表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
48/84

43話 【ゼニス歴1072年 イルル視点】

なんだろう。

すごく気持ち悪い。

ニールに言われた通り、井戸と川の水は飲んでない。

だけど患者さんと同じ症状が出ている気がする。


私、どうなっちゃうのかな。

死ぬのかな。

お母さん、デイル父さん、ニール…。

怖いよ。


少しボーっとしてたら、ガブが話かけてくれてたらしい。

「イルル⁉ 大丈夫か⁉」

ガブに気付かれたかな。

私は精一杯の笑顔で答える。


「あはは、大げさだよー。ちょっと疲れただけ。少し休憩すれば治るよ、これくらい。」

「で、でも!」

「も~。ガブは心配し過ぎなんだよ。そんなんじゃピノに嫌われるよ?」

「ピ、ピノは今。関係ないだろ⁉ でもイルル、顔色悪いぞ。本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。私は平気!」

「それならいいんだけどさ…」

「さぁ、まだまだ患者さんは沢山いるんだから。しっかりと看病するからね!」

「あ、ああ。だけどイルルまで調子悪くなったらダメだからな。俺はイルルの護衛なんだから。イルルの事を守るのが俺の仕事なんだからな!」

「わかってるって。ガブも一丁前になったね~」

「う、うるさいな!」

なんとかやり過ごしたかな?

ガブに心配かけちゃった。

ニールも頑張ってるんだし、私も出来る事を頑張ろう。


それから一時間。

私の体調は良くなるどころか悪くなる一方だ。

ヤバいかも。

身体を支えられなくなってきた。

そして私は尻もちをついた。


「イルル‼ 大丈夫⁉」

「だ、だいじょ…ぶ、だって…」

「絶対大丈夫じゃない‼ いま、ニールを呼んでくる!」


あーあ、ニールにバレちゃう。

ニールに怒られるかな。

どうしよう。私も村の人達と同じ病気になっちゃったんだね。「ますく」もしてたのに。


そっかぁ。

私、死ぬんだね。

死んだらお母さんに会えるのかな。お母さんにニールの凄さとかっこよさを伝えなくちゃ。


そう思ってたらニールが駆け込んできた。

「イルル‼」

そして私は担ぎ上げられ、ベッドに寝かされた。

これが俗にいうお姫様抱っこって奴。かなり恥ずかしい。

だけど抱っこしてくれたのが、ニールじゃなくてガブだったのは少し残念…。


そして私はそのまま寝てしまったらしい。

起きた時、ニールと目が合った。心配してくれている。嬉しいな。

でも、全然症状がよくなっていない。むしろ悪化しているよね、これ。

「……なんか、変……ちょっと、気持ち悪い」

汗かいてるな、私。汗とか流したいな。やっぱりふらつく。


「イルル!」

ニールが駆け寄ってくれて、抱き起こしてくれた。

「水は飲んでないよな?」

「……うん……井戸、怖いから……」

声が出ないよ。

あ、ダメだ。

「……っ、吐く……」

ニールはとっさに器を差し出してくれた。


最悪。もう最悪だ。


私から吐き出された中身は、どろりと黒ずみ、凄い匂いを放っていた。

それは今まで私が看ていた患者さんと同じ吐しゃ物だった。


……そっか

村の人はこういう感情だったんだ。そりゃ絶望もするよね。

この村で本気に病気と向き合っているのはニールだけだ。

私もどこか諦めてたのかもしれない。

だから病気になっちゃうんだ。

やっぱりニールは凄いな…。


ニールはなにか液体を混ぜている。。そしてそのまま差し出してきた。

「イルル、聞こえるか。今すぐ飲め」

え、いまは何も飲めないよ。飲んだら吐いちゃうし、またニールに見られちゃう。

「……無理だ、よ……気持ち、悪い……」

「いいから少しでいい、口に含め」

「わかった」

とりあえず口元へ運ぶ。

飲み込む。

ダメ。

すぐにむせて吐き出してしまった。

ああ、またニールに見られちゃった。


ニールがなにかをしている。

炭? あれ、炭だよね?

水に混ぜる。黒く濁る。

「イルル、これを飲め」

「……なに、それ……」

すごく真っ黒な液体だ。炭だよね、これ。いいの?


