02 ≪王妃の指輪≫を返還します
――そうして私は(表面上は)しぶしぶ婚約破棄を受け入れた。
王太子との婚約式で賜った国宝が一石、通称≪王妃の指輪≫を指から抜き、ジークフリートに手渡そうとする。はあ、これでやっと王妃教育からも解放される、そう思って油断した。私の手元へ、にゅっとロザリーの手が伸びてきた。
指輪は国宝だ。ロザリーに直接渡せば大罪だ。必ず王族に返却しなければならない。きっと狡猾なロザリーはそれを分かってやっている。そして舞踏会の参加者はそこまでの事情を理解しない。
「意地悪せずにお渡しください、アデリンデ様」
潤んだ目でロザリーは私に訴える。ロザリーの印象操作が効いたのか、私がロザリーの手を避けて指輪を守ると、外野から「返せ」「早く返せ」と野次が飛ぶ。その間もロザリーは私の掌中にある指輪を狙ってくる。私は素早くそれを交わす。剣のない攻防戦を繰り広げる私たちを、外野は大盛り上がりで囃し立てた。
ロザリーは皆から分からないように、私のロングドレスを何度も引っ張る。足でも裾を踏みつける。何度もビリと脇や裾の破れる音がした。ドレスを破いて恥をかかせようとしているのだ。本当にこの女は!!
ジークフリートは事態を飲み込めていない。私たち二人をぼーっと見ている。しっかりしなさいよ!本当にこの男も!!
指輪を握りしめた方の腕をロザリーから守ろうとして、ついに私はバランスを崩した。視界に天井が広がる。やってしまった。流石に危険だと思ったのか、咄嗟にジークフリートが私に向かって手を伸ばした。ジークフリートにドレスの前布を掴まれ、きつく締めていたステイズの紐が切れる。とたんに豊かな胸の谷間がジークフリートの目の前に現れた。
「ア、アデリンデ!?」
ジークフリートのおかげで、転倒して後頭部を打つことは免れたが、掴まれた反動で今度は前のめりになってジークフリートにぶつかった。ジークフリートが尻餅をつく。私はジークフリートをクッションにして無事だった。
火花が飛んだ目をゆっくり開けると、ジークフリートは、彼に覆い被さる私の胸を凝視していた。この男はバストの豊かな女性が大好きなのだ。浮気相手も全員こぞってお胸の大きな令嬢だった。だから私はこの愚鈍な男に気に入られないよう、用心してステイズやコルセットで胸を潰していた。おかげで婚約期間中、ジークフリートが女として私に興味を持つことは一度も無かった。せっかく今まで上手くいっていたのに。この男の、私を見る目がなんだか違う。急がないと。ここで婚約破棄を撤回されてはならない。
私は唖然とするジークフリートの右手に指輪をぎゅっと握らせた。さらに右手をガシッと私の両手で包んで高く持ち上げる。会場のみんなにも見えるように。
「ジークフリート殿下、確かに国宝をお返ししました」
「ま、待て!待ってくれアデリンデ!」
「どうかどうかお幸せに〜」
私はパッと殿下から飛び退いて、よよよと顔の反面を手で覆い傷ついたポーズをしながら、小走りでその場を離れた。




