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6話 【ゼニス歴1060年 ニール視点】

俺達は朝の稽古、昼の仕事の手伝いと毎日忙しかったが、決してノルマがあるわけでもなく、日々タスクに追われている訳ではなかった。


要するに、子供には自由時間が多く、しっかりと遊ぶことが出来たのだ。

それだけこの村は生活に追われていなかったということだ。

そのあたりもデイルがしばらく身を置こうとした理由なのかもしれない。


俺達は自由時間、草花の研究に勤しんでいた。

ただ、村の子供達からすると煙たがられていたようだ。

恐らく原因は俺とイルルの関係性だ。

イルルは控えめに見て、美少女の部類に入るだろう。

その美少女が急に流れ着いたガキにべったりしている。

そりゃ腹も立つのだろう。


俺はそう思い、極力、村の子供達とイルルを遊ばせるように促してはみたが、当のイルルは俺の気苦労も知らず、ずっと俺の手伝いをしてくれていた。


なんだかんだ、俺もその関係に居心地の良さを感じていた。

それがダメだった。


村には数人の年上の子供がいる。

どうやらこの村に流れ着いた傭兵の子らしい。

「イサン」というらしいが、そいつを中心に悪ガキ共がつるんでいるようだった。


ある時、イサンがイルルをからかっているのを見かけた。

「おいイルル! 今日も草むしりか?」

「草むしりじゃないよ!薬草を採りに行くの。お母さんを手伝うの!」

うん。イルルはええ子や。

「へっ、でも薬草も草だろ!草むしりじゃねえか。なあお前ら!」

取り巻きのガキたちが笑う。

「草むしりじゃないっていってるでしょ! ニール!行こ!」

イルルは俺を連れて、立ち去ろうとする。

「おい!流れモン!」

おまえもだろ、と言いたくなるが、面倒なので黙っている。

「おい!!なんとか言えよ!お前も男のくせに草むしりばっかりして恥ずかしくねえのか!」

どうやら草むしり=薬草採取は力仕事の出来ない「女の仕事」という認識らしい。

「馬鹿だな」

「はぁ!?」

「薬草採取の素晴らしさが分からない奴は馬鹿だ、と言っているんだ」

「てめえ!」

イサンは俺に掴みかかろうとする。

体格は向こうの方が上。

だが、残念ながら「鬼教官デイル」との稽古を毎日行っている俺からすると、少しばかり体のデカい子供では俺の相手ではなかった。

余裕で掴みかかろうとしてきた手を掴み、逆に相手を投げ飛ばす。

所謂、一本背負いだ。

「ぐはぁっ!」

決まったな。

悶絶しているイサンを尻目に、他の取り巻きにガンを飛ばしておく。

「ひぃっ!」

しばらくはちょっかい掛けてこないだろう。


それが甘かったのだが…。


その頃、俺とイルルは森の入り口付近の大きな木と木の間に、テントを張り、見つけた薬草をしまったり、そこで乾燥させたりしていた。

概ね秘密基地のような使い方をしていた。

俺はそこを研究所と名付けた。

「けんきゅうじょ? なにそれ?」

「なんていうんだろ。秘密の場所ってことだ」

「へー。なんか面白そうだね。ワタシとニールだけの秘密の「けんきゅうじょ」だね。」

「そうだな」


ところが、ある日研究所に行ってみると、薬草が全て水浸しになっており、中身が全部ぶちまけられて、踏みつけられていた。

ご丁寧に折角作った石の器具まで壊されていた。

なんと貴重な「カージの根」まで捨てられていたのだ。


しょうがない奴らだな。また作ればいいか、その代わり一発シメるけど。と軽く考えていると、イルルが泣きだした。

「……っ、あ、う、……ごめ、なさ……い……っ」

イルルは喉をひくつかせ、必死に言葉を絞り出そうとした。

けれど、こみ上げる嗚咽が言葉を粉々に砕いてしまう。

「どうしたんだよ。犯人はわかってる。どうせアイツらだろ?

