9話 【ゼニス歴1060年 ニール視点】
村に戻った俺たちは無事にイルルを家まで送り届けた。
盗賊に追いかけられる前に摘んだ少しばかりの薬草をイルルに渡した。
「明日、これで薬を作るから」「うん・・・」
「絶対、おかあさんを治すから!」
「うん・・・ うん!」
家に入る時、イルルはとても心配そうに俺達を見つめていた。
が、最後はしっかり笑顔を見せてくれた。
村に帰る道中、俺達親子は一言も話さなかった。
イルルは気をつかって俺達二人に交互に話を振ってくれたり、会話を繋ごうとしてくれていたが、俺とデイルは遂に話すことはなかった。
家に帰り、夕食の時間となった。
今日はイルルには本当に申し訳ない事をしたと思う。
結局、イルルの母親の病気を治す事は出来なかった。
なにが転生だ。
なにが異世界の知識だ。
そんなのこの弱肉強食の世界ではなんの役にも立たない。
俺はただのちっぽけなガキだった。
情けない。
本当に情けない。
自分の情けなさに反吐が出る!
自分の事は、まあいい。
それよりも自分のエゴでイルルを危険に晒した罪は償うべきだろう。
「父さん…。俺…」
意を決してデイルに話しかけようとしたタイミングで先にデイルが話かけてきた。
「ニール、俺達はこの村を出る。また旅をするんだ。準備をしろ。」
「…わかった。」
畜生。
こういう時、デイルは俺の意見を聞くことはない。
昔、旅が嫌で我儘を言ったこともある。
だが、デイルの意見が変わることはなく、即時、その場を後にすることになる。
俺はそれに従うしかなかった。
だが、なぜ旅をするのか理由が少しわかってしまった今、デイルはいつだって俺のことを考えてくれていたんだというのが、さっきのジャーメインとの会話を聞いてよくわかった。
これは俺のせいだ。
イルルに本当に申し訳ない事をしてしまった。
悔しかった。
だが、今日のデイルはいつもと少し違った。
「ただ…」
「え?」
「少し長い事この村にいたからな。俺の準備には少々時間がかかる。出発は明日の昼だ。…わかるなニール?」
「…う、うん!!」
俺は涙が出るほど嬉しかった。
イルルに別れを告げられる。
イルルと話がしたかった。
デイルはそっと俺の頭を撫でてくれた。
気が付けば俺はデイルにしがみついて泣いていた。
「ごめんなざい!、ごめんなざい!!、ごめんなさいぃぃぃ!!!」
「お前が無事でいてくれた。俺はそれでいい。」
あぁ。なんて暖かいんだろう。
この手はなんて暖かいんだろうか。
これが俺の親父なのか。
その夜、俺達はいっぱい話をした。
旅の話、村での話、仕事の話、そしてイルルの話。
イルルの話だけ、やたらとにやけながら聞いてきたデイルには少し腹が立った。
だけど俺は母親の事が知りたかった。
デイルは母親ニチカのことをを話してくれるだろうか。
転生者の件についてはどうだろうか。
デイルの口から出た言葉は俺にとっては意外過ぎる内容だった。
「お前、”転生者”について聞きたいんだろ?」




