07 回想・婚約破棄の日、シラーズ邸にて
婚約破棄の日、シラーズ邸にて
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突然ノイベルク公爵と帰宅した娘を、父上はエントランス横の小間に引っ張っていって小声で責め立てた。
「ジークフリート殿下はどうした!まさかお前、不義でも働いたのか?なんでよりによって殿下のご生誕の日に……しかもお相手がノイベルク公爵閣下だと!?あの方は殿下の従兄弟だろう!」
そうなのだ。公爵家としては我が家のほうが古いのだが、先代で臣籍降下となったためシラーズよりノイベルクのほうが王室に身が近い。貴族は古さがものをいうが、公爵位に関しては逆になる。
父上はジークフリートとノイベルク公爵、どちらを取っても角が立つことを恐れて震え上がった。もし私が稀代の悪女で2人を手玉に取っていたならそうなのだけど。
「父上、聞いてください。私はジークフリート殿下から婚約破棄をされたのです」
「な、なんだと!?ノイベルク公爵閣下との不義で責めを受けたのか!?」
いえ、違います。誤解です。それに順番が逆……と言おうとしたが父上は聞く耳を持たず、平手を振り上げた。目をつむるが、平手は落ちてこない。
「順序が逆でございます、シラーズ公爵」
父上の手を止めたのはノイベルク公爵だった。揉めているのを見て小間まで来てくれたようだ。
「ジークフリート殿下が突然、本日の祝賀会で新たな婚約者を発表されました。≪王妃の指輪≫の譲渡もすでに行われています。シラーズ公爵にも明日には王宮から知らせが入るでしょう」
「なんと」
「婚約者の交代は何百人もの前で行われております。王都にいてはお嬢様も心身を摩耗させるでしょう。貴公の南領でしばらく療養されてはいかがでしょうか」
「娘を王都から追い出そうというのですか」
「追い出すなどと滅相もない。南領にはぜひ私もお供させていただきたいのです」
この直球な依頼にさすがの父上もカチンときたようだ。
「傷物になった娘を愛妾にでもするおつもりか」
「まさか」
ノイベルク公爵は父上に一礼をする。
「アデリンデお嬢様を、ずっとお慕いしておりました。この機を逃したくない、そう考えております」
流れるようにアドリブが出てきてすごいな?と思っていると、ノイベルク公爵はいつの間に用意したのか、婚約の誓約書2通を父上に差し出した。
「すでに私の署名をしております。明日、王宮からの使者が来ましたら、事実確認のうえ、お認めいただけませんか」
私はその誓約書をちらと横目で見る。桁違いの持参金と、万が一婚約解消になった場合の慰謝料についても入念に記載してあった。
私は父上の算盤を弾く音が聞こえた。王太子殿下との婚約破棄が本当で、どうせ修道院送りにするくらいなら、二度目の婚約の後でも良いだろう、と考えているのがありありとわかる。父上はそういう男だ。
父上は何か言おうとして、ふと私のぼろぼろのドレスに気づき、小声で耳打ちする。
「お前それは、まさかノイベ……」
「いえジークフリート殿下です。ですがこれは事故のようなもので殿下に非はございません」
オロオロするかぼーっとするかで、ちっともロザリーを止めなかったのだから非はあるのだけど、胸元が肌けたのは私を助けようとした結果だから、今回はチャラにしようと思った。
「それにしたって、殿下はそのままお前を帰したのか?」
「ノイベルク公爵がコートを貸してくださいました」
父上は、私が肩にかけたコートのノイベルク紋をちらと見た。
「わかりました。誓約書はお預かりします。南領へも付き添っていただければ。ですが未婚の男女ですから、くれぐれも醜聞のないように願います」
あっさり陥落した。
「アデリンデ、ドレスを着替えなさい。今着ているものは処分せずここに残せ。証拠になる」
父上に言われて、私は着替えに自室へ向かう。あんなドレスを残すだなんて、慰謝料がっぽりもらうつもりなのだろうか。
荷物は最小限にまとめるとして、と頭の中で段取りをしていると、階段下から父上の「えっ今からですか?」という声が聞こえてきた。
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