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四章『彼女は勇気を振り絞る(4)』

 時は少し遡る。




「で、どうする?」

 だいちとひなたが去った後、取り残されたユキナは放心状態で座り込んでいた。ハム吉の問いにもしばらく答えずに空を仰いだ後、感情のない声で静かに言った。

「どうするって、私には何もできないよ」

「ま、そうだな」

 ハム吉には彼女を慰める気などないようで、びしっとそう言い切ると切り株の上に寝転がった。

「気が変わったら、呼んでくれ」

 そう告げてハム吉は寝息を立て始めた。こんな状況で能天気にも眠っていられる神経を疑うが、ユキナはそんな思いを打ち消して、顔を膝の間に埋めた。

「……気が変わったらって」

 自分ではどうしようもない。それ以外の結論は出せなかった。いつだったか、ハム吉に言われた通りだと思った。バイクに乗れないだけならまだしも、と思う。旅に出ているというのに、自分は戦う術を何一つ持っていなかった。体術なんて使ったこともないし、ナイフや銃といった武器なんて触ったことすらない。そもそも、料理すらしたことがないため刃物どころか包丁でさえ握ったことがないのだ。

 彼女は自分の手のひらを広げてみた。ひなたと違って、なんて小さな手だろう。これでは、つかめる物もたかが知れている気がした。彼は自分の手を掴んでくれた。でも、自分は……。

 そこまで考えて、ユキナは自分がみじめで仕方がなくなった。さらに、またも自分が“ひとりぼっち”になったという事実が彼女を追い詰めていた。

「ひなた……」

 返事は、ない。それでも、彼女は何かの呪文のようにその名前を呼び続けた。そうすることで何かが変わるわけではない。そんなことは、彼女も重々承知していた。




「おい、お姫様よ」




 唐突に声をかけられた。肘を突いた横暴な姿勢で眠っていたはずのハム吉がユキナをじっと見つめていた。

「うじうじ悩んでる暇があったら動けよ。いいか、ユキナ。お前は確かにお姫様だが、何もできないわけじゃない。何もやってこなかっただけだ」

 ハム吉はゆっくりと起き上がると胸を張って立ち上がった。身体は小さいが存在感だけは圧倒的だ。

「お前はあの街を出るときになんて言った?」

 街を出たとき……。そのときのことを思い出して、ユキナは口を開いた。

「ひなたと……一緒に、いたい」

 それを聞いてハム吉がにやっと笑った。

「お前が“行く”と一言言えば、俺はどこへでも付き合うぜ」

 それがとどめになった。ユキナはすっと立ち上がると、ハム吉の額を小突いた。

「行く」

「よしきた」

 と、今にも駆け出しそうになったユキナを見て、ハム吉が慌てて声を掛ける。

「ちょ、ちょっと待て!」

「何? 悩んでる暇なんてないって言ったのはハム吉だよ」

「そりゃそうだが、何の策もなしに言ってもつかまるだけだ」

「じゃ、どうすればいいの?」

 じっとしていられなくてうずうずしているユキナを前にハム吉は首を左右に振って、ため息をつく。

「いいか、ユキナ。重要なのは作戦だ。俺の案を聞け」

 かくして、1人の少女と1匹の小動物による、ひなた奪還計画が進められたのである。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「状況は?」

 駆け足気味に進みながら、だいちは部下に訊ねた。見た目はそれほど焦っているようには見えない。

「はっ。侵入者は1名とのことです」

「1人か……」

「はい。それも例の少女のようで」

「なるほど」

 ひなたの言うとおり“姫”がやってきたようだ、とだいちは思った。と同時に、彼の言葉を思い出す。




『もしも、うちのお姫様ならば手を出さないでくださいよ』




 だいちは苦笑を浮かべ、怪我をさせずに捕らえるのが良いだろうか、それとも、うまく逃がすべきか、などと考えながら現場へと向かう。その手には、一丁の拳銃。

「とにかく、私が着くまでは彼女に危害を加えないように……そうだな。適当に泳がせておくように指示を出していてくれ」

「了解しました」

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