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瀬尾秀一郎

木下花音にはどうやら秘密があるようで……。

 初めまして? 白鐘卯月「君」? この少女は、一体どうしてしまったんだろう。

 卯月が困惑していると、花音は笑みを浮かべたまま話を続ける。


「驚かせてしまったかな? 済まないね。花音は、人前で自分の考えを言うのが苦手なものだから」


 卯月は、ジッと花音を見る。そして、落ち着いた声で問い掛けた。


「……あなたは、誰ですか?」


 花音は、面白そうに目を細めて答える。


「ほう、君は賢いな。この約一分間で大体の状況を察するとは。改めまして。私は、大学で物理学の教授をしている瀬尾秀一郎《せのおしゅういちろう》だ」


 それから、花音――秀一郎は、自身について話してくれた。




 木下花音は、母親に女手一つで育てられた。父親が誰かは不明。母親である瑞穂《みずほ》が仕事をしている間、花音は寂しい思いをしたが、それなりに幸せだった。


 しかし、花音が六歳くらいの頃、瑞穂に恋人が出来る。それが不幸の始まりだった。花音が七歳くらいの頃から、瑞穂の恋人は花音を虐待するようになり、瑞穂はその現実から目を背けるように酒に溺れていった。


 花音が九歳になるかならないかの時、瑞穂の恋人からの虐待により花音は重傷を負う。彼女が病院に運ばれた結果、瑞穂の恋人は逮捕。瑞穂も、更生施設に通いながらアルコール依存症の治療を行う事となった。


 そして、虐待がきっかけで花音は解離性同一性障害――いわゆる多重人格となっている事が判明。養護施設で暮らしながら、治療を受けて現在に至る。


 ちなみに、花音の別人格はこの瀬尾秀一郎のみ。花音は、他人を説得したり自分を守ろうとした時に秀一郎になる事がある。




 雅人は、卯月の方を見ながら言う。


「僕は、一か月程前に前任者から引き継いで木下さんの主治医になったんですけどね。初めて秀一郎さんを目の当たりにした時は驚きましたよ。でも、何故か木下さんは僕の事を慕ってくれているみたいで、今回付き添いを……」


 そう言えば、雅人は専門が精神科だと言っていたか。


 卯月は、しゃがみ込んで秀一郎と目を合わせると、真剣な顔で言った。


「秀一郎さん。堀江先生ではなく花音さんが事件について説明しようとしたという事は、犯人の目星がついたのはあなたなんですね?」


 花音――秀一郎は、頷いて答える。


「ああ、そうだ。今から、ある人物を犯人だと考えた根拠を述べよう。ただし、その人物が犯人だという物的証拠は何一つない。状況証拠も、現段階では今から私が言う一点のみだ」


 そして、秀一郎は自身の推理を卯月達に向かって披露した。



       ◆ ◆ ◆



 数分後。卯月、花音、雅人の三人は、食堂へと戻った。若葉が、三人を見て言う。


「三人共、遅かったじゃない。何してたの?」


 卯月は、笑顔を作って答える。


「トイレの側で堀江先生達と本の話で盛り上がりまして。つい戻るのが遅くなってしまいました」


 真っ赤な嘘である。しかし、食堂にいる皆は卯月の言葉を疑っていないようだ。


 重苦しい雰囲気ながらも皆が食後のコーヒーを飲んでいると、不意に軽快なメロディーが食堂に流れた。どうやら、美智留のスマホに着信があったらしい。


 通話する為に食堂を離れた美智留は、数分後少し明るい表情で戻って来た。そして、皆を見渡して言う。


「皆さん。土砂崩れの復旧作業が思ったより早く進んだみたいで、あと十分程で警察がこちらに到着するようです」

あとは更なる状況証拠や物的証拠を探すのみ!

次回も読んで頂けると嬉しいです!

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