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八章『彼女は彼に救われる(7)』

 朝。

 小鳥のさえずりで、みなみは目を覚ました。森が近くにあるということもあるのだろうが、この町は自然に囲まれているといえた。森の中には川や湖もあるらしい。

 みなみは昨晩、さくらからいろんなことを聞いた。例えば、この町は“子どもしかいない”ということだ。いろんな事情のために親と離れ離れになった子どもが、ここに集まって1つの町を作ったらしい。そして、それの先導をしたのが、ひなたとみかげというひなたの相棒。みかげという人にみなみはまだ会っていないが、ひなたとさくらに感じるイメージから思うに、きっと優しい人なんだろうな、と漠然と思っていた。

 その他、さくらもひなたにこの町に連れてきてもらったこと。ひなたには決まった家がなく、普段は森で寝泊りをしていて、たまにさくらの家に立ち寄ること。そんなことを教えてくれた。

 みなみは、ふぁ、と小さくあくびをすると部屋を出た。眠い頭でふらふらしながら歩いていると、

「起きたか?」

 コーヒーをすするひなたと目が合った。頬は怪我でもしたのか、痛そうに腫れていた。

「お、おはよう」

 みなみは慌てて髪をとかすが、手ぐしでは限界があり、ぴょこんと横の方の髪が重力に逆らってはねた。

「顔洗って来い。朝食にするぞ」

「う、うん」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「それで、あれは見たか?」

 朝食を食べながら、ひなたがみなみに問う。

「……?」

 彼女は彼の言っているものが何を指すのかよく意味が分からずに首をかしげた。

「あれ? お前の部屋に刀がおいてあっただろ?」

「あ」

 みなみは首を縦に振りながら思い出す。そういえば、さくらに案内されてこれから自分の部屋になる場所に入ったとき、そこに一振りの刀があったことを思い出した。少しだけ持ってみたが、どうにも重くて持ち上げることが限界だった。

「まぁ、刀を使えるようになるのには時間がかかるだろう」

 ひなたは、びしっとみなみの前に人差し指を突き出す。

「とにかくお前には、決定的に基礎体力が足りてない!」

 そう言って、彼女の鼻をはじいた。

「ふにゅ」

 そう言われても、というのがみなみの本音だった。これまでは平穏無事に生活してきたのだ。強くなりたい、と思ったのだって自分の住んでいた場所を失ったからだ。そもそも年齢を鑑みても、自分に体力がないことは仕方がないことに思えた。

「食事のときくらい、そういう話はやめればいいのに」

 さくらは呆れたように言い、ひなたを一瞥してからため息をつく。が、ひなたはそれに何も答えずコーヒーを口に含んだ。そして、ちらっと窓の外に目をやる。天気は快晴。ぽかぽかとして気持ちよさそうな天気だ。

「ん、よし。今日は、まず昼食の食材探しでもやろうか」

「食材……探し?」

 食材は買うものではないのだろうか。みなみは疑問符と共にそう思ったのだった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 朝食後、ひなたはみなみを連れて森にやってきた。

「簡単な話だ。食べられそうなものを片っ端から集めて来い」

 ひなたの指示は簡潔で明快だった。

「了解!」

 みなみは元気よくそういうと、たたたっと駆けていった。ひなたは彼女を見送ってから空を見上げる。太陽の光が思ったよりもまぶしく、彼は右手を挙げて光を遮った。昼間のうち、特に今日のように太陽の日差しが強いときは、森の中といってもある程度は明るかった。ただ、この森の地形についてよく知らない者。そう例えば、みなみのような人間が迷い込んでしまったら、たとえ昼の森といっても油断はできない。その程度は複雑な森なのだ。ひなたは、やや不安を抱きながらも、迷子になる程度のことなら、きっとすぐに見つけられるだろうから大丈夫だ、とたかをくくっていた。

 そう、“迷子”になる程度なら……。


 ――果たして彼の予想通り、みなみはまず迷子になった。


(む。このキノコは……)

 ただ、当の本人は迷っていることに気づいてはいない。ひなたの言いつけどおり、食べられそうなものを片っ端から集めている。と、ガサッという音がして、何かが現れた気配を感じた。みなみはびくっと体を震わせると、おそるおそる音の方に視線を向ける。獣か何かかと思ったのだ。でも、それはみなみの予想に反して“人間”だった。彼女は、とりあえず安堵した。

 ……が、人間だからといって安心できるわけではない。

「あ? 誰だお前は……」

 突然現れた紅髪の男は、みなみを見てあからさまに嫌そうな顔をした。左腕に包帯を巻いており服装もぼろぼろだった。口には煙草をくわえており、その瞳は正常ではなかった。

(な、なに?)

 みなみはまず、その風貌に驚いたが、何よりも生気の感じられない彼の姿に足が震えた。

「まっ、いいや」

 男はつまらなさそうに言いながら、みなみに近づくと刀を振り上げた。

(へ?)

 一瞬、この男が何をしようとしているのか分からなかった。太陽の光が、男の刀に反射し、みなみは眩しくて目を閉じる。と同時に、殺される! と感じた。

「ひな兄ぃ!!」

 みなみは無意識のうちに叫んでいた。そして、すぐにやってくるだろう痛みを覚悟した。しかし、待てども待てども痛みはこない。

 おそるおそる目を開けると、そこには美しい刃紋があり、その刀が男の刀を受け止めていた。

「ひ……」

 みなみは自分を助けてくれた男の名を呼ぼうとした。けれど、その言葉を途中で飲み込んだ。ひなたの瞳が紅髪の瞳と同じに見えたからだ。そのせいで彼女は恐怖に足がすくんだが、本能が働いたのかその場から逃げ出した。


 向かうところは1つ。ひなたのことをよく知っている人物の元へ。


 どこをどう走ったか分からない。森をどうやって抜け出たのかも分からない。とにかくみなみは息もたえだえにさくらの家に転がり込んだのだった。

「さ、さくらさん!!」

 すっかりおびえきった表情で訴えかけるみなみの顔を見て、さくらは何かを感じ取ったのか、険しい顔つきになる。

「ひ、ひな兄が……」

 後半はもう声になっていなかった。さくらはぎゅっと下唇を噛むと、奥の部屋に入っていった。その間、ほんの数秒ほどだったろうか、1人残されたみなみにとっては、とてつもなく長い時間に感じられた。さらに、さくらが部屋から出てきたとき、その右手に握られているものを見て、みなみの顔から血の気が引いた。彼女の混乱はピーク状態に陥った。

「……さ」

「説明はあと!」

 さくらが強い口調でみなみの言葉を遮る。

「ひなたのところに案内して」

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