03 新たな王太子妃候補は「うふ」と頬に手を当てる
「ああ、ジーク!これを私に?ありがとう!」
大声の棒読みが聞こえたので振り返ると、まだ尻餅をしたまま頭の整理のついてないジークフリートの右手をロザリーがガッと掴んで、取り出した指輪を親指と人差し指で摘み上げている。
「ちょっと待て、それは……」
殿下の制御より早く、ロザリーは自分の指にすぽっと≪王妃の指輪≫を差し込んだ。ふつう常識的に考えてジークフリートに嵌めてもらうものだけど、誰が嵌めるかに関する国宝の譲渡条件はとくに明文化されてない。
ロザリーに常識を求めても無駄だし、私からすればむしろ「いい仕事をしてくれました」と彼女に感謝せねばならないだろう。
新たな王太子妃候補に嵌められた国宝の指輪。皆はそれを見て歓声を上げ、拍手した。ロザリーは指輪を観衆に360度回転で見せつけて「うふ」と頬に手を当てている。
何も起こってないみたいだな?と私は思った。おそらくロザリーは指輪の器ではない。器であれば、指輪に呼ばれて元気に立ってはいられないはずだ。かつて私がそうだった。
私は婚約式を思い出す。
指輪を嵌めた後、徐々に具合が悪くなりふらついた私を「どうした、アデリンデ。神聖な儀式の最中だぞ、しゃんとしろ」と父は叱りつけた。ジークフリートもやれやれと面倒くさそうに私を見て言った。
「婚約式でこれでは、即位式が心配だよ」
私は脂汗を垂らしながら婚約式を乗り切り、終わったとたん控え室で倒れた。そうして倒れて、まもなく指輪との「対話」が始まった――
あまり幸せな婚約期間では無かったけれど、指輪との「対話」を得られたことはジークフリートに感謝だわね。ありがとうジークフリート。それに心配しなくても即位式には私はいないから大丈夫よ?
ロザリーへの拍手は鳴り止まない。
ロザリーは尻をついたままのジークフリートに、幸せいっぱいの笑顔で抱きついた。ご自慢の胸をジークフリートの腕に押し付けて。
いまだ付き合っているということは、あの二人は男女の関係になっていない。手の早いジークフリートにしては珍しいことだ。それだけロザリーが上手なのだろう。
この場合に私は不義を訴えられるだろうか。他のご令嬢はともかく、ロザリーに関しては難しいかもしれない。そういう面もロザリーは抜かりない。私はふと、意外と彼女は国の利を計算できる良い王妃になるのではないか?と思った。
ロザリーの胸は上げ底だ。詰め物をしてたくさん寄せて膨らませている。女同士なら見れば多少わかるし、以前、私が彼女の払いを立て替えたときの仕立て屋も言っていた。
だから婚姻が確実になるまでロザリーは決して手を出させない。上げ底に気づいたらジークフリートは運命の人をすげ替えるだろうから。
しかし指輪が手渡った今、ロザリーは王太子の婚約者だ。簡単に別れることなどできない。万が一、婚姻前に上げ底が発覚したとして、そんなくだらない理由――つまり婚約者のお胸の大きさ――なんかでジークフリートは二度目の婚約破棄などできないだろう、お気の毒様。
せいぜいロザリーの尻に敷かれるがいいわ。




