05 -幕間- 王太子様の頭の中のアルバム
王太子視点です。
目を閉じると、アデリンデの美しく豊かな胸ばかりが頭に浮かぶ。
地味な渋草色のドレスに収まりきらず今にもはち切れそうだった。前布が崩れ、少し開いたデコルテも艶やかだった。公爵令嬢ともなると、きっと手入れも行き届いているのだろう。想像が止まらない。
なぜあんな素晴らしいものをアデリンデは隠していたのだ。
あれを隠していたアデリンデが「殿下、わからないので教えてください♡」と何度も自分を頼ってきていたと思うと、ちょっと話が違ってくる。可愛いではないか。
いやもともとアデリンデは顔は可愛いのだ。ただ婚約者候補として出会った頃はひょろひょろでいつも勉強ばかりしていた。あれ?
そういえば少女時代のアデリンデは勉強するか本ばかり読んでいた。いつからそういったものが嫌いになったのだろう。
『殿下は勉強ばかりしている私を、お嫌いですか?』
そんなことを言われたような。え、待って、俺のせい?
俺は王立学園の責任者を呼ぶ。
なぜアデリンデの成績は凡庸だったのかと問いただす。アデリンデは元来、勉強が好きだったはずだ。俺はその時点では教師の能力を疑っていた。
責任者は目を白黒させてモゴモゴしている。今すぐ正直に言うなら、それに免じて、不問にしてやると……あれこれ最近似たようなこと言ったな?
とにかく不問にするから言ってみろ、というと相手は怯えながら、
「忖度したのでございます」
とのたまった。
「未来の王妃様が、未来の国王様より成績が良いというのは収まりが悪いですので」
「私はそんなこと頼んでないぞ」
責任者は目を泳がせる。
「もしお前たちがソンタクしなかったらアデリンデの成績はどのくらいなんだ?まさか学年で100番以内とか言うなよ?」
「……首席でございます」
俺は絶句した。首席が真ん中くらいの成績って操作するにもやりすぎだろ!
「なんでまたそんな、いくら何でも下げすぎだろう」
「殿下を超えないように、と調整しましたらそのように」
てことは俺の成績が凡庸だったということだ。責任者もずいぶん決まりが悪そうにしている。
「私の成績を操作して上位に入れることもできたろう」
「不正はなりません」
責任者はなぜかそこだけ毅然としていう。女だからと成績を下げるのは不正では無いのか?責任者のキリッとした顔がやたら苛立たしい。
「ロザリーはどうなんだ。ロザリーの成績は本当に良いのか?」
「はい。殿下とは入学年度も、学年も違いましたので、そのままにしております。それに彼女の家は男爵位ですから。成績が良かったくらいで殿下には遠く及びません」
その言い方に、王族ながら釈然としない気持ちになった。こういうとき俺は、無性にロザリーに優しくしたくなる。
学園の責任者を下がらせ、今度は王妃教育の責任者を呼んだ。
「アデリンデは再履修がたくさんあったそうじゃ無いか」
「ああ、はあ、まあその通りです」
責任者はオドオドしている。
「出来の悪い科目は何だったんだ?」
「ございません」
なんだって?どういうことだ?
「あまりにもお出来になるので、講義時間が余ってしまったのでございます」
「余ったならそこで終わりにすれば良いだろう」
「いえ、現王妃殿下の半分の期間で修了するのは、各所に示しが付かずでして」
俺は頭を抱えた。
「ですので同じ内容をもう1回」
アデリンデはなんと言っていたか。王妃教育について相談したいと言われたことが無かったか?その時、俺はなんと返しただろうか。思い出せない。2周目はさぞかし退屈だったろう。
俺は王妃教育の責任者も下がらせた。
アデリンデとのすべての記憶が良き思い出に書き換わるのに、そう時間はかからなかった。
そうだ、あの祝賀会の日、アデリンデはなんと言った?
『王妃教育だって私はずっとずっと頑張ってきました』
本当に頑張っていたじゃないか。とすると
『私は嫌がらせなんてしていません!』
こちらも本当のように思えてきた。
はじめはロザリーに嫉妬しているのだと思ったが、蓋を開ければアデリンデは頭も良くて、胸もある。だったら嫉妬する要素が無いではないか?
じゃあロザリーに嫌がらせをしていたのは一体誰なんだ?
自分にしては珍しく思考を深めようとしていると、私室の扉がノックされた。
「改めて、例の騒動について国王陛下がお呼びです」
そうだった、俺は今、謹慎を受けているのだった。人を呼ぶことはできるが、部屋から一歩も出てはならないと言われている、父上に呼ばれた場合を除いて。
再びクドクドと怒られるのは確実で、呼び出しは気が滅入るが、アデリンデが今どうしているか聞けるかもしれない。ああ、アデリンデに会いたい。アデリンデのことも欲しいなあ。
お祖父様の代は側室があって羨ましいな……そうだ、側室制度があるじゃないか。いい考えだ。復活できないか、父上に聞くだけ聞いてみよう。
◇
それを言って、謹慎期間がさらに延長されることも知らず、父上の執務室に向かいながら、俺はうきうきと自称ナイスアイデアの案を練るのであった。
本編外小話
◇
「アデリンデ、お前は遊びに誘っても本ばかり読んでいてつまらぬ。お前は何かというと勉強、勉強とそればかりだ」
「殿下は勉強ばかりしている私を、お嫌いですか?であれば私を婚約者になど選ばないでくださいね?」
「なんだと!ボクに指図するな!ボクは王太子殿下だぞ」
「はぁ」
アデリンデは胸がムカムカする思いで、夢から覚めた。
昔の記憶だった。婚約者候補が集められ、定期的に殿下の遊び相手として宮廷の中庭に呼ばれていた頃だ。あの時からジークフリートは変わり映えしない。あの頃は言い合いばかりしていたから、婚約者に決まった時には「なんで私?」と思った。王家が決めたことだからそこに本人の意思はないのかもしれない。
まあ、私だって好みを言えるものならば、もっと大人な……たとえばそう……と想像してノイベルク公爵の顔が思い浮かぶ。ああ、無し無し、今のナシ!
アデリンデは頬を染めながら自分の頭の中を消し込んだ。