「毒を鎮める」

ニールが言うなら間違いないんだろうな。

私は黒い水を頑張って飲み込む。

ざらついた液体が喉を通る。

一瞬、強く吐き気が襲ってくる。でもこれ以上吐きたくない。ニールに見られたくない。

私は頑張って――飲み込む。

「……そうだ、そのまま」

もう一度。

さらにもう一度。

少量ずつ、確実に。


数分後。

吐き気が、わずかに落ち着いた気がする。

「……少し、楽……かも……」

ニールが少しホッとしてくれた。

でもダメだな。やっぱりしんどい。呼吸するのがつらい。

「……っ、は……ぁ……」


なんだろう。

身体と息が合ってない気がする。

呼吸が追いついていない。


あ、もうダメなんだ。


本当にもうダメかもしれない。

『死ぬ』ってこういう事なのかな

でも、最後にこれだけは伝えたい。


「ニ、ニール…」

「ああ、どうした?」


「あ、りがと…ね…。だ…、…き、だよ…」

ちゃんと言えた。よかった…。


そこで私の意識は薄くなっていった。

ニールが何か言ってる。

心配してくれている。

申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

ニールの顔が近づいてきた。


ああ、ニールはやっぱりやわらかいなぁ。


やわらかい?


なにが?


うん、まあいいや。

今までごめんね、ううん。

今までありがとうね、ニール。



あれ?

なんか身体が軽くなった気がする。

ああ、ニールだ。

「……ニ…ル……?」


最悪。全然可愛くない声だ。

「……ああ、いる。俺はここにいる。お前のそばにいるぞ」

嬉しいな。ニールがいてくれる。

やっぱり私はここがいいな。

おかあさん、デイル父さん、まだそっちには行けないや。



【ニール視点】

イルルの快復後、新型の病気は「黒吐病」と名付けられた。


「……聞いてくれ。この病気は、俺たちが思っているものと違う」

 ニールは静かに口を開いた。周囲には疲れ切った村人たちが集まっている。

「『黒吐病』は、ただの感染症じゃない」

ざわめきが走る。


「川の水に混じった腐敗した何か……それが体に入ると、一気に内側を荒らす。吐き気、下痢、黒い吐瀉。あれが最初の段階だ」

一人の村人が口を挟む。

「だけどあんた持ってきてくれたリオネッサの薬を――」

「使っただろう。俺も使った」

ニールは遮った。


「確かに効いている。熱は一度下がる。だが、そのあと患者は崩れる」

誰も反論できない。

「理由は単純だ。殺した菌が、最後に毒をばら撒く。それに加えて、体の水が抜けきる。血が回らなくなる」

「き、菌ってなんだよ」

「ああ、菌についてはまた後で説明してやる。」


ニールは一歩前に出る。

「つまり、こいつは三つの顔を持ってる。最初は毒。次に菌。そして最後に、体の崩壊だ」

沈黙。

「俺の薬は、菌にしか効かない。だから「途中まで」しか救えなかった。それに気付くのに時間が掛かってしまった。申し訳ない。」

俺は頭を深々と下げ謝罪する。イルルとガブもそれに習って頭を下げる

「頭を上げてくれ。誰もあんたらを責めたりしない。感謝こそすれ、あんたを責めるような恩知らずはウチの村にはいない。どうか胸を張ってくれ。お願いだ。」

「…ありがとう。様々な犠牲はあった。だが、助けられるということも分かった」

視線が集まる。


「まず毒を削る、という事。炭は毒を吸着する性質がある、それを使って体内の毒を削るんだ。全部じゃなくていい、少しでも減らす」

「次に、水と塩を戻す。これが一番重要だ。飲ませ続けろ。吐いてもいい、また飲ませろ」

「最後に、菌を抑える。そこで初めて薬が意味を持つ」

ニールはゆっくりと言い切った。


「この病気は、「何を使うか」じゃない。「いつ使うか」だ」

誰も動けない中、彼は静かに続ける。

「やり方さえ間違えなければ、助かる。……俺は、それを見た」


1か月後

リオネッサに戻る道中、俺は地図を広げていた。

黒吐病の発生地点。ヴァルネ川の流れ。そしてアステリズム神聖国の収容所の位置。


全部、繋がっている。


だが——調べれば調べるほど、アステリズム神聖国がこれを「意図した」とは思えなかった。

収容所で死んだ人間を川に捨てる。それは単なる処理だ。

遺体をどう扱うかなど、おそらく誰も深く考えていなかっただろう。

意図はない。悪意もない。

ただ——無関心だった。

だが、その無関心で死んだ人間がいる。


ヴァルナールの村長も。名前も知らない村人たちも。

意図があろうがなかろうが、俺には関係ない。

「……覚えておく。絶対に忘れない。」

馬車の揺れの中で、俺は小さく呟いた。


俺は、イルルとガブ。

医療知識を身に着けた村の生き残り約30名と共に、リオネッサに帰ってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
基本的に毎週水曜日、土曜日、日曜日の21時頃の更新を目指しています! 長期休暇期間中は、、、頑張ります!!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