10話 【ゼニス歴1060年 ニール視点】
「お前、”転生者”について聞きたいんだろ?」
そもそも俺は普通の子供ではなく、異世界からの転生者である。
元おっさんである、という事をどこまでデイルが知っているのか。
まずはそこからだ、と思って話を始めたら、意外にもデイルからその話を振ってくれた。
デイルのその一言から俺達の会話が始まった。
「いいの?」
「もちろんだ。それがニチカの話に繋がっていくんだ。俺はバカだから、どう話を切り出せばいいのかわからなかったんだ。ごめんなニール」
それから俺は自分の話をした。
自分の生まれた日本という国の話。育ててくれた家族の話。自分がやってきた仕事の話。趣味の話。そして転生のきっかけとなった転落事故の話。
突拍子もない話をしているんだろうな、と自分でも思う。異世界の、自分達の世界の常識とかけ離れた世界に住んでいたの俺が話す話を、全て受け入れるデイルは改めてすごい男だと思う。
粗方話し終えたとおもったタイミングでデイルは一言、言った。
「信じるよ。俺はお前が話してくれた内容を全部信じる。俺にはそれしかできない。」
「それでいいと思うよ。信じてくれてありがとう、父さん」
「ああ。それでいてひとつだけ言っておきたいことがあるんだ。」
「ん?なに?」
「ニール、いやソウマだったか? 俺達夫婦の元に産まれてきてくれて本当に有難う。俺とニチカは本当に感謝しているんだ。俺達はお前のことを心の底から愛している」
そんなことを面と向かって言われたのは初めてだった。
「俺達夫婦はお前が産まれた時に誓ったんだ。何が何でもお前を一人前の大人まで育て上げる。それはニチカがここにいない理由だ」
そして初めて俺が産まれた時のこと、母親の事、自分達の旅の目的を話してくれた。
なぜ転生者とわかっていたのかを。
「転生者が産まれた場合、その赤子は青く光る」
びっくりだ。俺、光ってたんだ…。だが、1時間もしないうちにその光は収まったらしいが。
デイルとニチカは臨月の少し前に遠方の山中にある親戚の家に挨拶に行っていた。その時、急に陣痛が始まりその場で出産となったらしい。
そして産まれた子(俺)が青く光ったというわけだ。
転生者の辿る運命はこうだ。転生者だと判明すると忌み子として教会に連れていかれて最後は殺される、と言われている。
デイルもニチカもその噂話を知っていた。だが、それ以上にも俺が産まれたという事に手を取り合い、涙し、抱き合い、幸せの言葉を掛け合う二人を見た時、親類全員がその事実を隠し通そうとしてくれた様だ。
だが、どこからその情報を知ったのかわからないが、半日ほどして神官と憲兵が押し寄せてきた。
案の定、「その子は忌み子である。教会に引き渡せ」と迫ったらしい。
親類全員は我が子を渡すまいと抵抗、その後殺されたと教えられた。
デイルは生まれたばかりの俺を連れ、逃亡した。
俺にそんな過去があったなんて。
その愛情の中で俺は生かされていたなんて。
感謝してもしきれない。
「だからお前は生きるんだ。幸せになるんだ。俺達はそれだけを願っている。何物にもなる必要はない。ただ、自分の幸せを目指し、余裕があれば他人の幸せを祝える人間になってほしい。
俺はそのためならなんだってする。それが母さん、ニチカとの誓いなんだ」
「わかったよ、父さん。」
「ニー、いやソウマだったな」
「ニールでいいよ。いや、ニールがいいんだ。」
「ニール…」
「確かに俺は坂口壮真って名前があった。だけどこの世界で一番大切な人達から初めてもらったプレゼントは大切にしたいんだ。だから俺は、ニールがいいんだ」
「あぁ、あぁ、ありがとう、ニール」
初めてデイルと本気で話せた気がする。
親父と腹を割って話せた。俺が前世では出来なかった事だ。
自分の父親もそうだったんだろうか。もっとちゃんと話せばよかった。
決して元世界の両親も俺に対して愛情がなかったわけではないと思う。
俺の葬式では泣いてくれたんだろう、悪いことしたな、と今なら思う。
元世界の両親は元気だろうか。
どうか、どうか健やかでいてほしい。
そう願いながら新たに誓いを立てた。
これからもデイルと共に生きよう。
今は安全な場所を求めて逃げているだけで、俺が成人になれば何か贖罪の方法があるということ。
だから俺が成人するまで逃げきる予定である事もわかった。
俺は、この人達の「命を懸けた愛情」を守るためなら、俺の「知識」と「魂」の全てを懸けてやろう、と。
俺は夜が更けるまでデイルと話しながら、ささやかな幸せを噛み締めていた。
俺達の家(といってもただの簡素な小屋だが)は、デイルの優しさと、俺が前世の知識を活かしてコツコツと集めた薬草の匂いで満ちていた。
明日、イルルにちゃんと謝り、別れを告げ、作ってみた薬草を少し渡して、デイルと一緒に旅に出る。成人になる15歳まで逃げ切ってデイルと共にしっかりと贖罪を果たそう――。
希望に満ちた朝が来ようとしていた。
だが、束の間の安息は、夜明け間近の悲鳴と共に引き裂かれた。




