が……!!

 ヒントカード無しにコインの隠し場所が分かる。そんな事があるのだろうか。卯月は、しゃがんで少女と視線を合わせると、笑みを浮かべて聞いた。


「すごいですね。えっと……木下さん? どうしてヒントカード無しで隠し場所が分かったのか、教えてくれませんか。あ、私、白鐘卯月といいます」


 少女は、無表情のまま「木下花音(かのん)です」と言って頭を下げると、卯月に聞いてきた。


「……白鐘さんは、コインの隠し場所はお分かりになりましたか?」

「はい。赤い服のフランス人形の中ですよね?」


 花音は頷くと、堀江の方に視線を向けて言った。


「堀江先生、スマホを貸して頂けませんか?」


 堀江からスマホを受け取ると、花音はスッスッと画面をスワイプして、とある画像を呼び出す。そして、画面を卯月の方に向けて聞いてきた。


「白鐘さん。これをみて、何か気付きませんか?」


 見ると、画面に映っていたのは例の信号機のような三体のフランス人形。コレクションルームで堀江が撮った写真だろう。特に変わった所はないが……。


 しばらく画面を凝視していた卯月は、目を見開いて呟く。


「もしかして、埃《ほこり》……」


 花音は、無言で頷いた。



 そう。画面が暗くて分かりにくいが、三体の人形の内、赤いフランス人形の周りだけあまり埃を被っていないのだ。

 きっと、旅行会社のスタッフが人形にコインを隠した時に埃が取れてしまったのだろう。


 花音は、いち早くその違和感に気付き、宝探しのヒントではないかと思い写真を撮らせたのだ。



「ヒントカードに、赤い服の人形のイラストが描かれていましたよね? 私は既にあの人形に目を付けていたので、皆さんより早くヒントの意味に気付く事が出来たんです」


 そう言って説明を締めくくった花音を見つめたまま、卯月は呆然とした。小学生がこんなに早く謎を解くなんて……大人でも苦戦していたのに。


「……あの、私はコインを手に入れる気はありません。謎解きが好きなだけで、賞品には拘っていませんので……」


 花音は、控えめに目を伏せてそう言った。



       ◆ ◆ ◆



 翌朝。卯月は目を覚ますと、着替え等を済ませてから食堂へと向かった。土砂崩れのせいで弁当屋がこちらに来れないが、この館には非常食としてレトルト食品があるらしい。


 朝食がレトルトカレーになって申し訳ないと昨日美智留がツアー客達に謝っていたが、卯月は何も気にしない。


 卯月が食堂に入ると、そこには卯月を抜かして五人の人間がいた。美智留が、卯月の方を向いて言う。


「おはようございます、白鐘様。今日は晴れましたね。お好きな席にどうぞ」


 卯月はキョロキョロと辺りを見渡すと、花音の右隣りに座って聞く。


「おはようございます、花音さん。昨日は眠れましたか?」


 花音は無表情のまま、よく眠れたと返してくれた。花音の左隣に座った堀江は、どこか安心したような表情をしている。

 そういえば、昨日この二人の関係を聞こうとして忘れてしまった。まあ、聞くだけ野暮だろう。


 それにしても、昨日の花音は冴えていたな。他にもヒントカードの意味に気付いたツアー客はいるのだろうか。


 卯月は、改めて食堂を見渡す。卯月の向かいに座っているのは、人形マニアの眼鏡の女性。今日は髪をひっつめではなく、ポニーテールにしている。彼女は、スマホを見てニマニマしていた。きっと、昨日撮った人形の画像を見ているのだろう。

 他に姿が見えるのは、美智留と一緒に配膳の手伝いをしている運転手の大道。笑顔でカレーの載った皿を運んでいる。


 あの喧嘩しているカップルがいないな。卯月がそう思った時、食堂に誰か入って来た。見ると、喧嘩したカップルの片割れ、洋太郎が辺りをキョロキョロしている。


 洋太郎は、美智留の方に近付くと、遠慮がちに言った。


「おはようございます。あの……俺の連れ、見ませんでしたか?」


 美智留は、キョトンとした表情で答える。


「いえ、山下様の姿は今日見ていませんが……」



 話によると、今朝目を覚ました洋太郎は、スマホで喧嘩した恋人――山下志保にメッセージを送ったらしい。昨日は喧嘩した為お互い別の部屋で寝たが、そろそろ仲直りしたいと思ったのだ。


 しかし、なかなか志保からの返信が来ない。電話をしても出ない。……まあ、志保も朝食を取るだろうし、食堂で会えるだろう。

 そう思って食堂まで来た洋太郎だが、志保の姿が見当たらない。



「まだ部屋で眠っていらっしゃるのでしょうか?」


 首を傾げてそう言う美智留に、洋太郎は眉根を寄せながら答える。


「いや。アイツ、意外と早起きは得意なんですよ。俺が電話をしても出ないなんて事、考えられない。……あの、申し訳ないですけど、アイツの部屋を見てきてもらえませんか? アイツの部屋、三階ですよね?……実は俺、高所恐怖症で、特に急になっている階段が苦手なんですよ。だから、自分ではアイツの様子を見に行けなくて……」


