8話 【ゼニス歴1060年 ニール視点】
いくら強いとはいえ流石に4人の盗賊相手に、しかも子供を2人守りながら戦うのは不利だろう。
俺は確認をする。「父さん?」
「ニール、イルル。心配しなくていい。父さんに任せろ。ただ、少し離れていてくれ」
「かーーーー。かっこいい父ちゃんだな。感動するぜ。俺たち4人に勝とうってのかぁ?」
だが、デイルに動揺はない。
「ニール、イルル。目を閉じていろ」
そう言った瞬間、デイルの背中に殺気が宿った気がした。
デイルは静かに長剣を構え、ニールとイルルを背後に庇う。
眼前には四人の盗賊。彼らの武器は、短剣、長剣、手斧、そして鉈。
武器も構えもバラバラで、寄せ集めの集団であることは一目でわかる。
「チッ、ダニーの敵だぁ!そのガキ共を大人しく渡しやがれ!」
盗賊C(手斧)が唾を吐き、デイルに向けて最初に飛び出した。
その動きは粗野で一直線。デイルは動かない。
手斧が顔面に迫った刹那、デイルの長剣が音もなく動いた。
キンッ!
火花が散る。
デイルの剣は手斧の柄を正確に受け流し、盗賊C(手斧)の男の腹を横に振り抜いた。
デイルは追撃しない。盗賊C(手斧)はそのまま倒れ、そのまま絶命した。
まるで眠るかのように。
次に、盗賊B(短剣)と盗賊D(長剣)が同時に左右から襲いかかった。
デイルが守る背後の子供たちへ、デイルの意識を向けさせる為の連携。
しかし、デイルの表情には一切の焦りはなかった。
それまで見せていた優しさの面影は一切なく、そこにあったのは、戦場を生き抜いた騎士の冷徹な眼光だけだった。
盗賊D(長剣)が、荒々しい剣線でデイルの胴を狙う。デイルはそれを、まるで風に揺れる柳のように軽く半歩で躱す。同時に、その剣の裏側で、奥側に潜り込もうとした盗賊B(短剣)の顔面を、鞘
の石突で強く打ち抜いた。
ガゴォッ!
鈍い音が響き、盗賊B(短剣)はそのまま意識を失い、崩れ落ちる。
「し、神速のデイル……。まさか、本物かよ……!」
残る二人の盗賊、長剣のDと鉈のEに恐怖の混じった表情が目の前にある恐怖を物語っている。
「やはり俺達を追っていたか」
デイルは剣先を長剣のDに向けた。その瞬間、デイルの姿が消えた。
ヒュンッという風切り音だけが森に残り、デイルはDの死角、真横に移動していた。
盗賊Dが反応するより早く、デイルの長剣は彼の喉元を一閃する。血飛沫はデイルの服を汚さない。全てが、あまりに速い。
残ったのは、鉈を持った盗賊E(鉈)ただ一人。
彼は恐怖のあまり、恐慌状態に陥っている。
武器を捨てて逃げ出そうとしたが、デイルはそれを許さない。
デイルの剣が地面を滑るように動いたと思えば、盗賊E(鉈)の右足の腱を正確に断ち切っていた。
「ぎゃあああああ!」
盗賊E(鉈)は絶叫を上げて倒れる。デイルは男の首元に剣先を突きつけ、静かに問う。
「誰の差し金だ。俺達を追わせているのは誰だ。」
デイルの息は全く乱れていなかった。
俺は隣で震えるイルルを抱きしめながら、その光景を呆然と見つめた。
――盗賊4人制圧におよそ1分。これが自分の父親、デイルの本当の力。そして、この力をもってしても、逃げ続けなければならない「敵」の大きさを、改めて思い知らされた瞬間だった。
「誰の差し金だ。俺達を追わせているのは誰だ。」
「ま、まってくれ!殺さないでくれ」
デイルは盗賊E(鉈)の首元に長剣を突き付ける。
「時間はない。早くい・・・」
「危ない、父さん!!」
その時、俺はデイルに切りかかる一人の大柄な男を見た。
「・・・!!!???」
ガキィィィン!
