2話 【ゼニス歴1060年 ニール視点】
俺はニール。8歳の少年だ。
だが、その中身は違う。
俺の名前は、坂口壮真。 日本で薬剤師の免許を取り、製薬会社の研究所で働いていた――中身だけは「35歳の薬草オタクなおっさん」なのだ。
そうだ、所謂「転生者」って奴だ。
その頃の俺は、仕事では研究と称して、日々、様々な漢方や生薬に囲まれ薬効や毒性、副作用、副反応を研究している、どこにでもいるサラリーマン研究員だった。
ただ、昔から薬草やら草木が好きで、休日になれば山の中を散策しては様々な草や花、木の皮を採取しているどこにでもいる薬草オタク。
そう、どこにでもいる、立派な「草食」ならぬ「草男子」だった。
ある日、趣味の薬草採取で行った谷で足を滑らせ、崖から転落し、気が付いたらこちらの世界に転生していたという事だ。
ものごころ=記憶の復活と同時に、暗闇の中で焚火を見ているおっさん=親父を見たときは流石に焦った。
小さいころの俺は常に親父と二人っきりで、いつもどこかを歩いていた。
特に目的地があったわけではないと思う。
親父はデイルというらしい。
母親はニチカ。どうやら東方異国の女性らしいが、もう他界している。
母親のことをデイルはあまり語ろうとしなかった。
いつも、「やさしい女性だった」「お前のことを一番大切に思ってくれる強い女性だった」としか教えてくれなかった。
そういえば、この世界は日本や地球とは全く違う世界ではあるが、森の木も草花も見たことある物ばかりだった。ただ、どうやら名前は違うようだ。
俺は植物に興味津々だ。立派な職業病だなと自分でも思う。
友達なんていなかったが寂しくなんてなかった。
35歳だったし。
いざとなれば一人で生きられるし。たぶん。。。
どこか冷めたことろがあったガキだったが、だが、デイルは不器用なほどに優しかった。 俺が「職業病」で植物に異常な興味を示しても、嫌な顔一つせず付き合ってくれた。
「お?珍しいな。これはカージの根だ。熱を出した時に煎じて飲むといいらしい。こんなもんに興味があるのか?……やっぱりお前は面白いな。」
そう笑うデイルは、一人の人間として俺を育ててくれた。
前世の両親に期待されず、孤独だった俺にとって、この親父との時間は「天国」のようだった。
俺の知る「父親」という概念とは、あまりにかけ離れた男だった。
常に何かを警戒し、常にどこかへ移動し続けている。
どうやら俺たちは、何者かから「逃げている」らしかった。




