悲鳴
卯月が自室にいると、悲鳴が聞こえてきて……。
それからしばらくして、卯月は一人客室にいた。ベッドに横になりながら、先程配られたヒントカードを右手に持って見つめる。
『光が当たる時、宝はその姿を現すだろう』
確かに、この文字だけを見ると何の事だか分からない。でも……。
卯月は、天井にあるLEDライトにカードを透かして口角を上げる。「宝」という文字のすぐ裏に透けて見えるのは、赤い服を着たフランス人形のイラスト。
きっと、コインはコレクションルームで見た赤い人形の中にあるのだろう。
このヒントに意味に気付いたツアー客が何人いるか分からないが、明日は、ゲームが始まったらすぐコレクションルームに行った方が良いかもしれない。
卯月がそんな事を考えていると、廊下の方から大きな叫び声が聞こえた。
「うわああああ!!」
卯月は、すぐさま飛び起き部屋を飛び出す。見ると、卯月から見て左側の廊下に尻もちを突いている男性がいた。堀江先生と呼ばれていた青年だ。側には、木下とかいう小学生もいる。
「どうしました?」
卯月が尋ねると、堀江は立ち上がり、苦笑しながら答えた。
「いや、あれが見えたもので……」
堀江が指さす方に視線を移した卯月は、目を見開いた。廊下の天井から、見事な蜘蛛の巣がぶら下がっている。
堀江は、頭を掻きながら言葉を続けた。
「実は僕、虫が苦手で……。この蜘蛛の巣を見ただけで、本体がいないのにパニックになってしまいました」
卯月は、思わず笑ってしまった。いや、堀江本人からすると笑い事では無いのかもしれないが、誰かが大怪我をしたとかじゃなくて良かった。
側にいた少女も、笑みを浮かべている。ああ、この子、普通に笑えるんだ。
卯月は、ふと気になって聞いた。
「そう言えば、この館に入ってすぐ客室に荷物を運びましたよね? その時には、蜘蛛の巣は無かったんですか?」
「ああ、それは……」
堀江の話によると、彼は最初三階に並んだ五つの客室の内、東から数えて二番目の部屋――302号室――に泊まる予定だったらしい。
しかし、カップルの洋太郎と志保が喧嘩をした為、急遽客室をもう一つ用意しなければいけなくなった。
当初志保は、三階の一番西にある305号室に移動する予定だった。そこだけしか空いていなかったからである。しかし、志保は何故か305号室に泊まる事を拒否。
添乗員の美智留と志保が食堂で揉めているのをたまたま見かけた堀江は、自ら部屋の交換を提案。そして彼は305号室に泊まる事になった。
「彼女が305号室を避けた理由を知らずに移動すると申し出たんですけれど、まさか蜘蛛の巣の奥にある部屋だとは……」
苦笑して説明を続ける堀江を見た卯月は、笑みを浮かべた。この青年、お人好しである。
ツアーの前に旅行会社か管理会社が掃除されているかチェックしそうなものだが、使わないだろう部屋は管理を怠ったのだろう。これが弱小会社と言われる所以か。
ふと、堀江が卯月の手元を見て聞く。
「あ、あなたもヒントカードについて考えていたんですか?」
そう言えば、慌てて部屋を飛び出した為、卯月の右手にはヒントカードが握られたままだった。
卯月は、笑顔で答える。
「はい。こういう謎解きゲームって、面白いですよね。……えっと、堀江さんでしたっけ? あなたはヒントカードの意味、お分かりになりましたか?」
すると、堀江は曖昧な笑みを浮かべて言った。
「あー……僕は、分かりませんでした。でも、この子――木下さんが分かったみたいで……」
堀江は、チラリと少女の方に視線を向ける。卯月は、目を見開いた。堀江より先にこの少女が謎を解いたというのか。
木下と呼ばれた少女は、無表情のまま目を逸らして声を発した。
「……私の場合は、ズルをしたようなものです。ヒントカードを見る前にコインの隠し場所が分かったので……」
卯月は、耳を疑った。
花音はただの小学生ではなさそう!
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