完全に不意を付かれた形になったデイルも間一髪、自身の長剣で敵の剣と交える事が出来た。
「ふはははははっ! 剣の腕はなまっていない様だなぁ! デイル騎士団長様ぁーーー!!!」
「…貴様、クリストフか?」
「そんな綺麗な名前はお前に騎士団を追われてから直ぐに捨てたわ。俺の名前は盗賊王ジャーメイン様だぁ!!」
ジャーメインと名乗る盗賊の頭が出てきて、地面に転がっている盗賊E(鉈)の頭を足蹴にする。
「た、たすけて、、、」
「ったく、てめえはなに簡単に負けてんだぁ? そのまま死んどけ!」
そのまま胸に大剣を一突きし、盗賊E(鉈)はその断末魔と共に絶命した。
「その名前は親父さんの…」
「そうだ、俺が活動するだけで親父の名前が地の底に堕ちていくんだ。最高の復讐だろぅ!そもそも貴様のせいでこんな立場に身を堕としたんだ。
いつか復讐を、と思ってたが、のこのこカモまで連れてやってきてくれて嬉しかったぜぇぇぇ!!!」
「…堕ちるところまで堕ちたんだな、クリストフ!」
「ジャーメインだっつってんだろうがぁ!!」
そして、また斬り合いが始まる。
デイルの長剣は確実にジャーメインの致命ポイントを捉えようと躍動するが、ジャーメインも負けじと交戦する。お互い同国の騎士で、剣筋も見慣れたものなのだろう。
だが、二人の力量はどうやら想像以上に離れていたらしく、徐々にジャーメインの身体に傷が増えていく。
「…はぁはぁ、やるじゃねえか騎士団長様ぁ!」
「クリストフ、大人しく依頼主を吐け。お前では俺に勝てない。情報を吐けば命だけは助けてやる。それで地の底で醜く生きていけばいい。」
「けっ、てめえもお尋ねモンになってるんだろぉが!そのガキが噂の転生者サマなんだろう?
さっさとガキを渡しとけばそれで済んだのによ。
わざわざ団長の座を捨てて逃げるとか阿保じゃねえか。ガキなんてまた仕込めばいいだけじゃねぇか」
「お前にはわからんよ。一生な」
「ほざけ!! 反逆罪の元騎士団長様風情がよぉぉぉぉぉ!!!!」
捨て台詞を吐き、ジャーメインは踵を返し、逃げ出した!
「!!!!」
デイルも少し焦りの色を浮かべたが、逃げていくジャーメインを追うことはしなかった。
「父さん! いいの?俺達は大丈夫だよ?」
「いいんだ。何も心配しなくていい。今は、この場にいるお前たちの安全が最優先だ」
あんなヤツが素直に逃げたというのか?なにか裏があるのではないか?
だが、裏があったとしても俺のチカラではどうしようもなく、結局はデイルの判断に従うしかない。いざとなれば俺にだって隠し玉はある。自分の身くらいは守れるだろう。たぶん。。。
しかし、色々と知ってしまった。どうすれば、どんな顔をすればいいのか。
今の俺にはなにもわからなかった。そっちの方が問題だった。
戦闘を終え、俺達は村へと戻る。
その際、俺とデイルは一言も話さなかった。
沈黙の中で、頭が勝手に動き出す。
ジャーメインは俺が転生者だと知っていた。
最初から狙いは「俺」だった。イルルでも、村の子供でも、ただの奴隷商品でもなく——「転生者」の俺だ。
なぜ転生者が狙われる?
この世界には治癒師がいて、高額な薬草を売りつけてくるらしい。
逆に言えば——金のない奴は野垂れ死にするしかない。
イルルの母親が風邪をこじらせても、治癒師を呼ぶ金なんてどこにもない。だから俺に頼んできた。
この世界に「薬」という概念はほぼない。民間療法がわずかに残っているだけで、薬師なんて職業は存在しないも同然だ。
誰かが俺の知識を欲しがっている。
薬の知識を。前世の記憶を。
(......なんで俺なんだ)
答えは出ない。
ただ、ひとつだけ確かなことがある。
俺がこの世界で持っている知識は——誰も持っていないということ。
それが今日、初めて少しだけ怖くなった。
「……ニール、大丈夫?」
イルルが俺とデイルの顔を交互に見ながら、恐る恐る声をかけてくる。
この重い空気に、ずっと耐えていたのだろう。
「ああ、大丈夫だ」
俺は笑ってみせた。
たぶん、全然うまく笑えていなかったけど。




