11話 【ゼニス歴1060年 ニール視点】
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!! や、やめてくれーーーー!殺さないでくッッ! ぐはぁ!!」
「火だ!火を消せ!どこの野郎だ!?」
「おらぁ!! ガキを捕まえろ!騎士団長デイルを見つけたら報告だ!」
「きゃあぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
夜明け前の静寂を切り裂いたのは、爆発音、悲鳴、そして粗暴な男たちの怒号だった。
俺はベッドから飛び起きた。
「チッ、ジャーメインの奴、早すぎる!」
デイル既に臨戦態勢。
長剣を取り、ドアの付近で雰囲気を探っている。
外はすでに地獄絵図になりつつあるようだ。
窓のカーテンが赤い炎を映している。村の簡素な家々から火の手が上がり、盗賊たちが村人を文字通り「狩って」いるのだろう。
「ニール、家の中にいろ!奴らが来そうなら裏から逃げろ!決して俺のそばに来るな!」
デイルはそう叫ぶと、長剣を閃かせ、村の奥へと駆け出した。
その背中は、さっきまでの優しい父親ではなく、全てを破壊しつくす嵐のような戦士だった。
村では聞いたことのない爆発音が聞こえている。
一体、なんなんだ。何が起こっている?
俺はイルルの事を思い出した。
「イルルの家は…?イルルのお母さんは病気で動けないかもしれない…」
イルルの家は、俺たちの小屋からはそんなに離れていない。
俺は自分のバッグと護身用のナイフを持ち、イルルの家を目指し家を飛び出した。
炎の熱が肌を焼く。
逃げたいという本能を振り切り、俺はイルルの家を目指し全力で炎の中を駆けた。
「お母さん!! お母さん!!! いやぁぁぁ!!お母さぁぁん!!!!」
イルルの家の前には、すでに二人の盗賊が立っていた。イルルは盗賊に羽交い絞めにされて捕まっていた。
そして、片方の盗賊はその家に火をつけだした。
奴らの足元には、背中が真っ赤に染まったイルルの母親が倒れていた。一目見ても無事には見えなかった。
小さな薬草の袋が落ちていた。それは、俺が昨日、イルルのために用意した薬草、カージの根が入った袋だった。
「お前が目的のガキか。ノコノコ出てきてくれてありがてぇ!」
短剣を持った盗賊が俺たちに襲いかかろうとした、その瞬間。
イルルの母親が立ち上がり、盗賊に覆いかぶさった。
「イルル!!ニール!! 逃げなさい!!! 逃げて!!!」
「おかあさん!!」
イルルは母親に抱き着こうとするが、盗賊にがっちりと両腕を掴まれており、足をバタバタさせるだけだった。
「このアマ!!何しやがるんだ!! てめえのキタねえ血が服についちまったじゃねぇか!!!」
盗賊はイルルを突き放し、イルルの母親を正面から斬った。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!おかあさぁぁぁぁぁん!!!!」
ドォン!
デイルが、まるで砲弾のように飛んできた。彼は盗賊2人の首を刎ね、俺とイルルを一瞥し、一言。
「ニール!!!逃げろ!!」
そしてまた燃え盛る村の中央部に飛び込んでいった。
俺はその場に立ち尽くした。イルルの家はすでに炎に包まれていた。
「う、嘘だ、嘘だよう…ニール、お母さん…」
イルルは腰を抜かし、座り込んでいる。
俺は、薬草オタクとして、薬師として、助けられたはずの命が、自分のエゴ(薬草採取)と、この世界の冷酷な現実によって奪われたことを悟った。
足元に倒れているイルルの母親からかすかな声が聞こえる。
「…ニ、ニール」
「!!! イルル、おかあさんが生きてる!!!!」
「おかあさん!!!」
「ニール・・・、イルルを、 おねが・・い・・」
「う、うん」
「おかあさん!?おかあさん!!!」
「…イ、ルル…」
「おばさん、もう喋っちゃだめだ!!」俺は叫ぶ。
「おかあさん!!大丈夫!?いま助けるからね!ニール!お薬を頂戴!おかあさんに飲ませなきゃ!おかあさんが、おかあさんが!!」イルルも必死に叫ぶ。
「しあわ・・・せ・・に・・なり・・、イル・・・ル」
そこでイルルの母親の事が切れた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
イルルの叫び声が非情に村に響き渡る。だが、村のあちこちでも悲鳴や怒声が聞こえており、イルルの声はその想いと共に飲み込まれていった。
呆けていた俺は我を取り戻す。
「クソッ!」
俺はイルルを抱きかかえ、走った。
デイルの指示通り、俺の家の裏から森の奥へと続く裏道へと駆け出した。
「いやだ、はなして!はなしてよ、ニール!! おかあさぁぁん!!!」
イルルは叫んでいるが、こればっかりはいう事を聞けない。
いますぐここを離れなければならない。
盗賊の目的は恐らく俺だ。
俺が逃げればいい。
だが、イルルを置いていくと間違いなく殺される。
イルルの母親に申し訳が立たない。
俺のせいでイルルの母親が死んだんだとしても、だ。
「ねぇ、なんで!?なんであの人達はこんなひどいことするの?わたしたちが何をしたの?ねえニール!教えてよ、ニールゥ・・・」
俺は答えられない。
なぜならこの騒動の原因は俺だからだ。俺の不注意と俺の慢心がこの悲劇を生んだんだ。
謝っても謝り切れない。
「ごめんな、ごめんな、イルル・・・」
俺は泣きながら走った。
死ぬ気で走った。
イルルは泣き疲れ、また母親を失った絶望から呆然としている。
これ以上、息が出来ない。小川で一口水を飲もうと足を休めた時、ガサガサと草むらから一人の男が出てきて、俺達にこう告げた。
「もう鬼ごっこは終わりか? デイルの宝物さんよぉ」
俺達は盗賊王ジャーメインに捕まり、村へと連行されたのだった。




