13話 【ゼニス歴1060年 ニール視点】
俺にはまだやらなければならない事がある。
俺はジャーメインの骸に向かう事にした。
ジャーメインはこの世のものとは思えない形相で死んでいた。
胸と喉を搔きむしり、怒り、苦痛、絶望、様々な感情が彼の最期の悲惨さを物語っていた。
俺の紫色の薬(ニワ=おそらくトリカブトなのだろう)の苦痛からの腹の一突きと正面からのデイルの袈裟斬り…、これは最早、救済でしかなかっただろう。
なんとかなった。
代償は大きかったし、もっとうまく立ち回れたのかもしれない。
でも悔やんでも仕方ない。
まずはデイルを生かし、この場から早々に逃げよう。
そのためにもイルルをどうするか、だな。
俺は改めてイルルに向き合う。
イルルはまだ呆然としていた。目には焦点がなく、誰にも触れられたくないかのように体を小さく丸めている。
恐らくだが、母親の死を目撃し、自身も人質になり、デイルの腕が斬られるなんてのをこの短時間で見せられたから、pTSD(心的外傷)の状態にあるんだろう。
このまま、イルルを放ってはおけない。
「イルル・・・」
「・・・もう嫌だよぅ。怖いよぅ。お母さん・・・。」
「俺はイルルを助けたかったんだ。俺の持っているこの知識で。
イルルのお母さんの病気を治したかったんだ。
なのに、こんなことになってしまった。本当にごめんな。」
「ニール・・・?」
俺はイルルに寄り添いながら、精神安定作用のある薬草(ハーブティー用の乾燥葉)をイルルに渡した。
「イルル、これを飲むんだ。少し落ち着くはずだよ」
「ニール?」
「君のお母さんは、いつも君を愛しているって言っていたよ。君は強く生きなきゃいけない」
「ニール、いったい何を言っているの?」
「そのうち隣の村の人や憲兵も来てくれるよ。君の助けになってくれるはずだ。」
「ニール⁉ どうしてそんなこというの?」
「俺達は行かなきゃいけない」
「私も連れてって!」
「ダメだよ」
「どうして!!?」
「また同じような思いをイルルにさせてしまう。今度は俺が死ぬかもしれない。」
「嫌だ!」
イルルは明確に否定をした。
感情をあまり表に出さない子ではあったので、びっくりしてしまった。
「イルル?」
「ニールのせいじゃない。
私が悪いの!
私が我儘をいったから、みんな巻き込んじゃった!!
村のみんな死んじゃった!!!
村がなくなっちゃった!!!!
お母さんが死んじゃった!!!!
全部、私が悪いの!!!!!
デイルさん、起きて私を殺してよ!!!!!!
悪いのは全部私なの! 早く私を殺してよ、ニール!!!!!!!!」
俺はイルルを抱きしめた。
「うぅぅううぅ、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!!」
イルルは泣いた。泣き叫んだ。
俺も泣いた。
イルルにハーブ薬草を飲ませ、イルルを寝かしつけた。
デイルはまだ寝ている。だが、血はどうやら止まっている様だ。
しかし熱は下がらない。
一刻も早く別の村に移動するべきだ。
だが、俺も限界だった。
どうやら俺も一緒に家屋の中で眠っていたらしい。
夕刻前、俺とイルルが起き出した時、デイルも起きてきた。
「ニール、起きていたか。」
「と、父さん!ごめんなさい。眠ってしまってた! 身体は大丈夫なの?」
「いや、いいんだ。うん、そうだな。大丈夫だろう。
早速で悪いがそろそろここから離れよう。」
「・・・うん」
「荷物はあるか?」
「うん、大丈夫」
「そうか、じゃあ出発だ」
「父さん、本当に大丈夫なの?」
「ああ、お前の応急処置がなければ確実に死んでいた。
ありがとうな、ニール。追手も迫っているだろうしな。
俺たちの猶予はそう長くないぞ。急ごう」
「そう、だね」
「なんだニール?そんな顔するんじゃない 俺は感謝してるんだぜ?」
「感謝なんて・・・」
「いや謙遜はいい。お前の力ってのはすげーんだな。
いいか?普通じゃありえないんだぜ、こんなの。
俺、なんで動けているんだろうな?
いままで軍でいろいろな奴の怪我を見たけど、普通はこんな直ぐには動けない。
助かっても下手すりゃ1週間以上寝込むのは当たり前なのに。」
あくまでもこの世界では、って話だ。
地球の医学であれば間違いなくもっと上手に処置できただろう。
俺に外科の技術があれば親父の腕をくっつける事も出来たのかもしれない。
俺はしがない薬剤師だ。
この時ばかりは医者になれなかった事を心から悔やんだ。
「それは止血法と感染症対策という俺の元居た世界の基礎的な知恵で・・・」
「むずかしいことはいいんだ。お前がすげーってこと、俺がお前に感謝してるってこと。
それだけでいいんだ。ありがとうな、ニール!」
「・・・うん」
「それとな、ニール」
「・・・うん」
「イルルも連れてくぞ」
「・・・うん ・・・え?」
「イルルはこれからお前の妹ってことになった」
「え?え??」
「妹、欲しかったろ?」
「え???」
「よろしくね、おにいちゃん!」
はい????
妹が出来た。