 そうか。洋太郎は二階にある客室に泊まっているのか。そう言えば、客室は三階に五つあるが、二階には一つしか無いと聞いている。


 美智留は、少し考えた後、大道の方に向き直って言った。


「大道さん。配膳の続きお願いしても良いですか? 私は山下様の様子を見に行ってきます。急病になっているかもしれませんし」


 大道は、深刻な顔で頷いて言った。


「ああ、行ってあげてよ。後は俺がやっておくから」


 なんだか嫌な予感がした卯月は、手を挙げて言う。


「あの、私も付いて行って良いですか? これでも救命講習を受けた事があるんです」


 すると、続けて堀江も手を挙げる。


「僕も行きます! 医師免許を持っているので。専門は精神科ですけど」


 こうして、美智留、卯月、堀江の三人は、志保の様子を見に行く事になった。




「山下様、いらっしゃいますか? もしいらっしゃいましたら返事をして下さい!」


 志保がいるはずの302号室のドアを叩きながら、美智留が声を掛ける。しかし、返事は無い。美智留は、顎に手を当てながら呟いた。


「……どこか違う部屋にいるんでしょうか……若しくは外に出たとか……?」



 卯月は、昨日の山下志保の服装を思い浮かべた。ピンクのカーディガンに白いロングスカート。靴は、高そうなベージュっぽい色のハイヒール。

 そして、今は止んでいるとはいえ昨日は土砂降り。庭は今もぬかるんでいる。玄関から門まではハイヒールだと歩きにくいし、泥が服に跳ねてしまう。


 オシャレに気を遣ってそうなあの女性が、そんな状況で外に出るだろうか。いや、例え服を着替えていたとしても、避けそうだ。



「一度、手分けして館中を探した方が良いかもしれない……」


 美智留がそう呟いた時、バタバタと大道がやって来た。


「野々宮さん、山下様は大丈夫そう?」


 大道に聞かれた美智留は、ゆるゆると首を振って答える。


「それが、ノックしても返事が無くて……」

「そっか……。今、ツアー客も含めて皆で山下様を探してるんだよ。もしそれでも見つからなかったら、申し訳ないけど彼女の部屋に入らせてもらおう。マスターキー、あるだろ?」


 美智留は、無言で頷く。卯月は、動く気配の無いドアをジッと見つめた。



 それから約ニ十分後。結局志保は見つからず、302号室の前には不安そうな顔のツアー客達が集まっていた。

 マスターキーを手にした美智留が、ゴクリと喉を鳴らしてからドアに向かって言う。


「山下様、申し訳ございませんが、緊急事態ですのでドアを開けさせて頂きます!」


 マスターキーを差し込み、カチャリと回す美智留。ドアは、ギイと音を立ててゆっくりと開いた。


「や、山下様……?」


 美智留は、頼りない声で呼びかけながら部屋の中に入る。そして数秒後。館中に響き渡るような大きな悲鳴が上がった。


「キャアアアアアア!!」


 一番後ろにいた卯月は、即座に部屋の中に飛び込む。目の前には、尻もちを突いて震えている美智留。卯月は、美智留の側にしゃがみ込んで聞いた。


「どうしました、野々宮さん!?」


 すると、美智留は「あ……あれ……」とだけ言って部屋の奥を指さす。そちらの方に視線を向けた卯月は、目を見開いた。


 部屋の奥にある少し小さめのベッド。そこに山下志保は横たわっていた。しかし、その目は大きく見開かれており、そこから覗く瞳は光を失っている。

 首には白地にピンクの花びら模様のスカーフが巻き付いていて、ほんの少しだが首の皮膚に食い込んだ痕が覗いている。


 卯月は、無言で志保の方に近付くと、そっとその首筋に手を当てた。志保の皮膚からは冷たさしか伝わって来ない。ドクンという脈の一つすら感じる事は出来なかった。


「あ、あの……白鐘様。山下様はやっぱり……?」


 震える声でそう言う美智留の方を見て、卯月は頷きながら答えた。


「はい。山下志保さんは、もう亡くなっています」


 すると、ドア付近にいた洋太郎がフラフラと部屋の中に入って来る。


「嘘だろ……志保……?」


 志保の遺体に近付こうとする洋太郎を、卯月は一喝する。


「動くな!!……全員、部屋の外に出て下さい!」


 洋太郎は、キッと卯月を睨んで叫んだ。


「俺の恋人だぞ! どうして近付く事すら出来ないんだ! あんたに何の権利があるって言うんだよ!?」


 卯月は、自身の穿いているジーンズのポケットから、黒いカードケースのような形をした物を取り出す。

 紛失防止用の紐に繋がれた黒いそれを開くと、卯月は凛とした声で言った。


「私は、警視庁捜査一課係長の白鐘卯月と申します。山下志保さんは何者かに殺害された可能性が高い。現場保存の為、こちらに近付かないようお願いしますね」


 その場にいた全員が、目を丸くして卯月を見つめた。

ブックマーク、評価等を頂けると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。