任せとけ、二度と俺達にちょっかい出せない様にシメてやるから、、、」

とイルルに言おうとすると、イルルが続ける。

「わたし、が、……っ、あんなこと、言わなきゃ、……っ、ふ、え……っ!」

ぐちゃぐちゃに濡れた顔で、彼女は何度も自分の頭をポカポカ叩いた。

「ワタシ、が、…悪いの。イサン、に言っちゃった…の。

あの子達に、いっぱいからかわれたから、「ニールはすごいんだよ!」「ワタシの病気を治してくれたんだよ!」「ここですごい薬を作ってるんだよ!」って、言っ、ちゃった・・・。

ご、ごめん、なさい…!」

そうか。だからか。

さっきあいつらが俺達を見てニヤニヤしていたのはそういう事だったのか。


よし、では薬の偉大さを奴らの身体に教えてやろう。


「泣くな、イルル。」

「ごめんなさい、ニール。折角ニールが作った薬が。ごめんなさい。ニールの、たっ、大切な薬だった、のに。わかってたのに・・・。」

「いいんだ、イルル。」

「ワタシはバカだけど!ニールの事をバカにされたのが悔しかった!ニールはすっごいんだよ!って伝えようと思ったのに。こんなことになっちゃったー。本当にごめんなさい・・。……ごめん、なさい……ごめ、ん……っ、ひぐっ……!」

俺は、今にも消え去りそうなイルルの手を握り、こう告げた。

「その気持ちだけで十分だ。ありがとう、イルル。」

「でも!」

「いいんだ。薬はまだ作ればいい。道具だってそうだ。だけどイルルは俺を庇ってくれたんだろ。勇気あるよ。それは俺の薬じゃ出来ない事だ。イルルはすごいな。」

「……う、うう……っ、うわあああああああん……っ!」


しばらくし、イルルが泣き止むのを待ち、俺は話しかける。

「さて、イルル」

「…なに?ニール」

「俺は友達が泣かされたのに、黙っているほどお人好しじゃあないんだ。仕返しするぞ!」

そう言って、カバンからある粉を取り出す。

くっくっくっ!今に見てろよ?

「ニールが怖い顔してる…」


俺とイルルは村の中心に向かい走った。

そして、俺達を見てニヤニヤしているイサンに宣戦布告した。

「よう。どうしたそんなに怖い顔して?モテモテの流れモンさん」

「やってくれたな、イサン。決着をつけてやる、かかってこい!」

「上等だぜ!」


喧嘩は五分五分で引き分けとなった。

俺は奴らの攻撃を大いに避けた。一発ももらっていない。正直、ぬるすぎる。

逆に俺からの攻撃というと、直接の攻撃と見せかけて、先程カバンから取り出した「かゆみ粉」をやつらの股間を中心に振りかける、という非常に地味な攻撃だった。

これは服の上からでも数時間はかゆみが止まらなくなるやつだ。

当然、俺は自分へのダメージを防ぐために皮の手袋をはめている。


10分程度でイサン達が疲れてしまい、喧嘩は早々に終了した。

激しい罵り合いの末、お互いが家に帰ろうと背中を向け帰路に向けしばらく歩いた時、後ろのイサン達から悲鳴が上がった。

「かかっかかっかっかか、かゆうううういいいい!!!!!!」

「うわわわあああああ!!かゆいいいいいいい!!!!」

「ああああああああ!!!!!」

イサンを中心とした3名の少年が地面を転げまわっている。

村人が集まってくる。

「どうした?」

「虫か?刺されたのか?」

村の大人たちがかわいそうな感じで3人を見つめている。

一応、数時間でかゆみは取れるはずだ。たぶん。


イルルがたずねてくる。

「ねえ、ニール」

「どうした?」

「なにかやったでしょ」

「まあな」

「ひどいよ?」

「そうか?研究成果といってくれ。」

「ひどい。…でもね。」

「うん」

「ありがとう」

「どういたしまして」

「ふふふ」

「なに?」

「やっぱり、ニールって変な子だね」

「だからよく言われるって」


翌日、イルルが家を訪ねてきた。

そして少しベソをかきながら俺にこう言った。


「お母さんが病気なの。助けてニール。」

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