表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜侍  作者: 栗山明
第一章 2
PR
25/30

第三章 8

走るゲンジロウの脇に、マヒルは抱えられていた。

まるで馬が走っているかのように、ゆるやかな下り坂をはさむ森の木々が、次々と後方に流れていく。先ほどから降り出した大粒の雨が、桃色の着物をぬらし、身体にまとわりついてひどく不愉快だった。目を細めながら、マヒルは言った。

「放しなさいよっ」

「黙っておれ、実験体がっ」

 ゲンジロウが怒声を発した。

 背後で爆音。音に釣られて、マヒルは顔をそちらに向ける。

 遠くのほうで薙ぎ倒された木々が傾斜し、森の中に沈み、衝撃で土塊が舞い上がっていた。しかも木々や土塊は、マヒルたちを追いかけるように段々と近づいてきていた。

 ユルヨとデピュルが戦っているのだろう。

おそらくはデピュルがマヒルを追い、それをユルヨが阻止しようとしている。

(あたしは、どうする?)

 このままではまた牢屋行きだ。それが無理なら、デピュルに殺されるかもしれない。

 なにもしなければ、このまま死ぬ。

(だったら――なんかしてやろうじゃない)

 自分にはその、なんかしてやる力があることを、マヒルはわかっていた。何もせずに死ぬなんて真っ平だ。自分は生きると決めていた。

牢屋の外で乱雑に土葬されていた仲間を思い出せ。

籬で死んでいる遊女たちを思い出せ。

そして、瓦礫にまみれて消えたジュウセンのことを思い出せ。

(あたしはまだ、やりたいことだっていっぱいあるのよっ)

 マヒルは歯を食いしばり、目をつぶった。あの感覚、トヨヒサの石化を中和したときの感覚を思い出し、肺の近くにある竜管から中和の毒を取り出そうと試みる。

しかし本来、人間には備わっていない器官だからだろうか、これが中々に難しい。

 だがやるしかない。

(肺がもう一つ増えたって考えるのよ……吸って、吐いて、吸って、吐いて)

 マヒルは落ち着いて呼吸をくり返す。何度かつづけるうちに、肺とは別の器官の動きを感じる。イケる。そう思った直後、マヒルは鼻から吸った息を、一気に吐いた。

 マヒルの口から中和の息吹が吐き出され、ほどなくして拘束する糸状の力場が溶けた。

「なにっ!」

 驚愕した顔で、ゲンジロウがこちらを見下ろした。

その顔めがけて、マヒルは練習で培った感覚を思い出し、意思の力を物理に変え――念力をがむしゃらに放った。

「うっしゃっ!」

念力というにはあまりにもお粗末な出来だったが、しかし不意をついたことで、

「おごっ!」

 ゲンジロウの頭がのけぞった。その隙にマヒルは地面に足をつけ、横手の森へと一目散に駆け出す。足元の木の根を飛び越え、やや下り気味に傾斜したそこを走る。

 うなじのひりつく感覚に任せて、マヒルは前方跳躍。

 おくれて、マヒルが先ほどまでいた地面が爆発し、泥の間欠泉が吹き上がった。追ってきたゲンジロウの念力だ。威力が抑えられていたとはいえ、当たれば痛いはず。

「逃がさんぞ、実験体っ」

「逃げるわよ、バカっ」

 着地と同時に一度前転してバランスを保ってから、再びマヒルは疾走。着物も金髪も泥だらけだが、気にしている余裕はなかった。

平地ならばすぐにつかまっているだろうが、森の中は木や岩といった障害物がある。それらをうまく使うことで、マヒルはなんとか逃げおおせていた。

しかし相手は、腐っても竜人。

 障害物など屁でもないように、透明の弾丸で次々に破壊して、こちらに迫ってくる。

 だが、それでいい。

 物が壊れれば、それだけ大きな音が鳴り、気づかれやすくなるのだから。

 マヒルは賭けていた。自分が生き残るには、一つしかない。

(お願い……気づいてっ。トヨヒサっ!)

 必死に走る。自分の行為が、もしかしたら彼を死に追いやるのではないかとわかっていながら。彼に知らせるために、気づかせるために、マヒルは走りつづける。

(ごめん、許して、でも――助けてっ)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