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七章『彼女たちは語り合う(2)』

「こちらは、ユキナさんとハム吉です」

「は、初めまして」

「おっす」

 ひなたが連れてきた女の子と小動物を優しく見つめ、さくらは自分の名前を名乗って頭を下げる。

「初めまして、さくらです」

 そして、喋る小動物を前にして興味深そうにじっと見つめた。

「本では読んだことがあったけど、本当にいるのね。人語を操る動物って」

 へぇ〜、とか、ふ〜ん、とか言いながらハム吉をしきりに見つめるさくらに対して、ハム吉が問う。

「あまり驚かないんだな」

「ん? だって、あたしの目の前であなたは実際に喋っているんだもの。疑う理由がないじゃない? 自分の目で見て、自分の耳で聞いたことを信じないわけにはいかないわ」

 ハム吉は思わず吹き出すと、そのままごろごろと床を転がった。

「面白い。その答えは、面白い」

 突然笑い出した小動物を見て、さくらは首をかしげた。自分はこのハムスターをここまで笑わせるようなことを言っただろうか、と。

「や、そんな顔するな。変なことは言ってない。ただ、ひなたと似たようなことを言うな、と思ってな」

 さくらはそれを聞いてくすくすと笑い、なるほどね、と声に出した。

「そういうことね。だって、あたしはひなたに育てられたようなものだもの。似てもくるわよ」

「ほぉ。その辺は興味ある話題だな。でも、今はとにかくあれだ」

 さくらはハム吉が顎でしゃくった方に視線を動かした。そこは玄関先であり、彼女の目が疲労困憊の顔つきで座り込んでいるひなたをとらえる。

「あら。どうかしたの?」

「あ、怪我してるの。それで、ここまでずっと運転してて……」

「そうなの?」

 ユキナの言葉にさくらは急いでひなたに近づくと、彼の身体を持ち上げようとし、

「ごめん。手伝ってくれる?」

 と、ユキナに助けを求めた。ユキナはそれにすぐに応じると、2人で何とか居間までひなたを運んだ。さくらは奥の部屋から医療道具をいくつか持ってくると、ひなたの前に座り込む。

 服を脱がせて、包帯を取る。乱暴に巻かれたそれを見るに、どうやら自分で適当にやったらしかった。呆れ顔で包帯をほどいていたさくらは彼の怪我を目の当たりにして、小さく、あ、と声を漏らした。

「今回はまたひどい怪我ね」

 ひなたの首と左手の生々しい怪我を見ながら、さくらはため息をついた。ひなたは苦笑いを浮かべるばかりで、言い訳すら見当たらない。

「でも、無事で良かったわ。随分心配したのよ」

「ごめん」

 殊勝に謝るひなたと、彼を治療するさくらを一瞥して、何もすることのないユキナは手持ち無沙汰で机に顎を乗せ、だらりとしている。

「それで、ユキナちゃん、だっけ? フブキの妹さんを連れて、どうするつもりなの?」

 さくらの問いにひなたは微妙な顔つきになった。突然、自分の名前と兄の名前が飛び出したユキナはさくらたちの方に顔を向ける。

「ひとまず、ユキナさんをフブキに会わせようと思ってる」

「何か解決策が見つかったの?」

「見つかった、というか、これから決まる、というか……」

 歯切れの悪い物言いに、さくらは小さく笑みを浮かべると、ひなたの頬をつねった。

「はっきりしなさい」

「ふ、ふぁい」

 ユキナの目に、ひなたは意外なほど情けない男に写った。自分からしてみればしっかり者の兄のように見えていたひなたは、さくらの前では弟のような立ち位置である。しかも、自分に対しては敬語を使い紳士的であったのに対して、さくらにはくだけた口調だというのも気にかかる。何だかひなたとの距離を感じたのであった。

 一方のハム吉はひなたの新たな一面を愉快に感じたらしく、にやにやと笑っている。そんなハム吉の薄ら笑いを知ってか知らずか、ひなたは真面目な顔で口を開いた。

「さくらに頼みがある」

「あたしに?」

「うん」

 そこで、ひなたは自分の計画を彼女に話し始めた。無論、ユキナも初めて聞くものであり、彼女も興味津々の顔で彼の言葉に耳を傾けた。

 彼の話を要約すると、こうだ。フブキは殺さずに捕らえる。フブキが変わってしまったのは薬のせいだから、元に戻す薬を作ればきっと昔のフブキに戻ってくれる。政府に身柄を引き渡せば、証拠隠蔽のためということで永久に監獄内で生活するか処刑されるかになると思う。そういった理由から、政府側に薬の開発を任せることはできない。そこで、その薬を作る役目をさくらに担ってほしい。

「と、いう計画かな?」

「……そうね。なんにしても、そのフブキが飲んだという薬の成分が分からないとどうしようもないわね」

「それについては、まぁ、きっと何とかなると思う」

 ひなたの自信ありげな顔つきに、さくらはある人物の顔を頭に浮かべて言う。

「だいちね」

「うん」

 さくらの言葉にひなたは深く頷くと、

「それで……手伝ってもらえるかな?」

 と訊ねた。

 しかし、彼の問いに対する答えはすぐには返ってこなかった。それっきり何も言わずに淡々とひなたの手当てをしていたさくらは、それを手早く終えるとユキナに近づいていき、彼女の頭に手をのせた。驚くユキナをよそに、その頭をくしゃくしゃにする。ついで、ハム吉の頭に指を乗せ、なでるようにそれを動かした。

「いいわよ」

 そして、くるりとひなたに向き直ってそう言い切った。

「本当に?」「ほんとっ!?」「マジか!?」

 三者三様に驚きの言葉を述べ、さくらはふふっと笑った。ちなみに、上から、ひなた、ユキナ、ハム吉である。

「ただし、条件があるわ」

「何?」「え?」「あ?」

 さくらはひなたに近づき、彼曰くとても意地悪な、それでいて凄まじく無邪気な顔で彼の額に指をつきつけた。




「あたしも一緒に連れてって」




 ひなた自身、それを彼女の口から聞くのは2度目のことだった。

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