ヒントカード
宝探しについて説明を受ける卯月達ですが……。
その後、ツアー客達はシャワー室やキッチン等の生活上必要になる場所を案内された後、食堂に集まった。
美智留が、皆を見渡しながら言う。
「それでは皆さん。夕食の前に、明日の宝探しについて改めて詳細を説明させて頂きます」
宝探しは、明日の朝九時にスタートする。ツアー客は、庭も含めて屋敷の敷地内を自由に探検し、旅行会社がどこかに隠した銀色のコインを見つけなければいけない。
ちなみに、隠されているコインは一つ。コインを見つけた客には豪華なプレゼントが渡され、それ以外の客にはちょっとしたお土産が配られる。
誰も見つけられなければ、客同士でじゃんけんをして、勝った者がプレゼントをゲット。
美智留は、手元にあるショルダーバッグから数枚のカードを取り出して説明を続ける。
「何のヒントも無い状態からコインを探し出すのは至難の業です。そこで、今から皆様に、ヒントとなるカードをお配り致します。カードをご覧になって、明日のゲーム開始時までじっくり考えて下さいね」
そして、美智留はツアー客一人一人にカードを配り始めた。それを受け取った卯月は、まじまじとカードを観察する。
二つ折りになった紙製のカード。その表の地は白色で、先程のコレクションルームで見たフランス人形をデフォルメしたイラストが三体並んで描かれている。服の色は、左から青、黄色、赤の順。例の信号機のような三体だ。
カードを閉じたままひっくり返すと、そこには屋敷の外観や本のイラストが描かれていた。
卯月は、カードを開いて内側も確認する。内側は赤地になっていて、白い文字でこう書かれていた。
『光が当たる時、宝はその姿を現すだろう』
「何これー? 全然意味が解んなーい!」
先程志保と呼ばれていた女性が、眉を顰めて言う。恋人らしいライトブラウンの男性も、首を傾げて「俺も解んねえ……」と呟いた。
人形マニアの女性も、堀江と呼ばれた男性も無言で考え込んでいる。
卯月は、チラリと木下という少女の方に視線を向けた。彼女は、無表情でカードを見つめている。
暗号めいたメッセージの意味を必死で考えているのか、それとも全く別の事を考えているのか。その顔からは、何も読み取る事は出来なかった。
「おーい、野々宮さん。もう夕食を運んでいいかい? お弁当屋さん、もう来てるんだけど」
食堂に顔を出した運転手の大道が、美智留に話し掛ける。口調は明るいが、低くて落ち着いた声だ。美智留は、無言で頷くと、ツアー客達に向かって言った。
「それでは、そろそろ夕食にしましょうか」
そして、夕食がツアー客達の元に運ばれてきた。メニューは、鮭等が入った幕の内弁当。卯月達が説明を受けている間に、麓にある仕出し弁当屋のスタッフが館を訪れていたらしい。
◆ ◆ ◆
ツアー客達が弁当を食べていると、食堂の窓にポツポツと水の当たる音がする。
そして、その音は次第に大きくなり、終いには滝が窓を打ち付けるようなものへと変わっていた。
先程志保と呼ばれた客は、窓の方に目を向けると眉根を寄せて言う。
「やだー、雨? 明日も降ってたらどうしよー。私、傘を家に忘れて来ちゃった」
すると、志保の恋人と思わしき男性が溜息を吐いて志保に声を掛けた。
「何だよ、今朝言ったろ? 雨が降るかもしれないって。お前、ホントに人の話聞いてないよな」
志保は、ムッとして言い返す。
「そっちこそ、私の話聞いてないじゃん。この前だって、私が『おしゃれなイタリアンレストランに行きたい』って言ったのに、洋太郎が連れて行ってくれたのは蕎麦屋だったし」
「奢ってもらった癖に贅沢言うなよ。……あーあ、こんな事なら、前の彼女と別れるんじゃなかった」
二人の間に険悪な空気が流れる。数秒の沈黙の後、志保は美智留の方に向き直って聞いた。
「ねえ、添乗員さん。急で悪いけど、客室をもう一つ用意出来ない? 私、今日この人と同じ部屋で寝たくない!」
洋太郎という男性を指さしながら言う志保に、美智留は戸惑いながら答える。
「えっと……客室は六つあるので、大丈夫ですが……本当に宜しいのですか?」
「ええ、後で部屋を案内して頂戴ね」
全く。折角の楽しいツアーが台無しだな。
卯月がそんな事を思った次の瞬間、ガラッ、バキッという大きな音が食堂に響いた。食堂にいた皆は、驚いて顔を見合わせる。
しばらくすると、食堂に運転手の大道が飛び込んできた。
「大変だ、野々宮さん! 西側の上階段と下階段が崩れ落ちた!」
「ええっ!!」
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